表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/72

龍との邂逅

 かつて、魔獣を生む四体のケモノがいた。

 神にさえ匹敵するその力を目にした人間たちは、それらを魔獣の上位存在――『幻獣』と呼んだ。


 幻獣の力は圧倒的で、幾多の軍勢、戦士、英雄が挑み、敗れた……果てに村が焼かれ、町は崩壊し、数多の国が滅ぼされた。もう、ずっと前のことだ……


 しかし、いつしか幻獣は人間たちの前から姿を消した。


 なぜか。その謎はいまだ解明されていない。しかし、かれ等が地上に残した魔獣たちは、繁殖し、勢力を拡大、自己進化を果たし、人間たちを数千年に渡って苦しめ続けている。


 しかし人間たちも徒党を組み、女神の恩恵を手に魔獣の脅威に抗ってきた。


 人間たちは魔獣の情報を集め、種別と等級を分け、対策を最適化。時の経過と共に、魔獣は未知の脅威ではなく、対抗できる『敵』となったのだ。


 獣型、鳥獣型、水棲型、植物型など、動植物に姿が類似した魔獣は一般的にも広く知られ、数も多い。これらを生物系と呼ぶ。

 また、無機物型、液状型、屍型などといった、生命とは形容しがたいタイプの魔獣として、非生物系と呼称されるモノが存在する。


 そして――


 そのいずれにも該当しない、幻想系に分類される魔獣も、ごく少数ながら、確認されていた。


 魔獣は分類において、生物系を一種、非生物系を二種、幻想系を三種とし、その中から、冒険者ギルド、行政が危険度を判定、下位の一級から上は十級まで等級分けされている。


 とりわけ、幻想系と呼ばれる三種の個体は、他の一種や二種と比べても頭一つ分、危険度が抜きん出ている。

 その力は絶大だ。かつて猛威を振るった幻獣から、名の一部を取られるほどに。

 彼らは数こそ少ないが、その一体で、小さな町程度なら一晩のうちに壊滅させられるだけの力を持つ。


 中でも最も世間的に広く知られる三種の魔獣は、ドラゴンであろう。東大陸では龍、あるいは竜とも呼ばれる。

 好戦的で知性が高く、魔術を扱う個体も珍しくない。

 それは恐れの象徴であり、畏れの対象でもある。


 それが故に、幻獣の中でも一際、人間たちから認知され、畏れられる存在がいた――それの名を『龍神』という。

 人間の中には、龍神を幻獣の王と評する者も少なくない。

 偉大なる龍の祖。


 その名が示す通り、かの幻獣が生み出した最も凶悪な魔獣こそ、ドラゴンである。

 姿かたち、地域ごとの名称に差こそあれ、いずれも強力な個体ばかり。

 空を駆け、大地を焼き、多くの生命を蹂躙する生きた災害。


 龍神は別名、幻想の母とも呼ばれている。


 しかしよもや、そのような存在が、自分達の住む土地の、すぐ近くの山に居ついていようななど、麓の誰も、気付けるはずもなく……


「――では、参りましょうか」


 空が淡く瑠璃に染まる。シンと、肌が冷えるような空気を引き裂くように、魔獣たちが吼えた。

 その中に、周囲の木々より高く、闇より深い黒い鱗に全身を覆った、二体の飛竜の姿があった。


 ……いささか過剰な気もしますが。


 まさか、我が母を前に、手を抜いた姿を見せることこそ愚かの極み。あれしきの集落、文字通り、一刻の猶予すらなく滅ぼせなくて、なにが創造神の眷属か。


「跡形もなく、そこに人間がいた痕跡さえ、全て消し去ってしまいましょう」


 穏やかな笑みで、龍神は容赦のない言葉を吐き出した。


 ――蹂躙劇の、幕開けである。


 ◆


「――む?」


 日の出と同時に、デミアは毛布から顔を上げた。


 ……これは。


 日もまだ山の頂に隠れて、あたりは淡い青に包まれている。聞こえる音も、周りの者たちが立てる寝息ばかり。


 しかし、まるで肌が粟立つようなこの感覚。


「みな、すぐに起きよ!」


 珍しく、デミアが声を張った。

 アレクセイがまず目を覚まし、フェリア、ルフルが寝ぼけた状態で……しかし、ティアは起き抜けに目つきを鋭くし、


「……んだ、この感じ?」

「なにか、近付いておるな」


 アレクセイもなにか感じ取ったのか、集落の彼方。山の一角を見上げて気を張る。


「ん~……なんですか~、こんな朝早くに……」

「ルフル、今すぐに意識を覚醒させろ……厄介なのが来そうだ」

「はい?」


 と、御者の少女が首を傾げた瞬間――


 GIAAAAAAAAAAAAAA!!!


「ええっ!? ななな、なんですか今の!?」


 山の方から、鼓膜を引き裂くような咆哮が上がった。

 全員の視線が空へと上がり、そこに出現したのは――


「はっ! おいおいおいおい!!」

「ふむ……やはり昨日から感じていた気配は……」

「わぁ、わぁっ!! デミアさま! あれ! あれ!!」


 ティアが獰猛な笑みを浮かべ、デミアが納得したように頷き、フェリアは歓喜したように飛び跳ねて空を指さす。


 一方、アレクセイは額から下たる冷や汗を隠しきれず、ルフルはガタガタと体を震わせてへたり込んだ。


「そこにおったか――龍神よ」


 色づき始めた空に、魔獣を従えた巨大な影。

 ただそこにいるだけで恐怖を振りまき、その存在感は抗う意思さえ奪いつくす。しかし同時に、全身を覆う蒼鱗は、見た者の心を虜にするほど美しい。


 まるで清流が意思を宿したかのような流麗で長大な体躯。獰猛で、雄々しく、ただ見つめられるだけで跪いて頭を垂れたくなる勇壮な貌。長く伸びた髭、覗く乱杭歯、二本の角……創造神デミウルゴスがこの世界に生み出した眷属の一体。


 大気を裂くような咆哮に、集落の者たちが一斉に目覚める。

 外に飛び出した彼らの眼に、畏怖の象徴が映りこむ。同時に、周囲一帯から悲鳴が上がった。


「くっ!」


 まるでそれが合図であったかのように、空から二体の魔獣が集落へ向けて降下。更に、背中から飛び出したいくつもの影が、大地へ降り立った。


「リザードマン!」


 見た目は完全に二足歩行のトカゲ。その数二〇。褐色の鱗に全身を覆われた姿。鋭利な爪、口内にびっしりと並んだ牙。無機質な瞳が、集落の者たちへ向けられる。


「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁ~~っ!?」


 一人が悲鳴を上げて逃げ出し、同時にリザードマンが住民に襲い掛かる。


 アレクセイはすぐに飛び出し、転んだ男に爪を振り上げるリザードマンを殴り飛ばした。


「ちぃっ!!」


 頭の骨を砕いた。しかし殴り飛ばされたリザードマンは立ち上がり、アレクセイに爪を伸ばして飛び掛かる。

 腰から剣を抜き、アレクセイは相手の腕を斬り飛ばす。


 もんどりうつリザードマンの首を刎ね、地上を見渡し、空を見上げた。


「龍神……あいつの、眷属」


 辺り一帯から悲鳴が木霊する。逃げ惑う人々。吼える魔獣。


「冗談がきついっ!」


 いくら勇者でも、一人でこの状況は……

 思わず奥歯を噛んだ。手が少なすぎる。

 ひとが密集し過ぎて、広範囲の魔術を使っての殲滅は不可能。


 しかし、相手がデミアの眷属となると……カノジョたちに助力を頼むことは。


「――やめよ、龍神」


 ふいに、アレクセイの隣から声がした。

 デミアが、地上から空を見上げている。

 途端、暴れまわっていたリザードマンたちは動きを止め、空から龍が一気に地上へと舞い降りてくる。

 長大な躰から花弁のように蒼鱗が舞い、地上へ到達したそれは、美しいオンナの姿となっていた。


 その背後に、黒い鱗に覆われた飛竜が、まるでかしずくように降り立つ。


「あぁ……ああっ。やはり、わたくしの感じた気配は間違いではなかったのですね、お母さま!」


 オンナは群青色の長い髪を翻し、琥珀色の柔和な瞳から雫を浮かべながら、デミアへと駆け寄ってくる。


 しかし、その隣に立つアレクセイの存在に気付くと、その脚を止めた。


「お母さま……なぜ人間がそばに……いえ、それよりも――なぜ人間から、お母さまと同じ気配がしているのですか?」


 オンナの貌から笑みが消え、静かな殺意がアレクセイへと放たれた。


「ふむ……なんと説明すればよいか……」


 デミアは顎に指を添えた。アレクセイはデミアと龍神のやりとりを見守る。


「一言でいってしまえば、こやつは我の……」


 デミアはこちらを見上げ、少し考えるような素振りの後、


「そう。伴侶、のようなものじゃな」

「「は(はい)?」」


 などと、とてつもなく、危険な発言をかましてくれた。


 アレクセイと龍神は、デミアに言葉に、揃って目を丸くしてしまった。

今月の投稿はここまで

次回の投稿は四月の中旬から下旬

龍神との決着までをお届けします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ