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外で食うメシが、うまいとは限らない

 アレクセイたちが街を発ってから三日が過ぎた。

 

 今日の空は雲が多い。土の匂いがしてきたことを考えると、


「ひと雨きそうですね……」


 御者のルフルが空を見上げて言った。アレクセイも頷き「この辺りの街道に小屋はないのか?」と尋る。


「まだ少し先ですね。その前に降ってくるかもしれません」

「なら、この辺で雨をしのげる場所を探して、少し早いが野営の準備をしよう」


 どんな天候になるか分からない。今のところ風はないようだが、打ち付けるような雨が降ってくるかもしれない。

 無理に行軍しなければならないような、慌ただしい旅路でもない。食料の備蓄もそれなりに積んでいる。少しくらいのんびり構えても問題ないだろう。


「お前らもそれでいいか?」


 バ車の中で揺られているデミア、フェリア、ティアに振り返る。

 デミアが読んでいた本を閉じてアレクセイに視線を返す。


「うむ。本が濡れては適わぬしの。結界を張れんこともないが、無駄に魔力を消耗する必要もあるまい」

「私はアレクセイ様とデミア様に従います!」

「ぐ~、ぐ~……」


 デミアとフェリアは了承。ティアは相変わらず寝たまま……まぁ頷いたと思っていればいいか。


「なんだか本当にまったりした旅ですね~」


 のほほんとルフルが体を揺らす。普段は商人や冒険者を乗せて、慌ただしく地方を回ったりしていたらしい。

 それに比べて、今回は行き先も成り行き任せ。本当にゆったり、方々を回って錬金術で生計を立てるつもりらしい。

 

 少し言葉は悪いが、金持ちの道楽に近いかもしれない。

 アレクセイはギルドや錬金工房でそれなりに儲けていたと聞く。

 しかしあの治安の悪い貧民街の近く、それも小さな工房ひとつで、というのは、それだけ彼は周囲から頼りにされていたということの裏返しか。


 ルフルは改めて一行の顔ぶれを見回す。


 ……不思議な雰囲気のひとたちですねぇ。


 特に何か特別な力を見せたりしているわけでもないのに、なぜかアレクセイに惹き付けられるものを感じる。


「ん?」


 と、アレクセイが空を見上げた。頬に雨粒が触れる。ルフルも顔を上げ、「ああ、降ってきましたね~」と苦笑する。


「街道脇の森へ入ろう。すぐに天幕を準備する」

「承知しました」


 街道から外れ、付近の森にバ車を寄せる。ウマの手綱を木に結び、アレクセイが中心になって野営の準備を進める。

 荷車は森の中に入れ、念のため水はけのいい布で簡易的な天幕を作って、その下に停めておく。

 それとは別に、寝泊まり用の天幕をひとつ張り、木の下で火をおこして準備完了。


「相変わらず手慣れてますね」

「街に来る前も、色々と旅をして回ってたからな」


アレクセイは思わず苦笑する。五年前……世界の敵だと思っていたデミウルゴス……今はデミアと名乗る、ショウジョの姿をした神……を打倒するため、仲間と共に世界各地を巡り歩いた。


 アレクセイ……かつて『アレス・ブレイブ』と名乗り、『勇者』として活動していた彼。

 その身に宿した力は、『他者のジョブを複製し、己の力として行使できる』という破格なもの。


 アレスという存在を強化し、魔神の居所へと至る旅は、およそ三年に渡って続けられた。


 しかし、旅の中でアレスは、デミウルゴスとの戦いで他の仲間を失うことを恐れ……自分から離れていくよう、嫌われ者を演じるようになった。


 目論見は成功。デミウルゴスとの決戦直前とかなりギリギリではあったが、仲間だった三人の少女たち……マルティーナ、ソフィア、トウカは、彼の元を去って行った。


 そして――


「旦那様、本の頁がよれてしまうのじゃ」

「湿気のせいだな。読んでないときは木箱に戻しとけって」

「……いちいち取り出すのが面倒なんじゃが」

「あとでページがくっついて読めなくなるぞ」

「うむ」


 バ車の中に積まれた本を、デミアはせっせと戻していく。


「読書家ですねぇ。私、文字を眺めてるだけで眠くなっちゃっいます」

「もったいないのう。ひとの知識や思想、理念……道徳、歴史を覗き見れる、よい代物じゃというのに」

「私、勉強とか苦手なので」


 たはは~、と何気ない会話をするデミアとルフル。始めの頃、ルフルはデミアの容姿に気後れして、少し距離を感じたが。


 今では、普通に会話することができている。やはり御者という職業がら、他人と接する術に長けているらしい。


 ……ほんの数年前まで、人間を皆殺しにしようとしてたんだけどな。


 アレスとの戦いで、デミウルゴスは神としての力をほとんど失った。カノジョの目的は、魔術文明の発展により魔力を浪費する人間たちを消し去り、世界を安定させること。


 しかし、人間として、同族が滅ぼされる様を見ていることはできない。

 アレスがデミウルゴスの真意を知ったのは戦いの後……それでも彼は、きっと己の選択を違えることはなかっただろう。


 なにが真に正しい選択だったのか……それは今でも分からない。

 

 だが、人間が魔神の手により滅ぼされる未来を回避できたことを、アレス……アレクセイは後悔などしていなかった。


 が、なんの因果か……魔神との戦いで命を落としたはずの彼は、今では仇敵であったはずのデミウルゴス……デミアと共に生活している。

 カノジョの生み出した、魔獣を生む魔獣……フェニックスこと、フェリア。ティターンこと、ティアとも、寝食を共にし、生活は一変。


 気苦労の絶えない毎日を送っている。


「デミアさま~! アレクセイさま~! おいしそうなもの見つけました~!」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」


 いきなり森から顔を出したフェリア。カノジョの手には、一匹の蛇が握られている。ルフルは顔が青ざめて、一気にその場を飛び退いた。


「お、いいもの見つけたな。『フックヘッド』か。そいつの肝は解毒薬の素材になるんだが……もしかして、近くにもう少しいなかった?」


 ミーアから貰った本で得た知識だ。フックヘッドは群れで生活する蛇だ。一匹だけとは思えない。


「ここから少し奥にいったところに巣があったよ!」

「ひぃぃぃぃぃぃっ~~!? アレクセイ様! まさか、採りに行ったりしないですね!? ねぇ!?」

「いや、旅で見つけた素材をミーアに送ってやる約束してるんでな」

「そ、そんな~……」

「大丈夫。蛇はすぐに解体して肝だけにしてくる。フェリア、案内してくれ」

「わかった~!」


 アレクセイはフェリアを追って森の奥へと行ってしまった。


「そなた、蛇が苦手なのか?」

「はい~……昔からあのニョロっとした外見が苦手で……見ただけで鳥肌が立つと言いますか~」

「ふむ……となると、我の眷属のうち、『あやつ』との相性は悪そうじゃな」

「はい? けんぞく?」

「いや、こっちの話じゃ。それより、あやつらが戻ってくる前に、料理でもして時間を潰すとしようかの」


 本は木箱の中。天幕の中で読んでもいいのだが、せっかくの機会だ。夕げの準備をするとしよう。

 どうもアレクセイはデミアにあまり料理をさせたがらない。理由は単純。味が大雑把で甘すぎたり苦すぎたりしょっぱすぎたりと極端だからだ。

 

 どうもデミアは味覚音痴らしい。そもそも、味というものに触れる機会はほとんどなかった。彼女にとっては未知の感覚。

 しかしそれ故に、組み合わせでどんな味に変化するのか、実験するのが楽しいようである。

 

 尤も、ひととしての味覚をもつアレクセイには、カノジョの料理を口にすることはただの苦行でしかない。


「ティアは……ぜんぜん起きんのう」

「といいますか……私このひとが起きてるのみたこと全然ないんですけど」

「まぁ起きたら起きたで面倒じゃがな」


 なにせこのティア、目を覚ませばすぐ『戦え』と口にするような戦闘狂だ。

 この旅の中でも、なんどルフルに隠れて、アレクセイとフェリアが付き合わされたことか。


 デミアは荷車から調理道具を引っ張り出し、本で得た知識と、アレクセイの見よう見まねで調理台を準備する。


 食材を準備し、いざ調理、となった時――


 ふいに、雨が降りしきる中。地面の響くような音が聞こえて来た。


「うわ、すごい。あれ、王都の兵隊さんたちですね」


 ルフルが雨の中で行軍する遠征隊を眺める。掲げた旗には、ここから北に位置する王国の紋章が見て取れた。雨の中を行く彼らを注視すれば、先頭には鎧を被り物(フード)まとった騎士の姿が確認できる。 


「あやつらはこの雨の中、野営を準備しなくてもよいのか?」

「確か、簡易式の結界装置が配られているとか。なので、本格的に日が沈むか、雨脚が強くなるまでは行軍するんじゃないでしょうか?」

「そういうものか。しかし人間の兵士があれだけ集まるとは、いくさでもするつもりかのう」

「いえ、方角的にたぶん私たちの街に向かってるんじゃないでしょうか? だとしたら、慰問、とかじゃないですかね?」

「ふむ」

「でもそうなら、あの中の一人は王都のすっごい偉いひと、ってことですよね~」


 デミアは過ぎ去っていく一行を眺める。ルフルいわく、仮に通りで彼らとすれ違っていたら、脇に寄せて頭を垂れなくてはならかったと。


「おじいちゃんの話だと、昔は騎士とか兵士とすれ違うと、物資を持っていかれてた~、って怒ってましたね。まぁ、最近じゃそういうことはほとんどないみたいだけど。なんか、今の騎士団長様が厳格で公明なひとみたい。横暴な態度は騎士に非ず~、みたいな感じかな」

「さぁな」


 デミアの視線は、一行の先頭に立つ、被り物(フード)で雨を凌いでいる騎士に向けられていた。


 ……あやつ、他と比べて魔力量が抜きん出ておるな。


 とすれば、ルフルの言う、王都の偉いひと、とはおそらくアレのことか。人間の階級制度はそれだけではないのだが……今回のデミアの推測は、当たっていた。


「まぁ我には関係のないことじゃ。それより、さっそく料理じゃ」


 デミアは一行から視線を外し、調理を再開。

 王都からの遠征隊は遠ざかり、入れ替わるようにアレクセイとフェリアが戻ってくる。


 そして……カノジョの料理を前にアレクセイは顔をしかめ、ルフルは初めてソレを口にし……


「今度から料理当番は、私が全て担当します」

「なぜじゃ!?」


 デミアは、ルフルに料理禁止を言い渡された。

今回の更新はここまでになります

次回の更新予定は2月の中旬から下旬あたりを予定しております

期間を開けての投稿となりますこと、お詫び申し上げます

より良い作品に仕上げるため、しっかりと執筆にお時間を頂きく、どうかご理解をいただけますと幸いです

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