表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/56

第42話 鬼さんの秘密

 きっちり1時間後。5人を乗せた無人タクシーは、無事みなとみらいまでやって来た。

 みなとみらいは横浜屈指の観光地だ。歩いて中華街にも行けるし、時代の流れに負けず、歴史的建造物も数多く経っている。

 ダンジョンの恩恵を受けた近未来の建物やテーマパークもあり、過去と未来を一度に体験できるとして、注目を集めている。

 案の定、今日は平日だというのに、すごい人出だった。



「相変わらず、めちゃくちゃな賑わいだねぃ」

「私はよく友達と来ますけど、これでも少ない方ですよ」

「マジでか。誰かと遊びに行くことなんてないからなぁ、アタシ」



 サラッと悲しいことを言うモチャをスルーして、向日葵に目を向ける。

 初めて見る人工物に怖がっているのか、それとも驚いているのか……キョトンとしてリアクションが薄い。



「どう、ひまちゃん。ここがダンジョンの外だよ」

「……ひと……たくしゃん、おりゅ……」

「あ、そっちか〜」



 人の多さに怖がっているらしい。美空の手を掴んで離さない。その方が迷子にならなくていいけど。



「さて、皆さん。時間も限られていますし、さっそく移動しましょうか」

「そ、そうですね。それじゃ、行きましょう」






 特に説明らしい説明はせず、みなとみらいを歩き回って、向日葵にいろんなものを見せていく。

 説明しても向日葵にはわからないだろうし、正直自分も歴史とか興味ないから。

 でも、過去と今が混在するこの街は、とても綺麗だとは思う。

 向日葵も同じなのか、見るもの全部に興味を示して目を輝かせていた。



「やおちゃっ、ありぇ、でっか!」

「おー、でっかいねぇ〜。どれ、八百音ちゃんが肩車してやろうっ」

「キャーッ♡」



 八百音に肩車されて、嬉しそうにはしゃぐ向日葵。

 あんまり目立つことは避けたいけど、向日葵が喜ぶなら、これくらいならいいだろう。

 前を歩く向日葵、八百音、モチャを見ながら、鬼さんと並んで追いかける。



「ふふ。楽しそうでよかったですね、向日葵さん」

「ですね……すみません鬼さん。無茶なことを言ってしまって」

「お気になさらず。向日葵さんに今の人生を楽しんでもらいたいという気持ちは、私も同じですから」



 まるで孫を見るような目で、はしゃぐ向日葵を見る鬼さん。

 微笑ましそうにしている鬼さんを横目に、ある疑問が沸いた。

 ここまで強くて、優しくて、行動力もあって……どうして独り身なのだろう。公安に属してたから、身内を作る訳にはいかなかったのだろうか。



「どうかしました?」



 美空の視線に気付いていたのか、鬼さんが3人から視線を外さず、口を開いた。



「あ、いえ。なんでも……」

「そうですか? もし不安なことがあるなら、なんでも言ってください。あなたの為なら、なんでもしますから」

(だからそういう思わせぶりな……! はぁ……多分、今まで会ってきた女性に、こういうことばっかり言ってきたんだろうなぁ……)



 鬼さんを睨み上げると、自分がしたことに自覚がないのか、キョトンとした顔をされた。こんな顔もするのか、鬼さんは。

 けど、こうなると気になってくる。今までの女性遍歴とか、実は今彼女がいるとか。



「鬼さんって、今までいいなって思った女性とかいないんですか?」

「突然ですね」

「い、いいじゃないですか。恋バナが好きなお年頃なんです。ほら、年上の男性の恋バナなんて、なかなか聞けないじゃないですか。だからちょっと気になったというか……」



 自分でも早口になっている自覚はある。少しわざとらしい言い回しだし、違和感があるのはわかる。

 けど鬼さんは、仕方ないなという風に笑い、少しだけ目を細めた。



「……いましたよ、1人だけ。結婚もしていました」



 ──ドキッ。まさかの回答に、つい心臓が跳ね上がった。

 結婚もしていた、ということは……今は別れ、バツイチだということだ。

 思わぬ過去に、急激に喉が渇く。

 ねばつく唾液を飲み込み、震える口を開いた。



「そ、その人は、今……」

「さあ、どうでしょう。私が組織に入るの切っ掛けに、別れてしまいましたから」



 組織。つまり、公安。

 公安0課は世間には知られてはいけない、秘密の組織。その中で執行人となると、家族という弱みを握られてはいけないのだろう。モチャも、親しい男は出来たことないと言っていた。

 だから、別れた……仕方ないことだが、鬼さんの仕事人間っぷりが伺える。



「……後悔は、していないんですか?」

「していません。仕事に誇りを持って臨んでいましたから。……まあ、それも辞めてしまったのですがね」



 照れくさそうに笑う鬼さんを見て、美空もつい笑ってしまった。

 化け物みたいに強い鬼さんでも、こんな人間らしい一面があると知れて、嬉しくなった。



「ごめんなさい。過去のことを聞いてしまって」

「大丈夫です。過去があって、今の私がいるのですから。……あれから、20年になるんですねぇ。あの子(、、、)も大きくなっているでしょうか」

「20年ですか。それは随分と前の……ん?」



 ………………………………………………………????



「んっ!?!?」

「どうかしました?」

「いやどうかしましたって、こっちのセリフですがっ!? え、鬼さん、子供いるの……!?」

「ええ、いますよ。離婚してからは、会っていませんが」



 なんでもないような感じで言われ、より困惑してしまった。

 鬼さんの優しさやカッコ良さから、過去に結婚していたことに驚きはない。バツイチなのも、納得できる。

 が、まさか子供までいるとは思わなかった。20年前ということは、子供も20歳前後。かなりの衝撃だった。



「……鬼さんとは1年の付き合いになるのに、知らないことがたくさんありますね」

「秘密の多い男ですから」

「……魅力的だと思いますよ」

「はっはっは。若い子に褒められると、気恥しいですね」



 かなり勇気を振り絞った本心なのだが、鬼さんは歯牙にもかけない。

 今は本気にされなくても、バツイチでも、歳上の子供がいても……アピールの手を緩めることはしない。

 ……自分でも、かなり惚れ込んでいるのはわかっている。

 けど、そんなんで引くほど、お行儀のいい女ではないのだ。

 と……随分みんなから離れているのに気付いた。かなり話し込んでしまったみたいだ。



「鬼さん、行きましょう。置いていかれちゃいますっ」

「そうですね。はぐれてしまっては、元も子もありませんから」



 少しペースを上げて、急いで3人に追いついた。

 2人の空気がさっきと違うのに気付いたのか、モチャが訝しげな顔で振り向く。



「お2人さん。なーに話してたのかにゃ?」

「べ、別になんでもありませんよ。ね、鬼さん」

「ええ。世間話の延長です」

「ほーーーーん……へぇーーーーーーー……?」



 かなり怪しまれているが、この話を自分からする訳にはいかない。

 貼り付けた笑顔でやり過ごすと、モチャは諦めたのかそっと嘆息した。



「まーいいや。そろそろお昼時だし、ご飯食べ行こう。アタシの行きつけの店を予約しといたから」

「ごは?」

「そだよ、ひま。ご飯食べ行こうね」

「たべりゅっ」



 ずっとダンジョンにいた向日葵は、楽しみと言えばDTuberの配信と、ご飯くらいだった。そのせいか向日葵は食事が好きで、今も嬉しそうに八百音の肩の上でゆらゆら揺れている。



「でもモチャさん。向日葵ちゃんのこと、周りのお客さんにバレない?」

「ふっふーん。ヤオたそ、アタシを見くびってもらっちゃ困るよ。ちゃんと個室を取ってるから、安心安全だからねぃ」

「おお、さすがモチャさん。よ、金持ちっ」

「その持ち上げ方やめな?」

続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!


下部の星マークで評価出来ますので!


☆☆☆☆☆→★★★★★


こうして頂くと泣いて喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ