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騎士団長、発つ

 王都の王宮。アリーチェはアリアからの報告書に眉根を寄せた。


「北方大陸の獣人国家と隣国が衝突……ですか。これは確かな情報なのね?」

「はい。かの国が北方へ渡り、海岸付近の集落を襲撃。占領したとの報告が」

「わざわざ船で兵力を投入して……ね」

「いかがされますか?」

「様子見よ。そもそも宣戦布告もされていなのだし。かの国が関与しているのか、一部が暴走しているのか……いずれにしろ、国として立ち位置が明確でない以上、下手な動きは採れないわ。せいぜい抗議文を送るかどうか、といったところね」

「では……」

「監視を続けなさい。あるいは……北方側に支援を送ることになるかもしれないわ」

「どのように介入を?」

「人道支援、かしらね」


 それでかの国を批難できる材料が作れれば、王国として介入できる隙を作れるかもしれない。


「もう一件。先の商業都市へ続く街道の一件ですが」

「? その件ならすでにマルティーナから報告が上がっているはずよ」

「はい。ですが我々が入手した情報によりますと……どうやらマルティーナ様は、街道封鎖の調査で送った兵の報告から、一部の情報を抜き取ってお伝えした可能性があります」

「どういうこと?」

「こちらを」


 アリアは主人の手に一枚の似顔絵を差し出した。


「っ! これは」

「そちらはマルティーナ様が所持されていたものの写しになります。先日、調査隊に編入させた騎士の一人が、現場でその似顔絵の人物と接触……報告では兵士たちは土人形の群れと接触、対処困難な状況となり退避した、とあります……ですが実際は……殿下?」


 アリアの報告中にも関わらず、アリーチェは似顔絵を握りしめて紙面の奥の相手を凝視し続ける。

 似ている……彼に。他人の空似? その可能性は大いにある。だがならばなぜマルティーナは意図してこの似顔絵の存在を秘匿した? それはもちろん、彼女も自分と同じ結論に至ったからに他ならない。


 ……見つけましたわ。ようやく。


 思わず口元を抑え、似顔絵を握る手に力が入る。視界が滲むのを自覚し、アリーチェはアリアから顔を逸らして深く呼吸する。


「アリア」


 声が震えそうになる。だが、アリーチェはピンクダイヤのような瞳を真っ直ぐ彼女に向け、命じる。


「わたくしの下には最低限の者だけ残す形になっても構いません。あなたを含め、動けるもの全員でこの者を捜索し……わたくしの下に連れてきなさい」

「殿下。しかしそれでは、御身の守りが手薄に」

「大丈夫よ。さすがにすぐあなたたちの動きはばれないわ……それよりも、最近は過激派の大貴族たちが、わたくしの伴侶を擁立しようとする動きが日に日に目立ってきています……かの者たちを上から押さえつける意味でも、彼の存在は不可欠よ」

「……かしこまりました。可及的速やかに、この方をお連れ致します」

「頼みますよ、アリア」

「我が身命にかえましても」


 アリアは「すぐに準備に取り掛かります」と部屋を出る。

 扉の外に気配がなくなったのを確認し、アリアは再び似顔絵に視線を落とし、


「帰ってきてください……アレス……戻って、わたくしとの約束を果たして」


 ひとのいなくなった執務室に、とても小さな嗚咽が漏れた。


 ◆


 商業都市の街道が封鎖された件。その調査で上がってきた報告書を前に、騎士団長のマルティーナ・セイバーは目を見開いた。

 五年という月日の中で、彼女はより美しい女性へと成長していた。騎士団本部に設けられた彼女の部屋には、かつての仲間が残した宝剣が壁に飾られている。


 ……アレス。


 土人形の襲撃、それを全滅させたなぞの大魔術……そして、討ち漏らした一〇体を超える魔獣を一人で叩き伏せた男。

 報告書に添付されていた似顔絵を前に、マルティーナは何度もその人物の顔を確認してしまった。


 似たような人間の可能性は十分にある。だが、土人形ほどの魔獣……それも群れを相手に一人で大立ち回りできる人間など数えるほどしかいない。


「本当に、あんたなの……?」


 しかしどうしたものか。この件は王女に報告せねばならない。

 あの、異様に勇者という存在に固執している彼女に。


「下手したら番犬を総動員、なんてことになりかねないわね」


 そうなれば、この男の身柄が押さえられるのも時間の問題。

 

 ……王女には悪いけど。


 彼が王女の下に連れ出された場合、確実に国の政に利用される。勇者というジョブ、それは能力という枠組みだけではなく、称号として彼の存在を確立することになるだろう。


 そうなれば、国は彼を放っておかない。


「命がけで戦ってくれたんだから……もう、自由にしてあげないと、いけないわよね」


 もし彼に会える機会があったなら、マルティーナはありったけの謝意を示すつもりだ。叶えて欲しい望みがあるなら、この身が許す限りの力でもって叶えよう。


 ……まぁ、そもそもあの性格が、本当に演技だったのかも、わからないんだけどね。


 とはいえ、


「最低限の礼節は、尽くさないと」


 ならば動こう。今すぐに。


「行きましょう。報告にあった――商業都市へ」


 マルティーナは席を立ち、すぐに部隊の編成を始めた。

ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

次回の投稿予定は来年度の一月あたりになるかと思います。

間に時間が空いてしまいますが、どうかご容赦ください。

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