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探す相手は悪人ですか?

『やはりあの影を無視することはできない』


 そう言ったレイアの提案で、彼女たちは隊を分けて行動する方針を定めた。


『私、ハンス、キリハは例の男を引き続き捜索します。それ以外の者は先程の大型魔獣についてマルティーナ様へ報告をお願いします』


 この辺りは人里も近く、あの規模の魔獣を放置することはできない。

 事前に文は飛ばしているがやはり実際例の魔獣を目にした自分たちのいずれかが直接報告した方がいいとレイアは判断した。

 騎士隊と冒険者ギルドに情報を流し、すぐにでも調査隊を編成して、急ぎ討伐部隊を編成することで周辺への被害を未然に防ぐのが肝要だ。


『ルイス、ヴォルフ、マルス……気を付けて』

『はい。そっちも気を付けてね、レイアちゃん』


 そうして隊を分けたのが数日前。

 今、レイアたちは道中で見かけた集落を訪れ、似顔絵の人物の行方について聞き込みを実施していた。


 ――しかし、


「ああ、この男なら確かにここへ来たぜ。胸糞わりぃ野郎だったぜ、まったくよ」

「知ってるよ! 彼、私たちの集落がボロボロだってのに、随分とあくどい商売を吹っ掛けてきたのさ!」

「この男が連れてた女のせいで、集落は御覧の通り滅茶苦茶だ。だってのに、悪びれる素振りもなかったんだぜ? まぁ、復興のために冒険者を手配してくれた、って部分に関しちゃあまり悪く言えねぇんだけどよ」

「ひどいと思いませんか!? この人、商品と引き換えにメイちゃんを連れて行こうとしたんですよ! あ、メイちゃんっていうのはここの代表の娘さんなんだけどね! その子を娼館に売り飛ばすとか、調教するとか! もう最悪の男です!」

「冒険者をよこしてくれたり魔獣に襲われたところを助けてくれたりと色々世話になったのは事実みたいだが……悪いな、感情的な部分じゃ俺も他の連中と同じで、こいつのことはあんま好きになれそうにねぇ」


 などなど、彼の話を集落の者たちから聞かされるたびになかなか愉快な評判が飛び交っていた。


「なんか、すっごい感じの悪い人、って話ばっかり入ってくるんですけど……」


 キリハが似顔絵を手に眉根を寄せた。


「こっちも似たり寄ったりの話ばっかだな。集落の窮地にひとの命を対価に商売しようとしてきた、ってところが特に印象悪いらしい」


 ハンスは「ふ~」と微妙な表情を浮かべてキリハの手元を覗き込む。

 レイアは腕を組み「ふむ」と考え込む。


「商業都市でもそれなりに聞き込みを行ってきたが、随分と印象が違うな」


 冒険者ギルドで彼についての話を聞き、街中や彼が経営していた錬金工房周辺での聞き込みも実施した。

 そこで聞いた話では、お節介焼き、人が良すぎる、しかし少し掴み所のない人物という評価で、彼に対して悪感情を抱くような人物はほとんどいなかった。

 冒険者ギルドなんかでは、彼のおかげで大変な時期を乗り越えられた、と称賛する声が多かったほどだ。


「……大きい組織には尻尾を振るけど、弱い相手には素が出る、とかそんな感じかな~?」


 キリハの推測に、しかしレイアは首を傾げる。


「どうだろうな……弱い、という意味では彼が錬金工房を開いていた場所は貧民街にも近かった。しかし彼はそこで法外な値段で商品を売買していたというこもなかったそうだ」

「ああ、俺が聞き込みした感じ、こいつはむしろかなり割安で商品の一部を融通していた、って話だな。最初は裏でなんかヤバイ繋がりでもあんのかと思ったが、そういうこともなさそうだったな」


 ハンスは身元を偽って貧民街に入り込み、彼らから似顔絵の人物についての情報を訊き出していた。

 しかし、気難しい彼らが、彼について語る口調は柔らかく、むしろ好感を持っている印象だった。


「話だけ聞くとあまり会いたい、って思えるひとじゃないけど……」

「集落の者たちの話が事実なら、私もキリハに同意だが……これだけで判断はできない。マルティーナ様もよく言っていただろ」


『上澄みだけの情報に踊らされて、判断を鈍らせたらダメよ。事実っていうのは見え辛いものだから、多角的にも物事を捉えて、客観的に、冷静に、キチンと考えるの……そうして初めて、見えてくるモノがあるわ』


 彼女は常々、そう言っていた。

 まるで、自分自身にそう言い聞かせるような話し方だったと、レイアは思った。


「とにかく、彼についての評価を下すのは早計よ。それにどんな人物であれ、私たちの任務は彼と接触し、マルティーナ様の下へお連れすることなんだから」

「だね~。それで、次はどうする?」

「彼の乗った馬車は港町の方に向かったようだ。そちらへ行ってみよう」

「だな。でも仮に海を渡られてたら、そこから追っかけるのは難しいと思うぜ?」

「……まだ彼が港にいることを願おう。もしも見つけられなかった場合は、手紙を送ってマルティーナ様に判断を仰ぐことにする」

「「了解」」


 一同は集落を後にする。

 騎竜ウマに揺られながら、集落で聞いた話について意見を交わす。


「でもさ、なんか色々と妙な話が多かったよね」

「ああ……空を飛ぶ青い龍に、赤い巨鳥……魔獣の群れの襲撃……」

「それに加えて、集落全体を覆うほどの木の根を操る魔術師だとよ」

「なんか滅茶苦茶すぎて、現実味がなさすぎだと思う」


 小さな集落で起きたという大規模な魔獣の襲撃事件。それ自体、人的な被害は軽微で死者は出ていない。確かに集落の惨状はお世辞にも軽いと言えるような状態ではなかったが、生きてさえいれば復興はできる。


 しかしそれよりも気になったのは、魔獣の群れを率いていたと見られる大型魔獣の存在だ。それも、ドラゴン……ないしは龍などというとんでもないバケモノが現れたというのだ。しかも、それと戦う赤い巨鳥の姿まで確認されている。


 ……まるで炎を纏ったような巨大な鳥のバケモノ、でしたか……まさか。


 商業都市を襲った魔獣が、ここにいた? しかし、龍と戦っていた、というのはどういうことだろう? もしかしたら、獲物である人間を巡って争ったのか?


 ……くわえて、集落を覆いつくすほどの大規模魔術……これは……


 いつぞや、土人形クレイドールの襲撃を受けた際、宙を覆いつくすほどの魔術式を展開してそれらを一掃したあの場面を思い出す。


 ……銀髪の魔術師。例の人物と行動を共にしていた、と聞きましたが。


 まさか、本当に個人であれだけの魔術を行使したというのか?

 だとしたら、なぜそれだけの術者が無名のまま、これまで埋もれていたのだろうか。

 下手をすれば、賢者であるソフィアよりも魔術の腕は上かもしれない。

 

 ……もしかすると、港町でその魔術師と会える可能性もありますね。


 港町までは1週間程度かかる。


 彼らが集落を発ったのが数日前。

 今から追い掛けて間に合うかどうかは分からないが、任務である以上は追いかけるしかない。


 ……どうにか追い付けるといいのですが。


 似顔絵に目を落とす。商業都市で聞いた彼と、集落で聞いた彼の印象はまるで逆。実際にどんな人物なのかは会ってみないことには分からないが。


 ……マルティーナ様は、なぜここまで彼のことを気に掛けるのでしょうか。


 彼とマルティーナにどんな因縁があるのか、詳しいことは教えてもらえなかった。


 ただ、会わねばならないのだ、とだけ。


 そうして、騎竜に揺られることしばらく――

 3人は例の港町へ到着した。

 喧騒に満ちた大陸の入り口。潮の香りが吹き込む活気あふれる街の中……


 レイアたちは出会ったのだ。



「――お主ら、旦那様を探しておるのじゃろ……では……――我らと共に来るかの?」



 とても美しい彼女と。月の光を宿しやかのような銀の髪、神秘的な紫水晶のごとき瞳を持った、異質でこの上なく理解しがたき存在。

 この出会いが、3人の運命を狂わせることになっていくことを、この時はまだ、誰も知らない。

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