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追いかける騎士

 レイアは騎竜ウマに揺られながら、手元の似顔絵を見下ろす。


『すぐにこの男を追いかけてちょうだい』


 などと、マルティーナから命令を受けたレイア。

 彼女はハンス、キリハ、ルイス、ヴォルフ、マルスと共に、似顔絵の人物を追うために商業都市を発った。つい先日のことだ。


『あの、なぜ彼を?』

『……その男に、会う必要があるのよ』


 命令を下した時のマルティーナは、普段の凛とした雰囲気はなく、どこか歯切れが悪かった。

 もしかすると、似顔絵の男と何か因縁があるのかもしれない。


「だぁ~……やっぱ騎竜は慣れねぇな~」


 隣からハンスが愚痴を漏らす。

 彼は騎士学校時代から乗竜じょうばが苦手で、あまり成績は振るわなかった。


「ハンス、重心を真っ直ぐに……騎竜の動きに合わせて柔軟に股関節を動かすのだ」

「いやヴォルフ。んな基礎中の基礎、今さら言われなくても学校時代に聞いてるっつうの」

「騎竜は座学だけで乗りこなせるものではない。お前は運竜ウマに苦手意識を持ちすぎている。それはカレ等にも伝わってしまう。基本的な技術に加え、お前はもっと運竜を信用すべきだ」


 この中で最も騎竜の扱いに長けているのはヴォルフだ。彼は槍の名手であるのと同時に、騎兵としても優れた実力を有している。一行パーティ内における機動力で、彼に勝る者はいない。


「ヴォルフは騎竜のことになると饒舌だよね~。普段はほとんど喋らないのに」


 キリハがからかうような発言に、ヴォルフは「そうだろうか?」と首を傾げた。


「この辺りで一度休憩にしよう。ヴォルフとキリハは周囲は警戒してくれ」

「りょうか~い」

「承知した」


 ヴォルフは騎兵としての適性が高いこともあって目がいい。キリハは脚の速さに定評がある。この二人は見張りとして最適だ。

 交代要員をそれぞれ割り振り、炎術師であるレイアは薪に火をつけた。


 ……できれば騎士として、近接系のジョブを授かりたかったが。


 こういう時は、いちいち火おこしをしなくていい自分の力を便利に思う。


「レイアちゃん、ガルディ茶を淹れようと思うんだけど。レイアちゃんも飲む?」


 ルイスの提案に「ああ、もらおう」とレイアは頷いた。

 すると……「じゃあ俺も」、「……飲む」、「あ、ずるい! アタシも!」、「俺にも貰えるか?」と、結局ルイスは全員分のガルディ茶を入れる羽目になった。


 ガルディ茶は、ガルディという茜色の木の実から抽出した果汁と、蜜などを一緒に煮詰めてできたジャムをお湯に溶かした飲み物だ。

 ほんのりとした苦みと蜜の甘味、果汁の酸味が絶妙に混ざり合って、少し独特の味がする。


「はぁ……」


 レイアは一息つく。ルイスの淹れてくれるガルディ茶が彼女は好きだ。

 王都ではたまに苦みが強すぎるモノにあたったりすることがある。しかしルイスのガルディ茶は甘味が強く、とても飲みやすい。


「ねぇ、レイアちゃん」


 隣にルイスが腰を下ろし、ガルディ茶を手に声を掛けてきた。


「どうした?」

「うん、あのね……わたし、この前の遠征のことが、ず~っと気になってるの」

「……あの時に発動された、氷の大魔術のことか?」

「うん」


 一ヶ月以上たった今でも覚えている。

 空を覆いつくすほどに展開された膨大な魔術式。

 魔術に馴染みのないハンスたちでさえ、肌に触れるピリピリと痺れるような魔力の波動。

 炎術師、そして魔術師であるレイアとルイスは、あの瞬間、まるで脳を揺さぶられるかのような衝撃を受けたほどだ。


「あれが魔術である以上、何者かによって発動されたものであるこは確実だ……しかし」


 事前に入念な準備を重ねていたとして、いったいどれだけの歳月を費やせば、あれだけ規格外な術式を構築することができるというのか。

 それ以前に、


土人形クレイドールの群れを薙ぎ払えるだけの設置型術式ともなれば、それなりに濃い魔力の気配が漂っててもおかしくなはず」

「でも、わたしもレイアちゃんも、気付くことができなかった……ううん、そもそもあそこに、設置型の術式なんてものはなかったのかも」

「それはありえない」


 では、あの魔術はどうやって発動されたというのだ。

 まさか『個人』で?

 そんなことすれば、魔力と生命力をごっそりと持って行かれた挙句、魔術師の命である、魔力を循環する神経が確実に焼き切れる。


「うん、わたしも自分で言っててありえないと思う。でも」

「例えば、今回慰問した街のギルドで、土人形たちを掃討するために準備していた、ということではないのか?」

「その辺りのことはわたしも気になったから、仕事の合間にハンス君と一緒に、改めてギルドに話を聞きに行ったの。そしたら」


 むしろ、自分たちのような、王都の騎士か魔術師が魔術式を設置したんじゃないのか、と逆に訊かれてしまった。


「つまり、ギルドのあの魔術に関与したわけではない、と」

「そうみたい」

「……」


 レイアはしばし無言で思考に沈む。


 ……魔力を感知しにくい設置型の魔術式はあるけど。


 規模はそれだけ小さくなる。小規模の集団を罠にかける程度の魔術は扱えるかもしれないが、空を覆うほどの魔術式を一斉に起動するには至らない。


 ……もしくは、東部の魔術共和国の新しい魔術兵器?


 大陸の東部には魔術を軍事に利用することに長けた大国が存在している。

 魔神するより前は、王国と敵対関係にあったが、今は互いに休戦協定を締結している。

 近年、魔神の脅威が消えたことで、再び戦争状態に突入するのではないかとと、国民たちから不安の声が囁かれている。

 

 今のところ、かの国に目立った動きはないが、今後はどうなるかわからない。

 王族や貴族たちは、共和国との関係に随分と気を揉んでいる。


 ……仮に、あの魔術が共和国によるものだとしたら。


 かの国は、再び戦争に備えて、準備をしているということになるのだろうか。


 ……いや、さすがにそれは飛躍し過ぎか。


 そもそもの話、仮に共和国の大規模な魔術実験があの場で行われたのだしたら、その痕跡がまるでないことはおかしな話ではないか。

 とても一人や二人で準備できるとは思えない。少なくとも、一般的な術力を持った数十人の魔術師が必要だ。


 ……ソフィア様みたいな、規格外なお方でも、たぶん無理よね。


「わからないな、なにも」

「そうね~……ほんと、なんだったのかしらね、あれは」


 レイアは揺らめく炎を見つめる。ぱちりと薪が爆ぜ、火の粉が舞った。

 答えの出ない疑問に乾く口内を、ガルディ茶で湿らせる。


 直後、


「「――っ!?」」


 ピリッと肌を刺すような魔力の波を感じ取り、レイアとルイスが立ち上がった。


「レイア、なにかこちらに飛んできている!」

「なんか! すっごいでっかいの!!」


 ヴォルフとキリハが切羽詰まった様子で報告に駆けてくる。急ぎ火を消した。

 ヴォルフたちの視線を追って、全員の顔が空へと向けられる。


 黒い影。それは徐々にレイアたちのいる位置まで近づき、彼女たちのすぐ頭上を通り過ぎて行った。突如巻き起こる突風。


「な、なんだありゃ!?」


 ハンスが風に顔を隠しながら、声を上げた。

 目にしたそれは、全身を鉛色の羽毛に覆われた、巨大な鳥だった。

 しかし、レイアたちの誰も、あのような生き物の存在は聞いたことも見たこともなかった。

 

 果たして魔獣なのか、それとも未確認の生物か。

 それが頭上を過ぎ去る瞬間、彼女たちの耳には、まるで金属が擦れる様な音を聞いた。


「……巨大な鳥。もしや、今のが商業都市を襲った魔獣か?」

「ええ~? でも確か聞いた話だと燃えるような真っ赤な羽毛の魔獣だって話じゃなかった?」


 レイアの憶測をキリハが否定する。


「じゃあ、今のはなんだってんだよ?」

「アタシが知るわけないでしょ!」

「レイアちゃん、どうする?」

「……あれが飛んで行ったのは商業都市とは真逆の方角だ。ルイス、マルティーナ様に文を飛ばしてくれ」

「わかった」

「レイア、どうする? あれを追うか?」


 ヴォルフの意見にレイアはしばし思案するも、首を横に振った。


「さすがに危険すぎる。それに、私たちの目的は似顔絵の人物を捜すことだ」


 勝手に命令を無視することはできない。

 だが、


「道中、付近の村や集落を見かけたときは、注意喚起して回ろう。それくらいなら、マルティーナ様も許していただけるはずだ」


 鈍色の巨鳥が消えた先を、レイアは見上げる。

 立て続けに起きる異変の数々。


 ……いったい、何が起きているの?


 魔神が世界から消えて数年……しかし世界はいまだ、完全に平穏になったとは、言えないようである。

 

まずは投稿が大変遅れてしまったことを謝罪します

申し訳ありません

次回の更新予定は9月10日頃を予定

以降、10月の投稿再開となります

10月中に二幕に決着させる予定です

どうぞ、よろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[良い点] レイアちゃんとキリハちゃんの登場、楽しみしていました★旧版でもキリハちゃんの初登場の衝撃に、レイアちゃんの恋模様にその他、各々の活躍など注目していて、リバイブ版も、お二人の活躍に注目したい…
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