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第43話 師弟

 みなとみらいを一望できる高層ビルの最上階に入っている、とある店。そこの個室へ案内された5人は、思うままに料理を注文していた。

 特に食べ放題というわけではない。どちらかと言えば和食のコースを出すような店なのだが、モチャの計らいで好きなものを好きなだけ注文できるようにしてもらっている。

 もちろん、その分の代金は請求される。

 でも、それをやっても許されるほどの知名度と、金が腐るほどあるモチャだからやれることだ。


 5人は各々、自分の好きなものを注文した。

 向日葵とモチャは肉系。美空と八百音は魚介系。意外にも鬼さんは、精進料理を食べている。



「〜〜〜〜っ! うまっ、うまっ……!」

「さすが、シェフの腕が違うわ。このステーキなんか、口で溶けるっ」



 向日葵も、モチャも。美味しそうに食べる姿が本当に似ている。まるで姉妹みたいだ。

 娘のように可愛い向日葵と、最推しで最カワのモチャを横目に、親友(八百音)好きな人(鬼さん)に囲まれる。



(脳汁出る)

「美空、その比喩キモい」

「人の心勝手に読むのやめて」



 だから口にしなかったのに。

 八百音は刺身を咀嚼して、「それより」と口を開いた。



「ご飯食べたら、どこ行くん? 美空が行き先決めてるんだよね?」

「うん。午前のうちに観光はしたし、ショッピングに行こうかなって。みなとみらいはたくさんショッピングモールがあるし」

「お、いいじゃん。どうせなら、向日葵ちゃんにもちゃんとオシャレさせてあげたいよね」



 この1週間で向日葵と一緒にいろんな動画を見漁った結果、意外にもオシャレに興味があるようで、ショッピングを1番楽しみにしてくれていた。

 美空もオシャレは好きだし、ショッピングもしたかったから、丁度いい。



「という訳で、鬼さん。荷物持ちお願いね♡」

「ちょ、八百音っ。それは失礼じゃ……!」

「ええ、構いませんよ。ですが……すみません、少しだけ用事があるので、席を外します。1時間程で戻ってきますので、先にお店を回っていてください。あとで追いつきますので」

「え? は、はい……」



 用事とはなんだろうか。そんなこと、聞いていなかったが。

 自分の分の食事を食べ終えた鬼さんは、財布を丸ごとモチャに渡した。



「深雷さん、ここはこれでお支払いを。常識の範囲内でなら、好きなものを食べていいですよ」

「マジっ? さすがセンパイっ。ゴチでーす!」



 それだけ言い残し、鬼さんは部屋を出て行ってしまった。



「どうしたんだろうね、鬼さん」

「さあ……モチャさん、何か聞いてます?」

「んにゃ、知らないにゃ〜」

「にゃ!」



 モチャの真似をして、向日葵は両手を元気よく上げた。

 まあ、鬼さんなら大丈夫だろう。

 深く考えず、美空たちは食事を再開した。



   ◆◆◆



 横浜ランドマークタワー、屋上(、、)

 一般人は絶対に立ち入れない場所に、1人の男がスマートに立っていた。

 腕まくりをしている白いワイシャツに、暑い中しっかりと締めているネクタイ。シワひとつないスラックス。磨かれた黒の革靴。手には革のグローブ。腰に2本の刀を携えている。

 ──下層攻略者、レビウスだ。


 地上を見下ろす眼光は鋭く、猛禽類を思わせる獰猛さを秘めていた。

 そんな男のすぐ横──気配を完全に殺したもう1人の男が、一定の距離をとって現れた。

 もちろん、鬼原である。



「お久しぶりです、月影(つきかげ)さん。モンスターハウス以来ですね」

「……はい、師父。ご無沙汰しております」



 レビウスは跪き、鬼原に頭を垂れる。最上級の敬意に、鬼原は苦笑いを浮かべた。



「それ、恥ずかしいのでやめてもらえると嬉しいんですけど」

「私が師と崇めるお方は、あなただけですから」

「……まあいいでしょう」



 レビウスが信念を曲げたことはない。こうと決めたことは、意地でもやり通す。

 弟子として見てきた10数年間。彼のことはよくわかっていた。

 だからこそ、レビウスの気配に気付けたのかもしれない。



「あなたですね、私たちをつけていたのは?」



 優しく問いかけながら、少しだけ戦闘のスイッチを入れる。

 常人なら冷や汗を流すほどの圧を、レビウスは無表情で受け流した。



「さすが、気付いていらっしゃったのですね。……失礼かと思いましたが、状況が状況でしたので」



 まるで幽鬼のように、ゆらりと立ち上がって鬼原を睨めつける。

 相当の圧だが、鬼原も平然とした顔をしている。

 2人の圧が広がっていき、時空が歪んでいく。

 一触即発の空気だが、止める者は誰もいない。もし何かの拍子に緊張の糸が切れたら……ここは、戦場になる。



「師父。なぜ精霊を匿っているのですか」

「いけませんか? 可愛らし少女ではないですか」

「ですが、精霊です。精霊の怖さは、師父が1番知っているでしょう」



 レビウスの言葉に、過去の光景が脳裏を駆け巡る。

 が、直ぐにそれを頭から振り払った。



「確かに、精霊は怖いものです。ひとつの爆弾のようなものですから」

「では、なぜ」

「……皆さんが、楽しそうにしているものですから……つい、情が移ってしまいました」



 まさか、鬼原からこんな言葉が出るとは思わなかったのか、レビウスの圧が僅かに揺らいだ。

 もちろん──その隙を見逃す鬼原ではない。

 瞬時にレビウスの背後に回って取り抑えようとする。が、レビウスも只者ではない。本能と直感に近い形で反射的に避け、鬼原がさっきまでいた場所まで下がった。

 ゼロコンマ数秒のやり取りで、2人の位置が逆転する。



「また速くなりましたね、月影さん」

「師父こそ、今なお強くなっておられますね」



 今の一瞬で、互いの強さを把握する2人。

 また、重苦しい沈黙が流れる。



「……月影さん。このことは、局長には?」

「まだ報告していません。師父の動きが怪しいと思い、独断で動いています」



 レビウスの言葉に、少しだけ安堵した。

 もし即報告されていたら、すでに何人もの刺客がみんなを襲っているだろう。



「申し訳ありませんが、もうしばらく見守っていてくれませんかね、彼女たちのことを」

「承諾しかねます」

「すべての責任は私が取ります。……何かあった場合、あの子を抹殺することを約束しましょう」



 鬼原も、頑として自分の意見は曲げない。

 互いに1歩も引かずに睨み合う。と……レビウスから迸る圧が、霧散した。



「あなたにそこまで言わせるなんて……優秀なのですね、彼女たちは」

「いえ。手のかかる子ばかりですよ」

「では、なぜ?」

「手のかかる子ほど、可愛いではありませんか。昔のあなたのようにね」

「…………」



 まさかの返しをされ、レビウスは気が抜けたのか肩を竦めた。



「わかりました、今は引きます。……ですが、忘れないでくださいね。私は常に、監視していることを」

「ええ、心得ています」



 この場を去ろうと、レビウスが鬼原に背を向けるが、鬼原が「ああそうだ」とレビウスを呼び止めた。



「お仕事の方は、順調ですか?」

「……大変ですよ、あなたの代わりは(、、、、、、、、)

「そうでしょう。頑張ってくださいね、応援しています」

「……ありがとうございます」



 今度こそ、レビウスはランドマークタワーの屋上から飛び降り、一瞬にしてこの場から姿を消した。



「さて……月影さんに愛想を尽かされないよう、私も頑張りましょうか」



 そろそろ約束の1時間だ。

 鬼原は1番存在感の強いモチャの気配を感じ取ると、レビウスが降りていった方とは逆側から、飛び降りたのだった。

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