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臨時報酬と激務

「――なぁ、聞いたか? 例の封鎖地点」

「ああ。土人形クレイドールの異常発生で街道が通れなくなってたヤツだろ?」

「それがな、街道の封鎖で出張ってた街の衛兵とギルド(うち)の奴らが、現地ですっげぇ地面の揺れを感じてよ。そしたら王都側の街道に土人形どもの死体がゴロゴロしてたって話だぜ」

「それオレも聞いたぜ? 噂じゃ王都からとんでもねぇ魔術師連れてきて、やつ等を一網打尽にしたとか」

「いや、俺が聞いた話だと、うちに所属してる冒険者が、って感じだったんだが?」

「いや腕利きはほとんど外に出張ってるだろ。この辺じゃでかい討伐依頼は回ってこねぇから」

「となると、やっぱ王都の連中が……」

「でもよ、じゃあなんで土人形をそのまま放置してったんだよ。アレ、魔術師や錬金術師の間じゃそれなりに使える素材なんだろ? ほとんど手付かず、って聞いたぜ?」

「いや、最近話題の魔力結晶だけは綺麗に回収し尽されてたらしいぜ?」


 ギルドの中。最近街を騒がせていた街道に発生した魔獣の異常発生。つい最近、ギルドや街の政府合同で派遣した調査隊の報告によると……

 問題視されていた魔獣の群れは、そのほとんどが骸となって発見。付近で目撃されていた、巨大な魔獣の影もなかったという。

 代わりに、山の深部で狂熊ベオウルフの無残な死体が見つかったらしい。

 しかも、その周辺は竜巻でも通り過ぎたのかと思ってしまうほど、滅茶苦茶な有様だったと。


 現在、ギルドには『土人形の素材を回収したい』という、錬金術師の護衛依頼が後を絶たない。

 先程冒険者の一人が言っていたように、魔術師や錬金術師にとって土人形の土塊は触媒、素材として重宝される。

 魔力結晶が見つかるまでは、土人形、あるいは魔石兵ゴーレムから採れる外皮……もとい外殻には微弱ながらも魔力が宿っており、更には魔力を吸収するという性質がある。

 故に、魔術師や錬金術師たちは、これを用いて簡易術式を込めた魔道具を生成する。使い捨ての割に値が張るのが難点だが、魔術系のジョブではない者であっても、魔術を使えるとあって需要は多い。


 故に、街では現在、空前絶後の素材回収祭り状態。

 実に百以上に及ぶと予想される土人形たちの成れの果て。回収しても回収してもまだまだ現地に向かえば土人形の土塊が手に入る……この機を逃すまいと、錬金術師たちが躍起になって現地へ走っていた。

 当然、現地での安全を確保する意味で、冒険者たちへの依頼も舞い込んでくる。


「でもよ、土人形が見つかった地点……氷漬けだったんだろ?」

「みたいだな。なんらかの魔術の痕跡があるって話だが……正直、いったい何人の魔術師を雇えばあんな状態になるのか……末恐ろしいってうちの魔術師が顔を青くしてたぜ?」


 そう。現地は氷の魔術が使用された形跡があり、土人形もほとんどが氷の中に埋没した状態だ。街道は別の意味で使い物にならず、政府は地元の職人、ギルド所属の冒険者に依頼し、街道の整備にあたっている。


 おかげで、ギルドは金回りは非常によくなった半面、人手不足にあえいでいるのが現状だ。

 今は使える者がいればいくらでも使う。その辺の路上で転がってる浮浪者まがいも根こそぎ招集。仕事を斡旋して現地へと送り出していた。


「ブツブツブツブツ……」


 当然、そんな状況になれば受付の人間に回ってくる仕事の量も増えるわけで……長いことこの仕事についている彼女もまた、日々の激務に追われて目を逆立てていた。


 ……なんでこんなまとめて依頼書をよこすのよ、ちょっとくらい時期ずらせっての、右に倣えでまとめて依頼してくんじゃねぇよ。


 手元には錬金術師からの護衛依頼の束。すでに冒険者が自分で依頼を選別するより先に、ギルドから仕事を斡旋……もとい、押し付ける構図が続いていた。

 が、その対象も戦闘系のジョブ持ちに限られるため、ギルドの職員たちの間でも冒険者の取り合いが頻発していた。


 彼女にも顔なじみの『お抱え』と呼ばれる冒険者たちはいるが、それだけじゃとても手が回らない。近くの町や村に手紙を飛ばし、なんとか依頼を請けてもらえないかと連絡。


 ……でも遠くから来てもらうと費用に対して報酬額が高くないのよねぇ。


 まったくもって、誰があんな余計なことをしてくれたのか。

 街道から魔獣の脅威が去ったのは歓迎すべきだが、その代わりこの激務の山を発生させたことは万死に値する。


「大変そうだな」

「はぁっ!? ……ああ、あなたですか」


 忙しすぎてついガラの悪い声が出てしまった。しかしそこにいた相手を見上げていくらか表情を改める。


「なんですか? まさかアレクセイさんも護衛依頼を出しにきたんですか?」

「いや。俺はいつもの要件だよ。滋養剤、買い取ってくれるか?」

「……まずはあたしにそれ一本」

「はいよ」


 背中に背負った皮の入れ物から、アレクセイは琥珀色の液体が入った瓶を受付に手渡した。


「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……ぷはっ! よし!!」


 まるで酒飲みのような豪快さで滋養剤を一気に煽る受付。彼女は恥も外聞もなく口元を拭うと、途端に乱れた髪を整えて居住まいを正した。


「ありがとうございます。では、滋養剤の買取をさせていただきます」


 今更平静さを装っても遅いと思う……が、アレクセイは黙って背中の滋養剤をまとめて彼女に手渡した。

 見れば、周りで業務に励んでいる他の受付や職員たちの血走った視線が注がれている。


「いつもありがとうございます」

「今回は四十六本用意した」

「承知しました。『四十五』ですね。すぐに換金させていただきます」

「……はいよ」


 アレクセイは苦笑いを浮かべつつ、換金された硬貨を受け取る。

 ここ数日のお決まりな流れだ。即金で用意してもらう代わりに、持参した滋養剤を一本、受付に献上品……もとい賄賂……として渡している。


 ……まぁ、しょうがないか。


 金が入用の中、彼女にはだいぶ納品依頼を回してもらった。おまけに、今回のギルドのないの騒動に、自分たちが関わっているともなれば、滋養剤一本くらいなら安い物。


「アレクセイ様は採りにいかなくて良いのですか、土人形の素材」

「俺にはあまり必要でもないからな。この街で大きく商売するつもりもないし、必要になったら適当に採りに行くさ」

「アレクセイ様とミーナ様くらいですね。うちに滋養剤を持ってきてくれるのは……正直、とてもありがたいです」


 ミーナとは、街の工房を紹介してくれた錬金術師の名前だ。彼女も土人形の素材回収より、ギルドに滋養剤の納品するのを優先している。

 

「こっちとしても、普段より高く買ってくれるぶんありがたいよ」

「ええ、それはもう寝る間があるなら働いていた方がいいくらいなのですが、あいにくと眠気は来ますし疲れますしで、もう皆さんこの滋養剤でなんとか日々を……ブツブツブツブツ」

「……今度は別のナニかを用意しておくよ」


 ぐっすりと安眠できて疲れが取れるようなナニかを……目から光が消えて滋養剤の瓶を片手に呪詛をまき散らす受付。アレクセイは帰りに調合書を漁っていくことを決めた。


 ちなみに、アレクセイの目がなくなった途端、用意した滋養剤に職員が屍鬼グールのごとく殺到したのを、冒険者たちは恐れおののき見つめていた。


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