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事件の輪廻が誘う

夕闇が東の空から追いかけて来て生い茂る木々が闇の速度を上げるようにそこここに暗がりを作っていた。


その間を縫うように林一馬は自転車で舗装された山間の坂道を下っていた。

中学生になって野球部に入った。

練習は厳しかったが高校でも野球を続けて甲子園を目指すつもりであった。

「親父は甲子園行けなかったけど俺は行ってやる」


夏の甲子園の放送が始まると父親は何時も

「俺もなぁ、高校球児で甲子園を目指していたんだぞ」

地区予選の決勝まで行ったが負けちまって出れなかったが

「何時も良い線まで行ってたんだ」

と言っていた。


幼かった自分はそれが眩しくて

「すげー」

すげー

と言っていた。


一馬は笑むと

「俺が行ってやるからな」

親父

「期待して待っててくれ」

と言い、大きなカーブを曲がりかけて飛び込んできた光りに目を見開いた。


衝撃音の後に一瞬の静寂が生まれカラカラと倒れて曲がった自転車が道路に転がっていた。

一馬は僅かに薄目を開け一旦止った車から女性が降り立ったものの「ごめんなさい」と繰り返して車に戻り直ぐに走り出すのを見送るとそのまま目を閉じた。


辺り一帯に闇が訪れ、その後に彼が目覚めることは二度となかった。

2004年の7月初めのことであった。


君に辿り着くための事件推理


12月の新潟は…寒かった。

しかも8月の真夏から一気に12月だ。


余計に寒さが体に堪えた。

東京の地金商で一部現金に換金して慌てて冬用の服を購入して2人は震えながら新潟へと向かったのである。


真里奈は五泉駅駅前のロータリーで路肩につけた車の中で調書を見ながら

「ここって新潟から少し離れているんですね」

と告げた。


仁は小さく欠伸をしながら

「ああ、県内だが新潟駅からは離れているな」

と言い

「駅の周囲にはスーパーや店や家はあるが少し離れたら畑で直ぐに山裾に続いているからな」

と告げた。

「それで住所の場所はここからどう行くんだ?」


真里奈は頷くと

「家の方はここを出て右折して大きな道路が7号線なのでそこを左折です」

と告げた。

「井上由子さんのパート先はその手前にあります」


仁は頷いて

「わかった」

と答え

「取り敢えず宿泊場所だな」

と告げた。


周囲には食堂などがあるがホテルらしい建物はない。

と言うか、ホテルよりは前のようなワンルームマンションが望ましいのだ。


仁は一軒の不動産屋を見つけると

「待っててくれ」

と言い、車を降りて中へと入った。


真里奈はジーと不動産屋の方を見つめた。

早々、都合のいい物件が見つかるわけがないだろう、と彼女は思っていたのである。

が、仁は戻ってくると地図を真里奈に渡して

「マンスリーマンションはなかったがアパートがあった」

と言い車を走らせた。


そこは井上由子が勤めていたスーパーの近くのボロッタのアパートであった。

一階に住んでいる年老いた女性が車を付けると出て来て

「今、半田さんから聞いたよ」

あんたらかい?

「都会から駆け落ちしてきたってのは」

と鍵を渡した。


それに真里奈はギギギと仁を見た。

仁は肩を竦め

「理由としては世間的に分かりやすい」

と言い、女性から鍵を受け取り、一ヵ月分の金を渡した。


真里奈は「ですよね」とあっさり答え2階の203号室へと入った。

今回は備え付けのモノが何もない。

本当に寝るだけの場所である。


ただ女性が

「凍え死なれたら困るからね」

と布団を一式貸してくれたのである。

「二人で温め合いながらねな」

まあ、事件になるよりはいいからね

「ここ数年女性が殺されるっていうのがあって話じゃ駆け落ちするって出掛けてそのままっていうのがね」


仁も真里奈は顔を見合わせた。

犯人の高津には余罪があったのかもしれない。


仁は女性が立ち去ると

「自白した後に余罪を追及されているかもしれんな」

と言いカーテンを開けると

「ボロッタだが正面がスーパーだから調べるには都合がいいだろ」

と告げた。


真里奈は道路向こうのアップルという看板のあるスーパーを見て

「あ、そうですね」

と告げた。


仁は頷いた。

そして時計を見ると

「高津は午前中の9時から10時くらいの間に店に来ていた」

と告げた。


2人は立ち上がるとスーパーへと昼食と夕食を買いに出かけた。

もちろん、調理器具がないので弁当である。

真里奈も仁もスーパーの中を見て回りながらレジに立っている井上由子を見つけた。


レジは2台。

客の入りはそれほど多くは無いが全くないというわけではない。

レジ待ちは常に2、3人と言ったところである。


真里奈はハンバーグ弁当を手に

「私、これ」

と告げた。


仁は籠の中にいれて

「真里奈ちゃんは肉好きみたいだな」

と呟いた。

ここ一か月ほど共に食事をしているのだ。

傾向性が分かってくるというモノであった。


仁はサケ弁当と飲み物を二つ入れて

「ハンバーグ半分とサケ半分な」

健康のために魚も食え

とビシッと告げた。


真里奈はそれに

「了解」

と答えた。

その時、目を見開き

「仁さん、あの人」

と指をさした。


仁はそれを見て

「…高津…光男か」

と呟いた。


高津光男は眼鏡をかけたインテリ風の男性で籠の中に幕ノ内弁当を入れて井上由子の列へと並んだ。


仁は目を細めて

「やはりな」

と呟いた。


それに真里奈は首を傾げ

「何がですか?」

と聞いた。


仁は籠を持ってそれとなく隣の列へと並び直ぐにレジを通した。

清算を済ませて真里奈が弁当をビニール袋に入れている間いまレジを通している高津光男をそれとなく見つめていた。


2人の接点は学生時代にあった。

それと毎日だいたい決まった時間に高津光男が彼女のレジに並び接触している。


だが…2人の間柄は周囲の人間には唯の客とレジ打ちだったのだ。

あのレシートの違和感に気付かなければ高津光男は浮上しなかったと言って間違いない。


ならどうやって2人は密接な関係になったのか。

近隣でも2人の接触情報が出なかったというのならばこの時点で『何か裏で会うため』の遣り取りをしていると考えて間違いないだろう。


仁は真里奈の作業を待つ振りをして2人の行動を見つめた。

真里奈も手早く入れると入れるふりをしながらその様子をさり気無く見た。


由子はレジを通しながら

「何時もありがとう」

と言い、レシートを渡した。


光男はそれを一旦受け取ったものの

「あ、今日は」

と言うとレシートを返し

「捨てておいてください」

と告げた。


由子はそれに切なげに笑みを浮かべて

「分かりました」

と答えて屑箱へと入れた。


レシートを捨てる人は一定数いる。

おかしくはない。


光男が去っていくと真里奈は弁当を袋に入れたまま

「仁さん」

と呼びかけた。


仁は頷くと

「あ、ああ」

帰ろうか

と言いスーパーを後にアパートへと戻った。


入口に一人の男性が立っており2人を見るとニヤニヤと笑って

「お、お梅おばあさんが言ってた都会からの駆け落ち組か」

と告げた。


真里奈は笑って

「駆け落ち組って言い方面白ーい」

と告げた。


仁は冷静に

「いや、そこ笑うところじゃないだろ」

と心で突っ込んだ。


男性はアハハと笑って

「いや、面白いお嬢ちゃんだ」

と言い仁を見ると

「若くて可愛い子掴まえたじゃないか」

いやいや

「都会モンはやるなー」

と小突いて

「俺は浜松健吾だ」

と告げた。


それに仁は目を見開くと

「あ、もしかして県警の」

と指をさした。


それに浜松健吾は目を見開き

「おお?」

もしかして警察官の癖に駆け落ちか?

と目を細めた。


仁は慌てて

「いやいや」

確かに物理的にはそうだが事情的には否定だな

と突っ込んだ。

「それにこの時点での俺はまだ警察官になってない」

そう心で付け加えた。


真里奈は目をペカーンと光らせると

「警察の人ですか?」

実は大切なお話があるんです!

と健吾の両手を握りしめた。


健吾は「ほよ」と顔を真っ赤にして

「都会の女子は積極的だな」

と言いつつ

「まあ、同じアパート暮しよろしくな」

と告げた。

「それで話っていうのはその旦那に実は騙されていたとかか?」


真里奈はにっこり笑うと

「違います」

仁さんは思っていた以上にいい人ですよ

と答え

「捜査情報を知りたいんです」

徳島の


…。

…。


健吾は凍り付いた笑みを浮かべて

「ここは…新潟だけど」

と告げた。

仁は腕を組み

「気持ちは分かるが…何時もお嬢ちゃんは一足飛び過ぎてその話の回収が大変だ」

と心で呟いた。


仁は息を吐き出して

「こんなところで立ち話も」

部屋へ

と2階の自分たちの部屋へと健吾を案内した。


ギシギシと音のする木の階段を登り、廊下を進んで一番奥の203号室へと入った。

3人は輪になって座り仁はお茶を出して

「あ、紙コップ買っとくべきだったな」

と呟いた。


それに健吾は笑って

「いやいや、気を遣わなくて良いよ」

と言い

「それで?」

と話の続きを促した。


仁は息を吸い込み

「ここからが正念場だな」

と心で突っ込み

「実は俺は東京で探偵業をしていて…ここ数年、新潟で起きている女性の殺害事件を調べているんです」

と告げた。


健吾は目を見開くと

「探偵?」

と腰を浮かした。


仁は頷いて

「彼女は真里奈と言い未来を予見する力があって…俺の助手をしてもらっています」

と嘘八百も吹っ飛ぶ嘘を告げた。


真里奈はピキーンと凍りつつ

「すごーい、仁さん」

マジ嘘ついてる

と心で呟いた。

が、仁が聞けば「誰のせいだ、誰の」と突っ込んでいたが、心の声が聞こえるはずもなく仁は凝視する健吾に

「ただ探偵を探偵と言う訳にも行かないので駆け落ちと言う形で」

と言い

「新潟に来たのは彼女が次の被害者の予知夢を見たのでそれで」

と告げた。


健吾は驚いて「マジか」と呟いた。


真里奈はキリッとした表情で

「はい、12月25日にあのスーパーでレジを打っている女性が殺される予知夢を見ました」

と告げた。

そして

「それを止めたいんです」

犯人は分かっています

「ただ今はまだ起きていないので…起こす前に説得をして犯罪を起こす気持ちを変えたいんです」

と告げた。


健吾は腕を組み

「う~ん」

と唸り

「それで徳島は?予知夢か?」

と聞いた。


仁は首を振ると

「実は二件同時に依頼を受けてその一件が5年前に起きた徳島でのひき逃げ事件です」

と告げた。

「被害者は林一馬…当時14歳です」


健吾は「よし」と言うと

「本当にこっちの事件を解決して犯人を捕まえたら…徳島の件は協力する」

と告げた。


腐っても鯛である。

ちゃんと警戒心は持っているのだ。


真里奈は笑顔で

「ありがとうございます!」

と告げた。

仁は苦く笑みつつ

「あー、そうだな」

と答えた。


健吾は意地の悪い笑みを浮かべると

「だが、こっちの事件に関しては俺も一緒に行動させてもらおうか」

と告げた。

「ここ3年で4人の女性が殺されているからな」

その内の一人が駆け落ちするという置手紙を残して遺体で発見されたて殺害手口が一緒でな


仁は頷いて

「なるほどな」

と告げた。


健吾は立ち上がると

「じゃあ、作戦会議に参加させてもらうのに飯を持ってくる」

と告げて部屋を出た。


仁は目を細めて

「作戦会議って」

と言い

「12年も経って40代にもなると雰囲気が変わるんだな」

と心で突っ込んだ。


そして、健吾が弁当を持って戻ると仁は

「取り敢えず高津光男がやはり9時から10時くらいの間に井上由子のレジに並ぶという事だけは確認できた」

と告げた。


真里奈はそれに

「その何となくじゃなくてですか?」

と聞いた。


仁は頷くと

「ああ」

と答えた。

「奴は故意に並んでいる」

通常人間っていうのは2台レジがあって片方に3人並んでいて片方が1人とかなら少ない方に並ぶだろう

「だが奴は多く並んでいる彼女の方に並んだ」

ただ会話はなかったけどな


答えを知っているからこそおかしいと思うが、通常はスルーしてしまうだろう。

怪しく感じるところはない。


真里奈はう~んと唸り

「なるほど」

と言い

「実は気になることがあるんです」

と告げた。


仁はお弁当のハンバーグとサケを半分ずつにして片方を真里奈に渡し

「真里奈ちゃんの気にかかるところは役に立つから言ってくれ」

と告げた。


真里奈は頷くと

「レシートです」

と告げた。


仁と健吾は首を傾げた。

「「レシート??」」


仁は考えながら

「あー、返していたな」

だがレシートを捨てる人はいるだろ

と告げた。


健吾は「確かに」と言いつつ

「あー、悪いがその前に」

俺には全体像がつかめていない

「分かりやすく話してくれ」

と告げた。


それに仁が頷くと

「彼女の予知夢では犯人は次の被害者である井上由子と同級生だったった高津光男という男性だ」

と言い

「その裏取りをしている」

と告げた。


健吾はメモを取りながら

「高津光男か」

取り敢えず明日そいつについて調べておく

と告げた。


仁は「頼む」と答え真里奈の方を見ると

「それで?」

と聞いた。


真里奈は頷くと

「あの人、レシートを返す時に『今日は』って言ったんです」

普通は捨てといて程度しか言わないか

「無言で返すぐらいしかしないと思うんです」

と告げた。


仁は腕を組むと

「確かにな」

と呟き、目を細め

「まさか」

と小さく呟いた。


健吾は首をかしげて

「どうした?」

と聞いた。


仁はハッとすると

「もしかしたら、そういう事なのかもしれない」

と言い

「そうなら、確かに2人の関係は外部に分かりにくい」

と腰を浮かした。


真里奈は仁を見つめ

「何か分ったんですか?」

と聞いた。


仁は腰を下ろして

「確実性は無いが…暫く見ていれば分かるかもしれない」

と言い

「事件の時に奴はレシートを落していた」

つまりレシートを持っていた

「だが今日は返した」

『今日は』と言う言葉を付けて

と告げた。

「つまりレシートの受け渡しで会うか会わないかを決めていたとしたらどうだ?」

会わない日はレシートを返して

「会う日はそのままレシートを持って行く」


真里奈は目を見開くと

「最初にそういうやりとりを決めておいて…2人の秘密の暗号ということですね」

もしかしたら他の女性との間でもやっていたのかもしれないですね

と告げた。


健吾は腕を組んで

「なるほど」

と言い

「残っているか分からないが…1人スナックの女性が殺されている」

そこの店の防犯カメラの映像を回収しておいたから確認してみるか

と告げた。


仁は頷いて

「頼む」

俺達は明日も同じくらいの時間に行って見張る

と告げた。


健吾は笑むと

「頼む」

と告げた。


3人は話が終わると食事をして、仁は健吾の部屋で布団を借りてそれぞれの布団で眠ることが出来たのである。


健吾は翌朝早々に県警へ行き、仁と真里奈は再び9時になると目の前のアップルというスーパーへと出かけた。


その日も高津光男はやってきてこの日はレシートをそのまま持って帰ったのである。

仁は真里奈に

「真里奈ちゃんは家で待機して健吾からの情報をゲットしてくれ」

俺は奴を尾行する

と駆け出した。


真里奈は戸惑いつつもアパートへと戻った。


仁は高津光男にばれないように彼の後を追いかけた。

人の行き来や交通量の多い道ではないので時々角に隠れたりしながらの尾行である。


高津光男は一軒の大きな家の前に立つと門を開けて中へと入っていた。

仁は家の前に行き表札を見ると

「自宅か…というかデカい家だな」

と呟いた。


その頃、浜松健吾が慌ててアパートへ戻り真里奈と会っていた。

健吾はパソコンを持って戻り真里奈に

「旦那は?」

と聞いた。


真里奈はそれに

「今日も高津さんが来たんですが今日はレシートを持って行かれて、追ってます」

と告げた。


健吾は頷くと

「そうか」

と言い

「実は殺されたスナックの女性で朝比奈ミリというんだが」

彼女の店の防犯カメラにも高津光男が写っていてスナックのママから話を聞いたら

「高津光男は常連だったがそれほど入れ込んでいる様子はなかったらしい」

何時も酒を一杯くらい飲むくらいで

とパソコンに防犯カメラの映像を流した。

「カメラの映像は1か月くらいで消していたそうだ」


真里奈はそれを見て

「あ、やっぱり」

と呟いた。


健吾は画面を見ながら

「どうした?」

と聞いた。


真里奈は画面を指差し

「この人の時は」

きっとワインだわ

と言い

「赤の時と白の時があるでしょ?」

でも赤の時は飲んでないわ

と告げた。


健吾は目を細めて直ぐにパソコンのキーボードを触ると防犯カメラの映像を早送りした。

その時、戸が開き

「ただいま」

と仁が戻った。


真里奈は仁を見ると

「おかえりなさい」

と答え

「今、もう一人の被害者の朝比奈っていう女性の人の防犯カメラを見ているの」

と告げた。


仁は健吾を一瞥して

「そうか」

何か分ったか?

と聞いた。


健吾は息を吐き出し

「ああ、彼女にも高津と関係があった」

と告げた。

そう言って高津光男の情報を2人の前に置いた。

「これは高津光男の情報だ」


仁はそれを見ながら

「なるほど、資産家の息子だったのか」

と言い

「どうりでデカい家に住んでいたわけだ」

と呟いた。


健吾は頷いて

「ああ、高津光男の父親はこの五泉でも代々続く資産家の息子で光男はその息子がキャバレーで入れ込んだ女性・原田律子に産ませた子供だ」

原田律子は31年前に通り魔に殺されている

「光男が9歳の時だ」

と告げた。

「その後に父親に引き取られて今の生活になっている」

他の女性との接点も探さないといけないが

「朝比奈ミリの事件で立件できれば」


仁は腕を組むと

「確かにそうだな」

と呟き

「その朝比奈ミリの捜査資料とかはあるのか?」

と聞いた。


健吾は頷いた。

「ああ」

見るか?


真里奈は頷くと

「はい!」

と答えた。


…。

…。

2人は同時に彼女を見て

「「あ、ああ」」

と答えた。

仁は苦笑すると

「確かに着眼点は良いからな」

と告げた。


健吾も腕を組むと

「確かに」

と答えた。


仁は健吾を見て

「それともしかしたら今日、高津光男と井上由子が密会するかもしれない」

と告げた。

「その現場が抑えられれば一つの証明になる」


健吾は頷くと立ち上がり

「わかった」

その件は任せてほしい

「それから資料は明日見にきてくれ」

署長には話を通しておく

と言うと

「パソコンは取り敢えず貸しておく」

また何か分ったら教えてくれ

と立ち去った。


仁と真里奈は防犯カメラの映像を見終えて、健吾の言った意味に気付いた。


真里奈はパソコンのディスクトップのフォルダーの名前を見て

「これ、徳島の…林さんの息子さんの引き逃げの」

と告げた。


仁は笑むと

「中々憎いことをするじゃないか」

と言い、フォルダーを開いて中に入っている調書資料のPDFファイルを開いた。


そこには事故調書と現場検証の内容が入っていた。

仁はそれを読み

「徳島の吉野川市の方だな」

と呟いた。

「鴨島町飯尾か」


真里奈も見ながら

「この飯尾敷地中学へ通っていたんですね」

と呟いた。


仁は頷き

「そうだな」

と答え

「それでここで事故ってことはこのルートか」

とマップ上に指を滑らせた。


中学から242号線で山裾に添って迂回する道もあるが山を越えて直線で走る道もある。

恐らく距離から考えて山越えの方が早かったのだろう。


その山の峠を越えた辺りで遺体が発見されている。


仁は道路の様子を見て

「だが、目撃者がないと言っても自動車の方も破損しているし」

通常なら自動車の修理などの情報で調べていくはずなんだが

と呟いた。


真里奈は「確かにサスペンス小説でもありますね」と答えた。


仁は腕を組んで

「小説は別としても」

ひき逃げ事故の場合は色々調べるんだ

「ブレーキ痕とか写真にあるように割れた部品の欠片とかから車種を割り出したりする」

と告げた。

「自動車やバイクは車検や登録をしているからその点ではバレやすい」

足がつくってことだ


真里奈は仁を見つめ

「でも、十何年も分かっていないんですよね」

と告げた。


仁は頷いて

「そうだな」

と言い、調書を読み進め目を細めた。

「なるほど、そういう事か」


真里奈も見ながら

「所有者が…4年も前に死亡?」

と呟いた。

「事故の前に死んでいるってどういうことですか?」


仁は息を吐き出し

「あるとしたら」

中古車として買い取ったか闇ルートで買ったかして

「所有者の名義を変えていなかったんだ」

と告げた。

「自動車を購入した場合は名義変更を15日以内にしなければならないんだが」

悪いディーラーに引っ掛かると所有者が行方不明だとか

「手続すると言いながらしないままというのがあるんだ」


真里奈は「そんなことがあるんですね」と呟いた。


仁は肩を竦め

「そう言う場合は廃棄や売買は出来ないし」

事故を起こしたら自賠責以上のペナルティがあるからな

と告げた。

「デメリットの方が大きい」


真里奈は少し考えて

「じゃあ、車はどうしたんでしょう」

こんなにガラスとかが飛んでいたら乗れないだろうし

と呟いた。


仁は頷くと

「そうだな」

と答えた。

「車庫があるなら隠したままか」

もしくは


真里奈は冷静に

「どこかに捨てちゃったとか、ですか」

と告げた。


仁は頷いた。


真里奈は頷き

「だとしたら、この山のルートを使う人から探すしかないんですね」

と告げた。


仁は彼女を見て

「ま、そうだな」

と告げた。

「かなり骨は折れると思うが」


真里奈は笑顔で

「う~ん、でも」

この山の道って事故が数時間後にしか発見されなかったくらい車の利用は少ないんですよね?

「恐らく限られた人しか使ってなかったと思うんです」

と告げた。

「その上でこの日を境に自動車に乗らなくなった人とか…道を変えた人とかを当たってみるっていうのはどうですか?」


仁は驚いて彼女を見た。

真里奈は反対に驚いた仁に驚いて

「え?私変なこと言いました?」

と聞いた。


仁は首を振ると

「いや、確かにそうだな」

と答えた。


そしてマップを見て

「この山のルートを何も考えずに使うとしたら」

山を挟んだ場所に職場と家を持っている人間だな

「それと職業も限られてくるから割り出しはしやすいかもしれないな」

と呟いた。


それに真里奈は目を見開くと

「え!?」

と聞いた。


仁は笑むと

「時間だ」

と告げた。

「事故が起きたのは夕方の4時くらいだ」

しかも正面衝突だ

「つまりその時間に移動する仕事ってことだな」


真里奈は考えて

「そうですね」

帰宅途中なら3時半から4時くらい

「仕事へ行くなら4時から4時半くらいですね」

と告げた。


仁は頷いた。

「中途半端な時間だろ?」


真里奈は頷いた。

その後、2人はスーパーで買った昼食を食べてのんびりと部屋で過ごした。


あの電車での無差別殺人事件を起こさないために時間を越えてここまで来た。

真里奈は畳の上に身体を預けながらパソコンを見ている仁に

「その、これを解決して…ひき逃げ事件を解決したら」

もう事件は起きないですよね?

と呼びかけた。


考えれば一か月以上過ぎているのだ。

少し寂しくなったのである。


仁は壁に凭れて

「そうだな」

ひき逃げ事件を解決したら

「戻ろう」

と笑みを浮かべ、手を差し伸べた。

「真里奈ちゃんは良い相棒だったぜ」


真里奈は笑むとその手を掴み

「仁さんも素敵な人でした」

と微笑んだ。

「山王寺君を好きじゃなかったら」

好きになってたかも


仁は笑むと彼女の手の甲にキスをして

「そうだな」

俺も君に惚れていたかも知れないな

と告げた。


真里奈は笑って

「相思相愛ですね」

と告げた。


仁は笑って

「確かに」

と告げた。

「戻ったら幸せになるんだぞ」


真里奈は頷き

「はい」

と答えた。


その日の夜半。

健吾がアパートに戻ると仁に

「2人の予測通りに2人が今落ち合っている」

きてくれ

と告げた。


仁は立ち上がると

「わかった」

と答え、真里奈を見ると

「戸締りしておいていいからな」

今夜はこいつの部屋で寝る

と告げた。


健吾は「え」と言ったものの

「確かに」

そう言う事だから

「戸締り重要で」

と告げた。

が、真里奈は立ち上がり

「私も行きます」

と告げた。


2人は同時に「「ええ!?」」と声を上げた。


真里奈は笑顔で

「止めないと…事件は起きます」

と告げた。

「起こしちゃダメなんです」

不幸の連鎖を食い止めないと


健吾はう~んと唸った。

が、仁はビシッと

「暴走しないなら良いだろ」

こっちの県警の指示に従うこと

と告げた。


真里奈は頷いて

「はい」

と答えた。


3人はアパートを出ると健吾の車で2人が密会している場所へと向かった。

そこは国道に面しているが雑木林で奥に入ると人目に付きにくい場所であった。


新潟の12月は雪も積もり一面が白く覆われている。

ただ枯れた木々の武骨な木肌だけは見えている状態であった。


空に雲は出ているがその合間から綺麗な星の輝きと月の明かりが地上に届いていた。

健吾が少し離れた場所に車を止めて足音を忍ばせながら前に進み、仁は真里奈の手を引いてその後をついて歩いた。


雪で足音も吸収されて静寂が広がっている。

木々の死角に3人ほどの刑事が隠れながら高津光男と井上由子の密会を見つめている。


光男は彼女に笑みを向けて

「…俺はこの町を出ようと思っている」

君との関係をこれ以上続けていくわけには行かないと思って

と告げた。


由子はそれに腕を伸ばしてすがるように

「いやよ、私は貴方無しでは生きていけないわ」

夫は出張出張で家に殆どいなくて

「私が髪を変えても分からない人なの」

愛がなかったのよ

と泣きながら告げた。


光男は彼女を抱き締めながら

「だが君には子供もいるじゃないか」

その子はどうする?

と聞いた。


由子は唇を尖らせて

「旭は…可愛いわ」

でも

と視線を伏せた。


光男は彼女の頬を両手で包み

「クリスマスの日にここを離れようと思う」

もし君が全てを捨てても良いと思うならここへ来て欲しい

「俺は夜の11時から日付けが変わるまでは待っている」

と告げた。


真里奈は目を見開くと唇を噛みしめ

「やっぱり」

間違いない

と意を決すると木々から飛び出し

「ダメです!」

と叫んだ。


仁はパっと離れた手を見て

「げっ」

と心で叫んだ。


それは健吾のみならず周囲の刑事3人も同時に「「「「マジか!」」」」と叫ぶしかなかったのである。


真里奈は2人に近付くと

「高津さんはここから離れるつもりも町から逃げるつもりもありません」

井上由子さん

「旭さんのお母さん」

貴方を殺すつもりです

と告げた。


由子は驚きながら

「な、何を言っているの!」

変な子ね!

と告げた。


真里奈は由子を見て

「貴方が殺された後の息子さんがどんな悲しくて辛い人生を歩んだか」

それを考えてあげてください

「夜中に出て行き不自然な死を遂げた貴女を旦那さんがどんな風に思い、その矛先を息子さんに向けて…息子さんは犯罪に手を染めてしまう」

そんな風に息子さんがなってもいいんですか!?

と告げた。


由子は顔を背けながら

「言ってる意味が分からないわ」

そんな妄想を言わないでちょうだい

と吐き捨てた。


それに高津光男は堪えきれないように笑うと

「妄想じゃないさ」

と言い

「ああ、そうなるだろうね」

と周囲を見回して雪の上に映る幾つもの人影に息を吐き出した。


由子は驚いて光男を見た。

「光男さん」


同時に刑事たちも姿を見せた。


光男は由子を見ると歪んだ笑みを浮かべ

「君が息子を捨ててクリスマスの日に来たら…殺そうと思っていた」

だが潮時のようだ

と肩を竦めた。


そして白い息を吐き出し

「俺の母親も君のようなちょっと優しくして金持ちの男に擦り寄る女だった」

そしてある日帰らなくなったと思ったら沢山いる男の誰かに殺されていたよ

「東京の片隅の階段の踊り場で死んでいたんだ」

哀れな末路だろ?

と酷薄に笑って、由子に手を伸ばした。

「でも女ってそういうモノなんだろ?」


由子は目を見開くと

「ち、違うわ」

と首を振り

「私は貴方が好きで」

だから

と強張った表情で笑みを浮かべた。


光男は冷めた目で彼女を見ると

「俺の何を知っているんだ?」

夜にこうやって少し会って

「君の聞きたそうな言葉を言って…キスして?」

ああそう言えば宝石も贈ったかな

「それで愛してるとでも思ったのか?」

と笑って告げた。


由子はその場に座り込むと

「…酷い」

と両手で顔を覆った。

「寂しかったのよ、夫は仕事仕事で…私は息子の世話…夫の世話…」

まるで女中だわ

「感謝の言葉もない」

愛してるの言葉もない

「それが当たり前って思っているのよ」

でも私は女中じゃないわ!

「優しい言葉だって愛されているって確信だって欲しいわ」


それに刑事たちは顔を伏せた。

思い当たる節があるのかもしれない。


真里奈は由子に近付くと

「お母さんってそうですよね」

ごめんなさい

「でも言えば良いと思います」

息子さんは貴女をきっと好きだし大切に思ってます

「旦那さんにも言えば良いと思います」

向き合って思いをぶつけたら良いと思います

と告げた。

「私のお母さんも凄く私の事を心配してくれて…一生懸命で」

貴女の言葉を聞いて私も反省しました

「私もお母さんに感謝してるって言わないとですね」


由子は真里奈に抱きつくと号泣した。


刑事の一人が息を吐き出すと光男のところへ行き

「朝比奈ミリの件で話がある」

と告げた。


光男はふぅと息を吐き出すと

「…彼女を殺したのは俺です」

他にも何人か殺した気がする

と言い、真里奈を見ると

「君の心は綺麗みたいだが」

君が言うみたいに綺麗ごとで済む女ばかりじゃない

と告げた。

「男、男、男で子供なんて見向きもしないそんな女もいる」

まあそんな女の末路は哀れなモノだったけどな


光男はそう言うと刑事に連れられるまま去っていった。

由子も一旦は警察へと連れて行かれたが聴取を受けて直ぐに家へと戻された。


彼らを見送り雪の林の中で残された健吾と仁と真里奈は顔を見合わせた。


仁は大いに頭を下げると

「申し訳ない」

と告げた。

「お嬢ちゃんはこういう突飛もないことをするところがあってな」


健吾ははぁ~~~~と息を吐き出したものの急にクッと笑うと

「あははは」

と暫く笑って

「いや、いいさ」

確かに感じるものがあった

「だから、高津も心の内を吐露したんだろう」

井上由子もな

と告げた。


真里奈は俯きながら顔を真っ赤にして

「本当にごめんなさい」

でもでも

「あのままだったら…事件が起きそうで」

と告げた。


健吾は息を吐き出しながら空を見上げて

「そうだな、高津はきっと自分を放置して男に身を任せて最後は殺されてしまった母と彼女たちを重ねていたのかもしれない」

女性に対して歪んだ目を持っていたのかもしれないな

と告げた。

「だが、どんな事情があっても罪は罪だ」

朝比奈ミリの母親は彼女が殺されて直ぐに臥せって亡くなっている

「父親もどれほど悲しんでいるか」

他の女性たちの家族も同じだ

「自分が不幸だからと言って誰かを不幸にして良いわけじゃない」

それに彼女たちが全員ただ擦り寄るだけで高津と駆け落ちしようと思っていたわけでもないだろう


…そんなことを繰り返せば負の連鎖だ…


仁も真里奈も大きく頷いた。

健吾は笑むと

「今回の事件の解決に協力してくれてありがとう」

と言い

「徳島県警の刑事に話をしておいた」

向こうでも頑張ってくれ

と告げた。


仁と真里奈は顔を見合わせて笑みを浮かべた。

真里奈は健吾の手を両手で握ると

「ありがとうございます!」

と告げた。


健吾は真っ赤になり

「あー、お嬢ちゃん」

俺が誤解するからそのオープンボディーランゲージは控えてくれ

「惚れたらどうするんだ」

と告げた。


仁は苦笑して

「確かにな」

と告げた。


健吾は2人をアパートに送るとその足で県警へと向かった。

仁と真里奈は翌日から一旦徳島へ行き、12月25日に井上由子が無事なのを確認して時戻りをするつもりであった。


その日は明るく太陽が照りつけ、仁は車のエンジンを入れると

「じゃあ徳島へ行くぞ」

とアクセルを踏んだ。


真里奈は頷き

「お願いします!」

と前を見つめた。


雪の銀世界が広がり人々が極々普通の毎日の営みを見せていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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