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敵の敵の敵

「……」


 ティアはまるで自身の状況を掴めずにいた。

 フェリアと戦い、いつものように引き分けたかと思った矢先、真っ黒な衣装に身を包んだオンナが現れた。

 オンナはフェリアに近づくと、通常であれば傷つけることすら困難なカノジョの肌に、短刀を突き刺した。それも喉元。

 

 ティアは臨戦態勢を取った。フェリアとの戦いでかなり消耗していたが、人間を殺す程度なら造作もない。

 ――相手が、人間であれば。


 ティアの踏み込みは並の戦士が対応できる速度ではない。拳を握り、相手の頭部を吹き飛ばす。

 

 しかし、現実はティアに「は?」などと呆けた声を吐かせた。


 なにがどうなかったのか? 今しがた、自分は相手を殴りつけたはずだ。なのに、なぜ自分は宙を飛んでいる?

 全身を襲う激痛。それもティアの頭は理解できず、強烈な熱として体中を駆け巡った。どことも知れない湖に着水し、カノジョは己が吹き飛ばされたのだと知った。


 湖面に浮いたティアは、空へと舞い上がる紅蓮を纏った鳳の姿を見た。

 首元で円を描く魔術式。もがき苦しむように飛翔したフェリアは、自分たちの拠点がある街へと飛び去った。


「おい……」


 おいおいおいおいおいおいおい!!


 まず初めに沸いた感情は、恐怖だった。それを実感すると同時に、ティアの目が血走る。


 なんだこれは? 躰が痛みで動かない。いやそんなことはどうでもいい。己は神に創造された最強種。天上天下において、自分は間違いなく上位の個体。それが、どこの誰とも知れない相手に恐怖『させられた』だと?


 ふざけるな!


「殺す!!」


 怒りが痛みを上回り、カノジョは擬態を解いて巨人の姿に変じた。

 柘榴石の瞳にギラギラとした危険な光を宿し、カノジョ:カレは咆哮した。


 目標は黒いオンナ、そしてフェリアである。最強種として、その存在は何物にも侵させてはならない。

 フェリアが何者かに魔術的浸食を受けたのは明白。


【我らは神の被造物……】


 何においても絶対的存在。それを、ああも容易に侵されるなど。

 そのような面汚し、生かしておいてなるものか。


 神の巨人(ティターン)は走る。大地を踏み砕きながら、同胞を殺し、汚辱から解放するために。穢したあのオンナを、蹂躙するために。


 ◆

 

 アレクセイは塔を駆け上る。大地が徐々に遠ざかり、代わりに魔獣を焼く烈火が爆ぜる空が近づいてくる。

 

 塔の先端が見えてきた。アレクセイは風の魔術式でもって圧縮された空気の爆弾を生成。塔の先へと至った瞬間、大きく空へと跳躍、同時に封じ込めていた大気の奔流を解放。アレクセイの背後から叩きつけられる烈風。

 

 彼は龍騎兵の跳躍力と風魔術の瞬間的な爆発的推力を得て、デミアの結界を突破した。


「は……さすがに高すぎる」


 これほどまでの高度に飛び出したのはこれが初めて。冷や汗が止まらない。しかし、こちらに飛び掛かってくる魔獣の群れに、アレクセイは眼光を鋭く光らせると、


「はぁっ!」


 魔獣の頭部を手にした斧でかち割り、その亡骸を足場にして更なる跳躍を見せる。デミアの魔術が敵味方の区別なく襲い来る。動くもの全てが標的。アレクセイは魔力の流れを読みながら、魔獣の躰を次々に足場にしては跳躍を繰り返す。


【GIAAAAAAAA!!!】


 突如、鼓膜を引き裂くような咆哮が上がる。見れば、遠方からこちらに向かって突進してくる、巨人の姿となったティアの姿があった。


「あいつ!」

【KIEEEEEEEE!!!】


 まるで、巨人の存在に呼応するかのようにフェリアもいなないた。巨人は手ごろな岩を手にすると、焔を纏った巨鳥目掛けて投擲。

 しかし岩をなんなく躱したフェリアは、従えた魔獣をティアに向けて放った。


「おいおいおい……まさかティアまで操られてるなんてことねぇだろうな」


 が、アレクセイの杞憂は最悪な形で晴らされることになる。


【フェニックス! 神の眷属たる我らの汚点! この場で殺してくれる!!】

「なっ!?」


 ティアは正気だ。正気の上で、フェリアを本気で殺そうとしている。


「はっ……こいつは、正気だろうが狂ってようが大差ねぇってか」

『アレクセイ、状況は? 外に出られたのじゃな?』

「ああ。だが厄介なことになってる。ティアが戻ってきた」

『ティアが?』

「あいつ、フェリアを本気で殺すつもりだ。なにがあったのかは知らないが……」

『ふむ………………ダメじゃ。こちらからの呼びかけにも答えん。アレクセイ、悪いがなんとかティアをなだめられんか?』

「……はは」


 思わず笑いがこみあげてくる。現状、魔獣を相手にしながら足場を確保し、フェリアに近づくことすら困難だ。それに加えて、ティアをどうにかなだめろときた。

 しかし、


「わかった。どうにかしてみる」

『うむ。我も呼びかけを続けてみるつもりじゃ。しかし、あまり期待はしないでくれ』

「おう」


 デミアとの通信が途切れる。混迷を極めた状況に、アレクセイは頭を振った。

 まずは現状の整理である。なにを優先すべきか。


 結論。まず第一にティアをどうにかして落ち着かせること。これができなくてはフェリアに近づくどころではない。

 アレクセイは行き先をティアへと変更。魔獣と焔の中を巨人へ向けて跳躍する。


「ティア! 止まれ!」


 アレクセイは声を張りながら巨人の足元へ降りた。巌のような顔つき、鎧のごとき筋肉に覆われた姿を前に、アレクセイは改めて神の眷属の威容を思い知る。


【貴様か。しばし待っていろ。あのモノを地に叩き落としてから相手をしてやる】


 なおもフェリアと交戦する意思を見せるティア。

 アレクセイは考える。この巨人を相手に、そもそも説得などというものが通じるのか否か?


 ……無理だ。


 この巨人は己こそ絶対。それ以外は一切が有象無象にすぎないのである。

 ならば、もはや採れる手段など限られている。


 アレクセイは「ああくそっ」と悪態を吐きながら跳んだ。彼はそのまま脚に力を入れると、ティアの側頭部に蹴りを見舞った。


【ぐぅっ!?】


 ティアはよろめきながら、自身を攻撃した矮小な存在を睨みつけた。


【貴様……】

「お前が言って聞かない相手なのは分かってる。だからこそ、俺もお前を相手に話をしようとは思わない」


 アレクセイとティアの視線が交差した。


「デミアは俺にフェリアを託した。あいつは、殺させない。それでもお前があいつを殺すというなら、俺はお前を叩き潰す」

【はっ……いつぞやの続きを今、この場でしようというのか? 人間】

「俺はそれでも構わない。ただし、お前は俺と一対一じゃないがな」

【っ!?】


 突如、ティアに向けてフェリアが空から爪を振り下ろしてきた。周りには魔獣の群れも押し寄せる。


【このっ!】


 剛腕を振るい、ティアはフェリアごと魔獣を薙ぎ払う。その一撃によって生じた隙を見逃さず、アレクセイはティアの顎を下から突き上げるように再び蹴りを見舞う。


【っ!? ちょこまかと――】


 ティアの視線がアレクセイに狙いを定める。しかしフェリアはいななきながらその巨体でティアに突進。上空から質量を乗せた攻撃はティアに膝を折らせる。


 アレクセイは間接的にフェリアと共闘。巨人の躰に拳を、脚を、時には魔術による一撃を繰り返す。


【ええいっ! 鬱陶しい!!】


 ティアが吼え、その巨体が小さくなっていく。アレクセイの目の前に、ボロボロになったティアがいた。


「くそ……てめぇら後で覚えてろよ。ぜってぇ殺してやる」


 唐突に標的を見失ったフェリアと魔獣たちは、辺りを旋回し始めた。

 ティアはアレクセイに殺意を宿した瞳で睨みつけ、その場に座り込む。


「ようやく大人しくなったか。決着はまた別の機会につけてやる。だが」


 アレクセイはティアに近づき、カノジョの顔を上から覗き込む。


「お前のせいで地面に降りる羽目になった。協力、してもらうぞ」

「は?」


 アレクセイは宙を見上げる。どうやら魔獣たちがこちらに気付いたらしい。

 一斉に空から下降してくるのが見えた。


 ……さぁ、最終局面だ。

次回の更新は2023年10月25日予定。

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