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巨人は戦闘狂

 ティターンと呼ばれた褐色肌のオンナ。

 カノジョは眼下のデミアを見下ろし、わずかに目を見開く。


「は? まさか姉御?」

「うむ、そう呼ばれるのも久しぶりじゃな。しかし、よもやこの場で再会することになるとは思わなかったぞ」

「それはこっちの台詞……………あんた、随分と魔力量減ってねぇか?」

「我も色々あっての……」

「ふ~ん」


 ティターンは目を細めた。すると、フェリアが前に出てティターンを前に両手を振る。


「わ~! ティターン! 久しぶり~!」

「あん? って、フェニックスか。相変わらずちっせぇな、おい」

「えっへん!」

「褒めてねぇよ……その姿だとやっぱガキくせぇんだよな……まぁ、それはいいんだけどよ……」


 おもむろに、ティターンの視線がアレクセイへと注がれる。


「なんで人間なんかと一緒にいる? そいつはなんだ? 妙な気配させやがって」

「こやつは……まぁ、案内人、と言ったところかの」

「案内人? んだそりゃ?」

「まぁ、話せば長い……降りてこい、我らの近況を語って聞かせよう」


 ティターンは訝しみながらも、アレクセイたちの前に降り立った。


「……が、その前にその血油塗れの体をなんとかせよ。臭くてかなわん」


 デミアはティターンの頭から水を盛大にぶっ掛け、カノジョの体を強引に洗い流した。ティターンは「なにするんだ姉御!」と声を荒立てていたが、フェリアは全身を滴らせるティターンを指さして笑っていた。


 しかしデミアは素知らぬ顔で訥々《とつとつ》と、これまでのことをティターンに話して聞かせる。


「――というわけじゃ」

「はん。つまりそこの人間に姉御が負けたわけか」

「むぅ~……そういうことじゃ」


 デミアは意外と負けず嫌いなのか、ティターンの言葉に眉根を寄せた。

 神としての誇りや矜持故に、人間相手に下された事実を素直に認めがたいのかもしれない。


「納得だ。最近やけに魔獣の生成に回せる魔力の循環がおせぇと思ってたら、そういうことだったわけか」

「うむ。我という中継地点が消失したことで、魔獣の魔力が世界樹へ還元されなくなってしまった……故に、土地の魔力だけでは十分に魔獣を生成できなかったのではないか?」

「おう。せっかく良さげな街見つけて次の標的にしよと思ってたのによ……」


 全然魔獣を作れず攻めあぐねていた、とティターンの口は語った。

 あの街は世界中に支部を置くギルドの総本山。それはつまり、あの街にはかなりやり手の冒険者がそろっているということ。

 ティターンの話では、土人形を何度か街に向けてけしかけたそうだが、悉く返り討ちにされたそうだ。


「もう苛立ってしょうがねぇ……姉御からは極力人間どもの前には姿を見せんな、って話だったから我慢したけどよ」


 意外と、この粗暴な態度に反して、デミアに対する敬意はある程度持ち合わせているらしい。

 デミアとしては、魔獣を生み出せる存在であるカノジョたちが、直接人間と対峙するのを避けたかった。

 眷属として特異な力を分け与えられたカノジョたちではあるが、万が一がない、とも言い切れない。

 が、ティターン曰く、そろそろ自分が『出ていく』つもりだったらしい。


「もうよい。これ以上魔獣を生み出せば世界の終わりを早めるだけ……そなたには悪いが、新しい生き方を探してもらわねばならん」

「は? なにを今更。何千年も、オレたちは姉御の目的を果たすために」

「わかっておる。わかっておるが……なれば、そなたはどうしたいのじゃ?」

「オレの性分は闘争だ。これまでは姉御に免じて、オレが直接手を出すさねぇようにしてただけでしかねぇ」

「なるほど、つまり」

「ああ……魔獣を使った代理戦闘もオレから取り上げるってんなら……たとえ姉御だろうが……」


 途端、両者の間に魔力同士の衝突による火花が散った。フェリアは「え、え?」と両社に視線を行ったり来たりさせながら、何が起きているのかわかっていない様子。


「たとえ墜たとて、我は世界の創造神……そなたが世界にとっての害悪になるのであれば、是非もなし」

「はっ……いいなその眼……肌が灼けそうだぜ」


 今にも戦いが始まろうという場面。さすがに見過ごせないとアレクセイはカノジョたちの間に割って入った。


「あ? なんだ人間? 退け。死にてぇのか? ……いや、いっそ姉御ごとぶっ殺してやる」

「……はぁ」


 アレクセイは思わずため息を吐いた。ティターンの眉がピクリと跳ねる。


「わかった……お前の欲求不満の相手は、俺がする」

「は? てめぇが?」

「これでもお前の主に土をつけたんだ。お前の相手として、そう不足は――つ!?」


 アレクセイが全てを語るより先に、ティターンの拳が放たれていた。

 次の瞬間、拳が彼の頭を吹き飛ばす……そんな幻影がハッキリと見えるほど、ひとの身で抗うには行き過ぎた暴力。

 しかし、アレクセイは鈍らな大剣で、カノジョの拳を横に受け流した。力の行き先は地面。突き刺さった拳は大地を放射状に隆起させ、背後の森を一部消し飛ばした。


「へぇ……」


 途端、柘榴石の瞳にケダモノの光が宿る。


「なるほど……姉御を下したって話、まんざら嘘ってわけでもねぇみてぇだな」


 口端が持ち上がり、ギラつく視線が殺意の波動と共にアレクレイを射貫く。


「いいぜ……オレの欲求、満たしてみろよ――人間!!」


 獰猛な笑みを張り付けて、ティターンはアレクセイへと飛び掛かった――


 ◆


 アレクレイとティターンの戦闘が始まったのと時を同じくして、その光景を山の頂から見下ろす者の姿があった。


「ああ、やっと見つけたかと思ったら、なんとも……」


 嘆かわしい、と……顔の半分を被り物(フード)で覆ったオンナは、頬に手を当てて頭を振った。


「まさか、彼の魂を『アレ』に握られるなんて……なんという不覚」


 口惜しいと言わんばかりに、カノジョは口から深く息を吐き出した。


「さて、どうしたものでしょう」


 せっかく彼の魂を回収できるよう、『ヒモ』を括っていたというのに。余計な存在モノが間に混じったせいで、目論見が外れた。

 混じり合った二つの魂を引きはがすのは容易ではない。強引に引き裂いても不純物を完全に除去することは不可能。


「巨大な魔力の衝撃で、二つの魂をもろとも粉々にできれば話は早いのですが」


 一度、構成された二つの魂をバラバラにし、必要な魂のみを回収する。

 手間が掛かるうえ、一部に欠損も生じるだろうが……


「でも、アレの魂を砕けるだけの魔力衝撃となると……」


 オンナは眼下を見下ろし、白金の髪をした神の傍に侍る、小さな従者の存在に目を向けた。


「ああ。そういえば、ちょうどいいのがあったわね」


 赤い唇が弧を描き、被り物の奥から覗く瑠璃(ラピス)のような瞳が柔らかく細められた。


「これまでだいぶやんちゃしてくれたようだし……その分を償ってもらわないといけないわよね」



 ふふふふふ――


 虚空に溶けるように、オンナは姿を消し、後には怪しい笑いだけが残響した。

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