陥落
日本から転移しハコニワで女神の祝福を受けたヨウヘイはカタリーを毛皮のマフラーのように肩に乗せ両手にはドワーフの二人を抱えている。そんなヨウヘイが訪れたのは金箔で装飾された派手派手しい天守閣だった。
「なんちゅう名前やったかな、、、ノブ?ヨシ?ヒデヤス?ちゃうなあ、、、まあええわ。とりあえず、この城は俺の趣味やないわ。」
ヨウヘイは、すっと身体に力を入れる。それに呼応するように背中からは青白い龍が勢いよく飛び立つ。その龍は、城をも覆い隠す程に大きく猛々しい。オエドの人々もその異変を直ぐに感じとり、天守閣を見上げていた。
遠目でも分かる青白い龍。そして龍は、あっという間に城にとぐろを巻き、聞こえてきた崩壊音と途轍もない量の土埃。
ほんの数秒前まで喧騒に包まれていたオエドの街は、悲鳴や怒号に変わっていった。子を抱え走り出すものや、腕に覚えのある者は互いに声を掛け武器を手に城の方へと駆け出していた。中には、座り込み世界の終わりだと嘆く者もいた。
収まらない土埃の中に人影が見える。
肩に誰かを乗せ、両手には子供らしき者が見える。そして、その口元は何か分からない物を咥えていた。
人影は、ゆっくりと往来へと降り立ち、咥えていた物を雑に路上へと転がした。
ゴロンと音を立てたそれは、生首であった。
間近で見た者は、悲鳴をあげる。そして、その生首が誰のものなのかも直ぐにわかった。
「イエモチ様、、、イエモチ様だ!!」
「領主様ーーー」
「そうそう、イエモチや。そうやったわ。」
ヨウヘイは、紅く染まった口元を緩ませて喜んでいた。
「よし、名前を教えてくれたお前を生き証人にするわな。まあ、そんなんせんでも、何人かは残るやろうけど。まあ、指名やな。お前、名前は?」
ヨウヘイにそう言われても、生首を間近でみた住人は泣き喚くことしか出来なかった。
「、、、あかんかぁ、、、。まあ、ええか。」
ヨウヘイはそう言い残し飛び去る。そして、入れ替わるように青白い龍がオエドの街を蹂躙していった。
オエドは、瓦礫と肉片が散らばる無惨な光景へと姿を変えた。
ヨウヘイは、3人を抱えドワーフが住むウエストバンクへと向かっていった。サキチとサヨは、ここまでの光景を目に焼き付けていた。そして二人の頭の中は、何故?どうして?何で?が繰り返されていた。ほんの数時間前には、ウエストバンクから続く街道を荷台に乗るメガミノオトシモノと楽しく小旅行をしていた筈なのに、帰路は予想だにしない出来事ばかりが続いている。あんなにも楽しそうにしていたヨウヘイが、この数時間で別人になったかのように恐ろしく残酷で無慈悲な存在へと変わっていった。
二人は、ヨウヘイの脇に抱えられながらただ涙をこぼしていた。この先に何が起きるのか、自分の里はどうなるのか、、、あの運動場やオエドの街を想像し涙をこぼしていた。
どれほどの時間が経ったのだろう。オエドの街では、瓦礫の山から這い出した数人生き残った住人が、ぞろぞろと往来に集まっていた。
その中にはギルドマスターのソウジロウや受付のティアもいた。
「マスター、、、なんて酷い、有り様、、」
「ああ、、、地獄だ、、、これは。」
往来は、瓦礫と肉片が溢れ返りそこら中血の海と化している。それでも生き残った住人は、生存者はいないか、怪我人はいないかと動ける者達は無我夢中で捜索と救助を繰り返していた。
ギルドの受付、獣人のティアは傷を癒やす力を持っている。ヒーラーと呼ばれるスキルであり、この力も女神の祝福の儀式で得られたものである。
ティアは、次から次に運ばれる怪我人に只管治癒を施していく。蘇生や欠損部位の再生まで出来る訳では無かったが、止血や体力回復など重軽傷者にとって命を繋ぎ止める事は可能であった。
ギルドマスターのソウジロウは、人間であったが祝福により剣技のスキルを得ている。しかし瓦礫を前にして、その剣技は不要であった。剣ではなくツルハシなど掘削に必要な道具を持ち、かつて住居だった場所を声をかけながら進んでいた。
日没。街を照らすのは月明かりと、ぽつぽつと作られた焚き火のゆらめき。
瓦礫と化してから数時間。数千人いたオエドの住人は、100人程度までになっていた。それも大半は重軽傷を追っており、ティアのようなヒーラーからの治癒を受けたとはいえ足や手を欠損した者も多く、絶望の空気が街に漂っていた。
焚き火の前で、ヘトヘトになったソウジロウとティアが数人の者達と話している。
比較的怪我が少ない者達が集まっていた。彼らはソウジロウやティアと同様、女神の祝福を受けた者達であった。
「ソウジロウ様、あの男はメガミノオトシモノでは無かったのですか?」
「、、、私もそう紹介され、今朝会ったばかりだったんだ。」
「何故、あのような暴挙に出たのか?」
「分からない、、、ヒデヤス様のように街をより良く導いてくれるものだと考えていたのだが、、、それはこちらの勝手な妄想であったのか、、、、、分からない、、、」
「マスター、彼も女神の祝福を受けたんですよね?」
「ああ、そうだろう。その為にサキチ達はオエドに来た筈だ。」
「では、あの力も祝福によるものなのですか?」
「、、、悔しいが、そうなるな。」
女神の祝福を受けられる者は、メガミノオトシモノ以外には、歴代の領主が認めた者に限られていた。
生まれつき何かに秀でた者達や、学問、体術など日々の努力を重ねた者達などであった。選民思想まではいかないが、祝福を受けた者達は、住人達から羨望の眼差しを向けられる存在だった。
祝福の儀式は、ヨウヘイのように苦痛を伴うものでは無く女神が目の前から消えるまでの数時間から数十時間地下に籠もる事で、秀でた力や重ねた努力が大きく向上するものであった。潜在的に治癒の力があるものは、ヒーラーとして能力が向上し、剣技の鍛錬を重ねたものは、より強者へと向上する。
ヒデヤスの祝福から150年。ヨウヘイのような力を得たものは誰一人いなかった。
「女神の暴走なのか、、、ハコニワの終わりなのか、、、」
ソウジロウは、美しい星空を眺めていた。
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