表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/56

第41話 現代の技術

 準備に準備を重ね、鬼さん、八百音、モチャからの手伝いを経ること1週間。

 ついに、待ちに待った今日がやって来た。

 この1週間で、ネットを通じて向日葵に外のことを話し続けた結果、今日という日を待ちかねたように、朝から元気いっぱいだ。

 向日葵のお出掛け用に購入したノースリーブのシャツにワンピースを着させ、髪も三つ編みにしている。つば広の帽子も被っているから、じっと観察しないとニュースになった精霊とは誰も気付かないだろう。



「お出掛け、楽しみだね~」

「う! おしょと、たのしみ!」



 早く外に行きたいのか、美空の腕の中でずっとそわそわしている向日葵。

 それを見ている八百音とモチャは、ほっこりとした顔をしていた。



「あぁ~……娘ができたら、こんな気分なのかねぇ」

「モチャさんは娘がいてもおかしくない年齢だよね。結婚とか考え――」

「ヤオたそ」

「失言っした」



 同じ人に気を寄せているからか、モチャはそういった話題には、意外とナイーブなのだ。年齢にしては、可愛いところも――



「おいコラお嬢」

「なんも言ってませんよね」



 なぜこっちの考えを読めるのだろうか。未だに謎である。

 モチャからの白い目を受け流していると、空間のある一部分がねじ曲がり、穴が開いた。

 どこに通じているのかわからない空間の穴。そこから、鬼さんがひょっこり顔を覗かせた。



「お待たせしました、皆さん。準備はできましたか?」

「もちろんですっ。ね、ひまちゃん」

「あい!」

「こっちもいいよ、センパイ」

「鬼さん、よろしくでーす」



 みんなが返事をして、鬼さんは朗らかな笑顔を見せた。



「それでは、お1人ずつどうぞ。靴は脱いで、持って来てくださいね。美空さんは、向日葵さんとご一緒に」

「はい。それじゃあ、ひまちゃん。行くよ」

「う!」



 向日葵を抱っこしたまま、美空は穴に足を踏み入れた。

 この1週間で説明は受けていたが、いざ入るとなるとちょっと緊張する。

 足を踏み入れると、妙な浮遊感を感じた。が、それもすぐに収まり、目の前の景色が一転して、どこかの部屋の一室に変わる。



「ここが、鬼さんの師匠さんのおうち……ですか?」

「はい。師匠は今世界中のダンジョンを巡っているため、私が管理していますがね」



 このご時世には珍しい、畳の部屋だ。綺麗に管理されているからか、新築のような香りがする。

 部屋の壁を見ると、和室には似合わない妙ちくりんな機械が埋め込まれていた。

 これは、鬼さんの師匠の開発した、ダンジョンゲート生成機。座標を指定した場所に自由にゲートを作り出せる機械らしい。

 どうやってこんなものを作ったのかは、鬼さんでもわからないらしい。ダンジョン最下層の中でも最奥にしかない、希少中の希少な鉱石を50キロも使っているらしいが、原理は不明とのこと。完全にオーバーテクノロジーだ。

 しかし古いものらしく、もう1年もすれば完全に壊れてしまうみたいだ。まだ使えて、本当によかった。



「お師匠さん、なんでこんなもの作ったんですかね。普通にダンジョンゲートに向かえばいいのでは?」

「ふふ。残念ながら、それはできません」

「え?」



 言っている意味がわからずに、鬼さんを見上げようとすると、抱っこしていた向日葵が下ろしてほしそうに美空の手を叩いた。

 さっきの話は、別の機会にでも聞いてみよう。

 向日葵を畳の上に下ろすと、嬉しそうな顔で寝転がった。



「みしょら、やーらかい!」



 新しい場所がよっぽど嬉しいのか、向日葵は目をキラキラさせて畳の上を転がっている。

 思えば、ダンジョン内はすべて岩石や鉱石で埋め尽くされている。こうした柔らかい床は、向日葵には初めての経験だ。

 ずっと転がり回っている向日葵を見ていると、後から八百音、モチャの順にこっちに出てきた。



「おお。本当にダンジョンの外だ……」

「どういう原理なんだか……センパイの師匠、何者?」

「さあ。元気なお人だということは、確かですが……さて、時間もありません。行きましょうか」



 鬼さんが前を歩き、それについて行く。

 どうやらこの部屋だけじゃなく、家全体が昔ながらの風貌をしているみたいだ。廊下も、キッチンも、他の部屋も、何もかもが古風な印象がある。

 みんなが横一列になっても余裕があるくらい広い玄関で靴を履き、いざ外に。

 玄関先には広い庭と、その先にには森が広がっている。こんな大自然に囲まれた場所、今まで来たことがない。



「鬼さん。ここどこなんですか?」

「神奈川県の山中です。細かい場所は言えませんが。ここからは車で移動しますよ。もう少しでタクシーが来ますので、待っていてください」



 神奈川県でここまで自然が豊かということは、西側のどこかなのだろうか。

 八百音も美空と同じで都会生まれ都会育ち。こういった場所には慣れていないのか、目を輝かせて周りを見渡していた。モチャも久々の自然を満喫するように、大きく深呼吸をしている。

 対して、向日葵は……反応がない。大自然を前に、口を開けて呆然としていた。



「ひまちゃん、どう? 初めてのお外は」

「……うえ……ない……?」

「上? ああ、空のこと?」

「しょら……?」

「うん。ダンジョンの外は天井はないの。遮るものなんて、ないんだよ」

「……しゅごい……」



 よっぽど感動しているのか、目を輝かせて空に手を伸ばす。

 空、雲、太陽、森、芝生。すべてが、向日葵にとって初体験のものだ。感動もひとしおだろう。

 しばらく待っていると、鬼さんが手配した無人タクシーがやって来た。

 初めて見るものに、向日葵は飛び上がって八百音の後ろに隠れる。



「やぉ、こわぃ……!」

「大丈夫だよ、向日葵ちゃん。これは遠くまで移動するための乗り物だからさ」

「ぅぅ……?」



 まだ怖がっているのか、向日葵は八百音から離れようとしない。先に乗ってしまった方が早そうだ。

 無人タクシーの前には、鬼さんとモチャが。後ろには、先に美空が乗り込む。



「ほら、ひまちゃん。乗っても怖くないよ」

「……のりゅ……」



 八百音と手を繋ぎながら、向日葵は頑張って後部座席に乗り込んだ。美空と八百音の腕を抱き締めて、緊張した顔をしている。



「皆さん、乗りましたか? それでは出発しましょう」



 鬼さんがタクシーの行き先ボタンを押すと、静音モーターが作動して、ゆっくり動き出した。

 庭から森。森から畑。畑から国道。国道から高速道路に出て、ぐんぐん加速していく。無人車が当たり前となった今、高速道路での事故や煽り運転、渋滞は滅多に起こらず、一定の速度で進んでいる。

 最初こそ怖がっていた向日葵だが、なんともないとわかると、ほっと息を吐いて力を抜いた。



「向日葵ちゃん、お外見る?」

「! みりゅ!」



 八百音が向日葵と席を交換すると、窓に張り付いて外を見た。

 大昔の旧高速道路は森や山岳の中を走っていたらしいが、今は頑丈かつ硬度の高い鉱石を使って作られた、上空に橋のように伸びる新高速道路を走っている。遮る山々も、転落防止の壁もない。見渡す限りの大自然が広がっていた。

 車には無駄なものが一切搭載されていないため、広々とした設計の車内は、ある程度自由が確保されている。

 完全自動運転。完全安全装置。落下時の緊急浮遊装置など、現代の技術のすべてが詰まっているのが、現代の車だ。

 これに慣れている今では、自分で運転して長距離を走るなんて想像もしたくない。ただ疲れるだけだろう。



「向日葵ちゃん、どう? 楽しい?」

「う! ひりょい!」

「うんうん。広いねぇ~」



 満面の笑みの向日葵に、八百音はデレデレだ。

 気持ちはわかる。向日葵には、人を惹き付ける何かがあるのだ。



「センパイ。みなとみらいまで、どれくらいあるの?」

「ここからですと、1時間もかからないでしょう。それまでゆっくりしていてください」

「あーい。アタシ寝てるから、着いたら起こしてね」

「わかりました」



 モチャはわざとらしくあくびをして、目を閉じる。

 と……鬼さんにそっと寄りかかった。



「私は枕ではないのですが」

「いいじゃん。配信とか攻略とかひまのこととかで、疲れてんの」

「まったく……」



 鬼さんはやれやれと首を振り、そのまま寝かせてあげることにしたらしい。



(ずるい)



 と思ってしまうが、もし自分が鬼さんの隣に座っても、あんな大胆なことはできないだろう。

 どうにかして、自分も鬼さんにアピールしなくては。

 謎の焦燥に駆られる、美空であった。

続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!


下部の星マークで評価出来ますので!


☆☆☆☆☆→★★★★★


こうして頂くと泣いて喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ