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もう少しだから…頑張れ時計

何とか無事に1978年の4月24日に遡り仁と真里奈は東京の荒川区の住宅街に車を止めた。


仁は安堵の息を吐き出すと

「時計は、どうだ?」

と聞いた。


真里奈は頷くと

「大丈夫みたいです」

と答え

「気になることはあるんですけど…これ以上の時戻りは危なさそうな気がして」

と呟いた。


仁は真里奈を見ると

「気になること?」

と聞いた。


真里奈は頷いて

「清香さんの言っていた清一郎さんが悪くないって自分が悪いって言っていたことです」

清一郎さんもあんなに女性を侍らせて…どこか世捨て人っぽいから

「こう言っては何ですけど事件を起こした高津光男さんに似ている気がするんです」

と告げた。


仁は腕を組むと

「なるほど」

と言い

「確かに今回の事件の原因は三つの要素が遠因としてあるからな」

と告げた。


真里奈は仁を見た。


仁は指を立てながら

「一つは吉田律子が店の客を家に連れ込んで関係を持っていることだな」

と告げた。

「こう言っては何だが…手当たり次第にしていたら多田朱利のような女性や関係がばれるとヤバいと考える男性が出て来て、こういう事件が起きる可能性は一般よりは遥かに高い」


真里奈は「ですよね」と呟いた。


仁は更に

「二つ目は多田朱利の夫の治人が家のことを彼女に任せて自分は外で女を作りまくっているということだ」

結婚して子供を産んで夫が外で女性を作りまくって平気な女性は早々いないだろう

「男女の修羅場の典型だな」

と告げた。


それも真里奈には納得の理由である。

「そうですね」

そう答えた。


仁は三本目の指を立てて

「最後は山王寺清一郎だな」

既婚女性も独身女性も関係なく侍らせて関係を持つというのは

「女性同士の争いを生むようなものだ」

遅かれ早かれ清一郎を巡って事件が起きたかもしれない

と告げた。


真里奈は俯いて

「…かも、ですね」

と呟いた。


彼女の好きな山王寺蓮の曾祖父か、祖父か、もしくはどういう形かは分からないが血縁者である。

しかも、よく似ているのが余計にショックのパンチ力を強めた。


仁は言った後でハッとすると

「あー、真里奈ちゃんが好きな山王寺蓮がそうだと言っている訳じゃないからな」

冷静になって考えてくれ

「山王寺清一郎は彼じゃないんだ」

と慌ててフォローを入れた。


真里奈は仁を見て微笑むと

「仁さんって本当に優しいですよね」

と告げた。

「私、大丈夫です」


仁は目を細めてそっと彼女の髪に手を伸ばして

「ま、俺は見守りおじさんみたいなものだからな」

と微笑んだ。


真里奈はそれに鼓動が早くなるのを感じながら

「なんか…ドキドキする」

と心の中で呟いた。


ただこのドキドキがどんな名前を持つモノなのか…今の真里奈には思いつかなかったのである。


そして2人はその三つの遠因をどうにかするべく行動を開始したのである。

空には登りかけの太陽が輝き、東京の街では少しずつ人々の活気が広がり始めていた。


君に辿り着くための事件推理


多田朱利の自宅は町田駅から少し南下した荒川南公園の近くにあった。

吉田律子が発見された階段から少し離れた場所である。


2人は彼女の家の近くに車を止めて子供を学校へ送り出した後に化粧をして出かけようとしている多田朱利を見つけた。


恐らく山王寺清一郎のところへ行くのだろう。

仁と真里奈は車から降り立つと彼女の元へ足早に進んだ。


仁は多田朱利の前に行くと

「多田、朱利さんですね」

と言いチラリと警察手帳を見せた。

「少しお話を」


朱利は驚いたように周囲を見回し

「あ、あの…私は何も」

と言いかけた。


仁は笑むと

「勿論です、貴方が…と言うわけではありません」

少しお話を聞きたいだけです

と周囲を見回して喫茶店へと誘った。


朱利は頷いて仁の後について喫茶店の中へと入った。

仁はコーヒーを頼み真里奈は2人の後ろに付いて行き、それとなく朱利の後ろの席に座って聞き耳を立てた。


仁は緊張する朱利に

「実は貴方のご主人と貴方が通っている山王寺清一郎の件です」

と告げた。


朱利はハッと顔を上げて

「…もしかして吉田律子という女性から何か」

と告げた。


仁は唇に指先を当てて

「何か心当たりが?」

と聞いた。


仁は事件一か月前の彼女が何処まで知っているか確認し山王寺清一郎のところへ通う事と夫と話し合う事を勧めようとしていたのである。

が、どうやら事態はもっと進んでいるようであった。


朱利は俯き

「その…夫が彼女と関係をしていることも知っています」

夫は家のことは私に任せて外であんな女に貢いで

と顔を顰めた。

「その上、優しい清一郎さんにあの女がつけ込んで…関係したことも」

だから


仁は「だから?」と先を促した。


朱利は仁を見て

「嫌がらせの手紙を…何通も送って」

と俯いた。


真里奈は驚いて目を見開くと

「そんなことが」

と心で呟いた。


仁は息を吐き出すと

「いえ、俺が貴方に聞きたかったのはそういう事ではなかったんですが」

と言い驚いて仁を見た彼女に

「山王寺清一郎氏のことで知っていることを」

と告げた。


朱利は肩の力を抜くとはぁ~と息を吐き出した。

が、仁はそれを見て

「けれど、貴方がしていることは犯罪になる可能性があるので辞めることを勧めます」

ましてそれが高じて相手を呼び出して害してしまう可能性もあります

「そうなってしまっては貴方のお子さんは傷つくでしょうし吉田律子さんのお子さんにも深い傷を残します」

貴方も周りも不幸になる

と告げた。


朱利は俯いたまま手を握りしめていた。


仁は息を吐き出し

「貴方の夫の多田治人さんに関してはお二人で話をしてください」

俺もそれとなく忠告を

「あと山王寺清一郎のところへはもう通うのを辞めた方が良いとは思いますが」

と告げた。

「それで貴方が知っている範囲で良いので山王寺清一郎のことを教えてもらいたい」


朱利は戸惑いながら

「もしかして清一郎さんが何か事件に?」

と聞いた。


仁は笑むだけで

「それは、現段階ではお話できません」

と告げた。


朱利は諦めたように

「私が知っていることは清一郎さんのお父様は御病気で亡くなった事と…これは本当か嘘か分かりませんが私を誘ってくださった近所の奥様から清一郎のお母さまが昔に強盗に入られて殺されたという事ぐらいです」

それで叔母の清香さまとお二人で暮らしていると

と告げた。

「それ以外は全く」


仁はメモを取りながら

「分かりました」

ご協力ありがとうございます

と告げて立ち上がった。


朱利は頭を下げて

「いえ…こちらこそありがとうございます」

と立ち上がると店を出て踵を返すと自宅の方へと帰っていった。


真里奈は仁のところへ駆け寄り

「大丈夫かしら」

と見つめた。

が、仁は冷静に

「大丈夫だろ」

警察にチェックを入れられたと分かると怖くなって手を引くものさ

と告げた。

「彼女も普通の主婦だからな」

子供は可愛いものさ


そう言って

「次は多田治人だな」

と駐車場に戻ると多田治人が勤めている新宿のビルへと向かった。


ビルは立派な12階建てでエレベーターが付いていた。

その7階フロアで多田治人は経理の仕事をしていたのである。


仁は受付で彼を呼び出すと手帳を見せて

「初めまして」

と言い

「貴方にお話を」

と告げた。


治人は驚いて汗をかくと

「あ、あの何か?」

と聞いた。


仁は周囲を見て

「ここでは」

と言い正面のビルの一階にあるレストランへと連れて行った。


真里奈も慌てて2人の後ろの席に座り声を殺してジュースを飲んでいた。

「これで二杯目だわ」

次は砂糖のない紅茶にしよう

などと余り意味のないことを考えていた。


治人は緊張しながら

「あの俺は何もしていないですが」

と告げた。


仁は頷き

「分かっています」

これは事件の捜査ではなく事件を未然に防ぐための話です

と告げた。


治人は驚いたものの

「は、はあ」

と答えた。


仁は彼を見ると

「貴方が赤阪のキャバレー『パールクレイ』で『あずみ』こと本名の吉田律子さんを指名し関係を持ったことは分かっています」

と告げた。


治人は慌てて

「あ、いや…確かにその」

と言いかけた。


仁は息を吐き出し

「実は奥さんにある捜査のご協力をいただいた時に偶然…なので事件にならなくて良かったのですが奥さんは貴方が彼女と関係を持っていることを知っています」

そして彼女に対して抗議のようなことを

と告げた。


治人は驚いて

「え!?朱利が」

と言い息を吐き出して頭を下げると

「申し訳ありません」

しかし妻もその…寂しい部分があったので…

と続けかけた。


仁は首を振ると

「いや、被害届は出ていないし彼女の事情も事情なのでこれ以上しなければ刑事事件に発展することはないと思います」

と言い

「ただ貴方が彼女の気持ちを収めてあげなければ」

高じて事件になる可能性もゼロではありません

「彼女は寂しさの為に道を誤る前に2人で話し合う事をお勧めします」

お子さんの為にも

「お二人の為にも事件になる前にこの様な形で分かったのは幸いだと思います」

と告げた。


治人は頭を下げると

「ありがとうございます」

朱利とは話し合おうと思っています

「彼女も…男のところへ行っているので…俺のせいでもあるんですけど…まあ…」

と告げた。


仁はそれに

「男と言うのは山王寺清一郎ですね」

貴方が女性を外に作らずきっちり話をすれば彼女はもう行かないと思います

「向き合って夫婦でゆっくり話し合ってください」

喧嘩することなく

と告げた。


真里奈は聞きながら

「仁さん…すごーい」

と心で拍手した。


治人が会社に戻り仁もレストランに出るのに合わせて真里奈も外へと出た。

仁は息を吐き出し

「さて、次は吉田律子か」

と呟いた。

「これで上手く行ってくれればいいが」

人の心も男と女の機微も難しいからな


真里奈はそれに笑顔で

「でも仁さんの言葉届いていると思います」

奥さんも旦那さんもきっと話し合ってくれると思います

と告げた。


仁はこれまで多くの事件を見てきたので真里奈ほど楽観視はしていなかった。

が、真里奈の喜ぶ顔を見ると

「まあ、そうあって欲しいな」

と言うにとどめたのである。


あの事件が起きれば…どこかで自分の姉や山王寺蓮が命を落とすかもしれないのだ。

此処まで動いたのだ。

彼女の為にも自分の為にも止めたい気持ちはあった。


太陽はいつの間にか南天に差し掛かり正午を知らせている。

仁は車を江戸川区の近くまで走らせると

「吉田律子に会う前に腹ごしらえといくか」

と告げた。


真里奈は「飲み物は紅茶と決めてます」とにっこり笑った。


仁は思わず

「何故!?」

と心で叫んだが、レストランに入り食事をとった。


真里奈はその時に

「あの、清一郎さんのところへ行く前に清一郎さんのお母さんが強盗に襲われたこと」

調べてみた方が良いかもと

と告げた。


仁は生姜焼きを食べながら

「あー、そうだな」

俺もそれは少し気にかかっていた

と言い

「吉田律子と会った後に調べるか」

と告げた。


食事を終えると2人は江戸川区にある吉田律子が光男と暮らしているアパートの近くに車を止めて尋ねた。

光男は小学生で学校へ行っており、律子は家にいた。


出掛けるのは夕方だったのである。

彼女は髪の長い妖艶な女性でどこか新潟で会った時の高津光男に似ていた。


「あら、私の客じゃないわね」

でも良いお兄さんだわ


真里奈は横から顔を出して

「お話があるんです」

と告げた。


律子はクスッと笑うと

「あらあら、女付きで来るなんて」

何かしら

と告げた。


仁は彼女を見て

「貴女が男性を連れ込んで関係を持っていることは知っているんだが」

と告げた。

律子は「そうね」と答えた。

「もしかして不義密通で訴えるとか?」

そうクスッと笑った。


仁は息を吐き出すと

「いえ、貴女がそれによって被害に遭う事になるので辞めた方が良いと」

本気で誰かを愛してなら良いと思うが

「手当たり次第に人の夫にも手を出すというのは危険だと」

と告げた。


律子はチラリと仁を見て

「あら、もしかして私が不倫の末に殺されるとでも?」

とクスクス笑った。


まあ、百戦錬磨の海千山千の女性である。

仁は息を吸い込んで口を開きかけた。


瞬間に横から真里奈が

「そうです!」

一か月後に殺される危険があるので辞めた方が良いです

とどーんと告げた。


仁は驚いて

「またかーい」

と思わず心で叫んだ。


律子は真里奈を見て

「貴女何言ってるの?」

と聞いた。


真里奈は真っ直ぐ彼女を見て

「貴女が多くの男性を連れ込んで関係を持っていて」

挙句に殺されてしまったことで

「光男さんは…あんな事件を起こしてしまったんです」

と告げた。


律子は驚いて

「光男を知っているの?」

と呟いた。


真里奈は頷いて

「律子さん、貴女が光男さんの為に彼を可愛がってくれる父親を見つけたい」

家庭を築きたいと思っていると私は思います

「でも家庭を持っている男性にも奥さんもお子さんもいます」

どちらも不幸になります

と告げた。

「多田朱利さん…家の中に旦那さんやお子さんと笑っている写真を飾ってました」

貴女と同じで家庭を大切にしたいと一緒に旦那さんやお子さんと笑っていたいと思っていると思うんです

「だから…その…ちゃんと…言葉見つからないけど」

幸せになる相手を見つけてください


仁は思わず真里奈を見て汗を流した。

「もう、色々ぐちゃぐちゃだな」


律子は暫く黙っていたが急に笑うと

「そうね」

多田さんも町田さんも

「いえ今まで関係を持った男はけっきょく奥さんと子供を選んだわね」

とポロリと涙を落した。

「私だって光男や私を愛してくれる夫が欲しいわ」

光男の父は家を選んで私を捨てたし


真里奈は彼女を見ると

「でも、光男さんを引き取ったのはお父さんの高津さんです」

その…本当の息子かDNA鑑定はされたみたいですけど

と告げた。


律子は目を見開いて

「…なぜそこまで?」

と聞いた。


真里奈はギクッとして

「あー、その…未来から来たので」

としどろもどろと答えた。

「私つい…もう色々ぐちゃぐちゃにした気がします」

でも

「貴女が不幸な死を遂げることで光男さんが誰かを不幸にするのを止めたいんです」

それに巻き込まれて苦しむ人も沢山生まれます


「どうしたらいいかの答えまでは…出せなくてすみません」


律子は息を吐き出してクスクス笑った。

「面白いお嬢ちゃんだわ」

そうね

「高津は私に疑惑を持っていたのね」

確かに新潟でも…


彼女は息を吐き出すと

「帰ってちょうだい」

もうすぐ仕事だから

と言うと2人を追い払うように腕を払って戸を閉めた。


仁は息を吐き出すと真里奈を見て

「行こうか」

と告げた。


真里奈は頷いて

「すみません」

と答えた。


仁は歩きながら笑むと

「まあ、もう少し時間を置いてから来ればいいさ」

こういうのは聞き込みしていればあるあるだ

と告げた。

「多田朱利の方は大丈夫だと思うから一か月後の事件は恐らく起きないだろう」

問題ない


「今日は滞在するホテルを探そう」

明日は真里奈ちゃんが言っていた山王寺清一郎の母親の事件を一応調べて

「先に山王寺清一郎の件を片付ける」


真里奈は頷くと

「はい」

と答えた。


ホテルは大手町の近くにある東都グランホテル大手町で取りゆっくり身体を休めると翌日は桜田門の近くにある国立図書館へと向かった。


そこで2人は新聞を遡りながら探し、大きな記事になっているのを見た。

『資産家山王寺家の婦人 強盗に襲われる』

というセンセーショナルな見出しがついていた。


真里奈はそれを見つけて

「仁さん、これです」

と告げた。


仁はそれを見ると

「1958年の11月14日か…ちょうど20年前だな」

と呟いた。

「当主の山王寺清一が病死して一年後に強盗か」

不幸続きだな

「家の中には家政婦の金子珠美と義理の妹の山王寺清香と…息子の山王寺清一郎と被害者の美江の4人か」

警備員が門にいて見回りはしていたようだな

「だが広すぎたのが裏目に出たという感じか」


真里奈は読みながら

「窓ガラスが割れる音がして直ぐに悲鳴があって…駆けつけたら奥さんの山王寺美江さんが倒れていて清香さんと清一郎さんが抱き合っていたという事みたいですね」

と告げた。

「清香さんが強盗に入られたと証言して中も荒らされ、窓ガラスが割られていて行方を追ったけれど見つからなかったと書かれています」

お手伝いの珠美さんはちょうど門で警備についていた方にお茶を差し入れしていて一緒に駆けつけたという事みたいです


仁は腕を組むと

「何故、それ以上調べなかったのか…だな」

と呟いた。


真里奈は首を傾げた。

「調べたみたいですよ」

犯人の行方は追っていると思いますけど


仁は新聞を見て

「東都新報社か」

行ってみた方が良いかもしれないな

と告げた。


真里奈は頷いて

「はい」

と答えた。


2人は東都新報社に行くと仁は警察手帳を見せると

「実は20年前の1958年に起きた山王寺美江夫人強盗殺人事件を極秘で調べていまして…この記事を書いた記者はまだご健在ですか?」

と聞いた。


受付の女性はそれを手にして新聞デスクの内線に電話を入れて事情を話した。

すると一人の男性が降りて来て

「その記事を書いた記者は定年してまして」

でも資料も残っていますし

「私も駆け出しの頃だったのでよく覚えています」

と告げた。


仁は応接室に案内されソファに座ると

「…見覚えがあるソファだ」

まあ一年前のことだからそうか

と心で突っ込みつつ

「当時の指紋採取とかはあれなんですが」

山王寺家での噂とかそういうモノをお聞きになっていなかったと思い

と告げた。


男性は頷き

「ああ、確かに指紋採取とかは警察の方が詳しいですよね」

犯人の指紋が残っていなかったと手袋でもしていたのではないかと聞きましたけど

「噂と言うと…事件の前に病死した当主の清一は結構モテていて浮いた話も色々」

と告げた。

「家政婦と出来ていたとか…そう言う下世話な話も」

ああでもその家政婦の金子珠美には門番と一緒にいたというアリバイがありますし

「それに一年後にはその門番と結婚していますからね」


仁は「なるほど」と呟いた。

「その門番は今」


男性は資料を捲り

「ここです」

名前が川原仁夫ですね

と紙を見せた。


仁は目を見開くと

「…なるほど」

と呟いた。

そして取材内容のコピーを貰うと真里奈と東都新報社を後にした。


ホテルに戻ると深く息を吐き出し椅子に腰を掛けた。

正面に座り真里奈は

「どうしたんですか?」

と聞いた。


仁は仰ぐように天井を見上げると

「俺の祖父だ」

と告げた。


真里奈は目を見開くと

「という事は、家政婦さんは…お祖母ちゃんですか?」

と聞いた。


仁は頷いた。

「まあ、俺も姉も会った事は無いけど」

祖母は父が幼い頃に亡くなったという事は聞いたけど


真里奈は「そうなんですね」と言いコピーを見ながら

「その、仁さんはどうして噂を気にしたんですか?」

と聞いた。

「何か裏があるみたいな感じなんですか?」


仁は真里奈を見て

「何故?」

と聞いた。


真里奈は腕を組んで

「う~ん」

私が新聞の記事を読んだ時に何か気付いた感じだったので

と告げた。


仁は笑むと

「真里奈ちゃんは鋭いな」

と言い新聞のコピーを渡すと

「よく読んでみて感想を聞かせてくれ」

と告げた。


真里奈は頷いて記事をジーと見つめた。

そして暫くすると

「おかしいんですね」

と呟いた。

「ガラスの割れた音の後に悲鳴がして直ぐに駆けつけたら犯人は逃げて行ったという話なのに」


…家の中は荒らされていた…

「そんな時間があったのか?と言うお話ですか?」


仁は頷いた。

「それだ」

そこで疑われそうなのは義理の妹の清香だが

「ただな、凶器が見つかったのは現場から離れた新宿の駅のゴミ箱だ」

警察も彼女を疑っていたので見張っていたので捨てに行く暇はなかったそうだ

「それで捜査が行き詰ったと考えた方がいいな」


真里奈は「そうなんですね」と言い

「仁さんはどう思っているんですか?」

一年前に会った時に

と聞いた。


仁は口元に指を当てて

「そこだな」

確かに彼女は何かを隠していると今なら思うが

「殺してはいないと思う」

と告げた。


真里奈も頷いて

「私もそう思います」

と言い

「それに気になることがあるんです」

と告げた。


仁は彼女を見て

「真里奈ちゃんの気になることはためになる」

言ってくれ

と告げた。


真里奈は頷いて

「あのお屋敷って広いですよね?」

しかも門のある場所から入口までにお庭があるし

と告げた。

「かなり大きな悲鳴ならまだしもガラスの割れる音まで聞こえるのかなぁって」

門番の人や家政婦さんが言っているのでそうなのかもしれないですけど

「もしお二人が何かの理由があって清香さんを庇おうとかあって口裏を合わせていたら別ですけど」


仁は目を見開いて真里奈を見た。

「いや、まさか」

そのメリットがないだろ

「だがもしそうなら…清香を見張っていても門番や家政婦までは見張らないから新宿の駅に捨てに行くのは可能だ」


仁は息を吐き出し

「よし明日どちらも一気に解決に行くぞ」

と告げた。


翌日の朝、2人はホテルを出ると車で山王寺家へと出向いた。

一年後に来た場所である。

車を駐車場に止めて大きな門前に来ると呼び鈴を押した。


すると、一年後に出てきた家政婦が姿を見せて

「どちら様でしょうか?」

と告げた。


仁は警察手帳を見せて

「一年後の話だがデジャブだな」

と思いつつ

「山王寺清一郎さんにお話が」

と告げた。


家政婦は驚いて

「は、はい」

どうぞ

と2人を中へと入れて大きな庭に面した縁側で女性を侍らせている山王寺清一郎を見た。


清一郎は家政婦と2人を見ると

「だれ?」

と聞いた。


家政婦は小走りに近寄り

「警察の方でございます」

と告げた。


清一郎は立ち上がると女性たちに

「さあ、今日はここまでだ」

さようなら

とあっさり帰らせて仁と真里奈の前に進むと

「どうぞ」

と中へと案内した。


まだ吉田律子の事件は起きていないので尋ねた理由が分からないという事なのだろう。

仁と真里奈は中へ入り、一年後に案内されたと同じ広間に座ると

「「デジャブ」」

と同時に心で突っ込んだ。


そこに家政婦から連絡を受けたらしい山王寺清香が姿を見せた。

「警察の方と聞きましたが」


仁は頷いて

「いや、事件ではなく実は事件になる前のお話で」

と告げた。


清一郎は「ほう」と呟いた。


仁は息を吸い込んで吐き出し

「山王寺清一郎さん、貴方が人妻などを気にせず先のように女性を呼び寄せて不倫をしているという事で罪を犯しそうになっている方がいました」

いえ放置していたらそうなっていたでしょう

「それで」

と告げた。


清香は顔を顰めて

「彼女たちが押しかけてきているだけで清一郎が呼んでいる訳ではございません」

侮辱も甚だしい

と部屋の隅に座り告げた。


清一郎は笑って

「いや」

俺のせいでもあるよ

と肩を竦めた。


真里奈は清一郎を見て

「犯罪が起きたら旦那さんだけでなく子供さんだってどんなに心に傷を負うか」

遊びだったら貴方にも相手にも良くないです

「…その、本気なら私たち馬に蹴られちゃいますけど」

と告げた。


仁は蒼ざめながら真里奈を見て

「……何を言い出すんだ」

真里奈ちゃんは

と心で突っ込んだ。


清一郎は目を見開いてみて真里奈を見るとくすくす笑って

「面白い子だね」

と言い

「確かに…人妻は…子供が犠牲になるか」

分かりました

「人妻はこれからお断りします」

とあっさり答えた。

「それで良いですね」


仁は余りのさっぱり感に

「あ、は…はあ」

と告げた。


真里奈は安堵の息を吐き出したものの深く吸い込むと

「あの…もう一つ」

これは清香さんにもお話があります

と告げた。


それに清香は「え?」と真里奈を見た。

清一郎はすっと真里奈を見た。


仁は「まさか」と思うと

「真里奈ちゃん」

と呼びかけた。


真里奈は2人に

「あの…山王寺清一郎さんと奥様の美江さんは愛し合っておられましたか?」

と聞いた。

「その、清一郎さんを大切にされておられましたか?」


それに清香はギョッとした。

清一郎は表情を消すと

「何故?」

と聞いた。


仁はその表情に始めて清一郎の本当の顔を見た気がしたのである。


真里奈は「私頑張るからね、山王寺君」と心で呟き

「清一郎さんの雰囲気が…その…自分は母親に愛されていないって言っていた人に雰囲気が似ていたので」

それに子供を大切にする人を凄く気にしていたので

「もしかしたら清一郎さんのお母さんは清一郎さんにつらく当たっていたのかもしれないと思いました」

と告げた。

「20年前に起きた強盗事件…本当は…その…強盗じゃないのかもと」


清香は慌てて

「な、何を言っているんですか!」

と告げた。

「あれは強盗事件です」

清一郎は三歳だったのですから


真里奈は頷いて

「清一郎さんがなんて思っていません」

と言い

「私は」

と続けかけた瞬間に仁が真里奈の腕を掴むと

「真里奈ちゃん!」

と言い

「戻るぞ」

と立ち上がって引っ張った。


真里奈は「ええ!?」と叫んだ。


仁は慌てて

「良いから!」

と言うと真里奈を無理やり立たせて屋敷を急いで飛び出たのである。


清一郎はその場に座ったまま表情を無くした状態で開け放たれた障子を見つめていたのである。


仁は屋敷を出ると

「真里奈ちゃん、あのまま俺達があの場にいたら」

殺されていた

「それくらいの表情でアイツは見ていたぞ」

と大きく息を吐き出した。


真里奈はショボーンとすると

「すみません」

と告げた。


仁は首を振ると

「だが、一つだけわかった事がある」

あの事件はやっぱり強盗殺人じゃない

「恐らく山王寺清香が…何かの理由があって」

それに警備員と家政婦が加担したと思う

と告げた。

「もしかしたら君の言ったことは当たっていたのかもしれない」

山王寺清一郎はネグロイドを受けていたのかもしれない


真里奈は目を見開き

「あの高津光男さんが胸に沈めていた闇のような気持ちを」

と呟いた。


2人が車で立ち去った時、清一郎は清香に

「あの真里奈って子」

恐ろしい子だね

「純粋で真っ直ぐで…でも…何かを見抜く目を持っている」

と告げた。

「あの事件の真実にも気付くかもしれない」


清香は清一郎を見て

「そんな」

と小さく呟いた。


仁はホテルに戻ると

「取り敢えず外堀から埋めていくしかないだろ」

と言い

「強盗事件の解決は後にして吉田律子の事件が先だ」

と告げた。


真里奈は頷いて

「はい、ごめんなさい」

と告げた。


仁は笑むと彼女の頭を撫でて

「いや、真里奈ちゃんがあそこであれくらい言わなかったら…恐らく仮面を被った清一郎の本当の顔は見れなかったさ」

と告げた。


真里奈は笑むと

「ありがとうございます」

仁さん

と告げた。


仁は息を吐き出し

「だが、遡って…遡って…山王寺家に行きつくとはな」

と呟いた。

「それに俺と姉の祖父母にな」


…もしかしたらその強盗殺人事件が全ての発端かも知れないな…

仁はそう告げた。


真里奈はそれに

「だとすれば、その事件を止めれば…本当に山王寺君を、仁さんのお姉さんを助けられますね」

と笑みを浮かべた。


仁は「ああ」と答え

「だが、その時戻りの時計がどこまで耐えられるかだな」

と告げた。


真里奈は時戻りの時計を手に

「そうですね」

と答えた。


…もし時計が壊れたら…


真里奈は目を閉じると

「私たち戻れないのかも」

と呟いた。


仁は笑むと

「大丈夫だ」

もどれる

「そう信じよう」

と告げた。


そして、仁は

「明日、吉田律子のアパートに行ってもう一度説得してから…川原家へ行こう」

そこで詳しく聞こう

と告げた。

「家なら俺が知っている」


真里奈は頷いた。


夜は深々と降り2人は太陽が昇ると早速吉田律子のアパートへと向かった。

が、そこに彼女の姿も光男の姿もなかった。


隣りの部屋の男性に聞くと

「彼女なら引き払って新潟へ行ったよ」

何でも息子の父親に会いに行くと言っていたな

と告げた。


真里奈と仁は顔を見合わせて笑むと立ち去った。

そして、仁の知っている祖父母の家へと向かったのである。


そこには仁夫が男の子と暮らしていたのである。

仁は男の子を見ると

「うぉ、親父の子供の頃か」

と心で突っ込みつつ、仁夫に

「初めまして川原仁夫さんですね」

と告げた。


仁夫は不思議そうに仁を見て

「あ、ああ」

と告げた。


真里奈は心の中で

「なんか、仁さんに面影がある」

と呟いた。


仁は仁夫に

「山王寺家のことです」

と告げた。


仁夫は驚いて視線を逸らせると

「俺は知らない」

と言うと戸を閉めかけた。

足を入れて止めると

「俺は助けたいと思って貴方に話を聞きに来た」

あんたの孫娘はその事件が発端で死ぬことになる

「俺の姉だ」

川原心音という

と告げた。


仁夫は動きを止めるとジッと仁を見た。

仁は息を吐き出し

「信じるか信じないかは任せるが」

俺はあんたの孫だ

「川原仁という」

そう言って警察手帳の全てを見せた。


仁夫は驚いて手にすると

「まさか」

と呟いた。

「いや、まさか…奥様の呪いが…いや呪いなど」

そう言って息を吐き出すと家の中にいた子供に

「仁彦、少し外で遊んできなさい」

と告げた。


子供は笑顔で

「はーい」

と答えると外へ出て行ったのである。


仁夫は2人を中に入れると台所に座らせて

「それで何を」

と聞いた。


真里奈は仁を見た。

仁は頷くと

「山王寺美江さんを殺したのは清香さんですね」

と聞いた。


仁夫は首を振り

「いや、あれは誰のせいでもない」

増して清香さんがなどと

と言い

「山王寺清一郎さんの父親の清一さまと美江さまは政略結婚だった」

だが美江さまは心から清一さまを愛されていた

「もちろん清一さまも美江さまを妻として愛しておられた」

ただ清一さまはオモテになられて社交界では噂の絶えない人で美江さまは不安だったんだろうと思う

「清一さまも山王寺家の資産の管理もありしかも口下手な方で会話がない分だけ疑心暗鬼になられた」

と窓の外を見つめ息を吐き出した。

「珠美はそんなお二人に仲良くなってもらいたいと奮闘していたのだがそれが裏目に出て美江さまに誤解をされてしまってな」

それはまだよかったが

「清一さまが事件の1年前の11月22日に突然流行り病で亡くなると美江さまは心を壊されて…清一さまによく似た清一郎さまに暴力を」

そしてあの日も美江さまは暴力を振るい庇っていた清香さまにも危害があるのを見かねた珠美が止めに入って


真里奈は目を見開くと

「まさか、家政婦の珠美さんの方が」

と呟いた。


仁夫は頷いて

「包丁を出して刺そうとした美江さまと揉み合いになって弾みで」

と俯いた。

「その死ぬ間際に…美江さまは『私を裏切ったお前たちの血を呪ってやる』と」

清香さまは自分たちを守った珠美を思い強盗事件に

「しかしその重みに珠美は耐えられなくて…仁彦を生むと間もなく」

清一郎さまも心に傷を負われて

「それであのようになられたのだと思います」


仁も真里奈も息を飲み込んだ。


2人は仁夫に礼を言うと家を出て街中を歩いた。

それが巡り巡ってあの事件を導いてしまったのかもしれない。


黙って歩く仁の手を真里奈は握ると

「解決しましょう」

それで現代に戻りましょう

「仁さん」

とニコッと笑った。


仁は頷くと

「ああ」

と答えた。


真里奈は仁に

「あの、明日やっぱり私清一郎さんに会ってきます」

それから清一さんの生きていた時間に戻ってあの事件の本当の解決をしましょう

と告げた。


仁は笑むと

「真里奈ちゃんは強いな」

と言い

「わかった、そうしよう」

と告げた。


翌日、2人は清一郎に会いに山王寺家を訪れた。

清香は仁と真里奈を睨み清一郎は庭に向かって座ったまま

「戯言をどうぞ」

と告げた。


仁は「これが本当の顔か」と心で突っ込んだ。

真里奈は気にした様子もなく

「はい、戯言を好きに言います」

と答えた。

「私、全てお聞きしました」

それでその事件を解決しに行こうと思います


清一郎はチラリと彼女を見た。

「…」


真里奈は笑顔で

「仁夫さんは清一郎さんのお父様とお母さまは愛し合っていたと」

心が少しすれ違っていただけだと言っていました

「だからその心をちゃんと結べばきっと新しい未来を紡げると思います」

と告げた。


清一郎は息を吐き出すと

「本当に戯言だ」

過去を変えれるわけがない

「ましてそんなことをして君に何の意味がある」

と吐き捨てるように言った。


真里奈は微笑み

「私、未来で山王寺君と恋愛を始めたいんです」

彼との未来に辿り着くために時間を遡ってきたんです

「だから意味が大いにあります」

と言い、手を伸ばして清一郎を抱き締めると

「きっとこうやってお母さまが貴方を抱き締める未来を作ってきます」

と告げた。


清一郎は目を見開いて驚くと真里奈を見つめた。


真里奈は笑むと

「清一郎さんは山王寺君にそっくりですね」

貴方に未来を心から笑える未来を作ってきますね

と告げた。


仁は息を吸い込み吐き出すと

「行こうか、真里奈ちゃん」

と告げた。


真里奈は頷くと

「はい」

と答えた。


清一郎は慌てて立ち上がると涙を落して

「…君を…信じてもいいだろうか?」

と聞いた。


真里奈は笑顔で

「はい」

と答えると立ち去った。


清香は泣き崩れる彼を抱き締めると

「今は泣きなさい」

清一郎

と優しく告げた。


真里奈と仁は車に戻ると吉田律子の事件があった5月25日まで留まり、事件が起きなかったことを確認すると安堵して荒川区の公園に車で移動して時を遡ることにしたのである。


ぎこちない動きであった。

だが。

真里奈は仁と手を重ねながら

「お願い…時戻りの時計」

示す時に誘え

と告げた。


周囲に激しい雷光が輝き2人は目を閉じた。

気付くと車の中ではなく公園で倒れていたのである。


車は何処にもなかった。

だが、真里奈も仁も無事に1957年の11月10日…清一が死ぬ前へと遡れたのである。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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