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第12話 チャンス?

 その後しばらく談笑してから、鬼さんにアパートの前まで送ってもらった。最後の最後までスマートな対応に、美空は惚けた顔で鬼さんを見送った。



「美空。あんた人様に見せられない顔してるわよ」

「し、してないし」



 忘れていた、隣に八百音がいることを。

 慌てて頬を手でマッサージして顔を戻していると、呆れ顔で美空を見つめて来た。



「それより、あんたさっき変なこと考えてたわよね」

「変なこと?」

「鬼さんがモンスターハウスで修行したって話の時。何考えたのか言ってみ?」



 図星だった。相変わらず鋭い。

 思わず顔を背けるが、クールで鋭い眼光の圧を感じ、変な汗が浮き出てきた。



「い、いや、そのぉ……ほら、鬼さんがモンスターハウスで修行してた時、腰に鎖を巻いてたって言ってたじゃん?」

「……あんた、まさか……」






「八百音の砂で同じことできないかなーって思って☆」

「ぜっっっっったい嫌」






 即、断られた。

 だがしかし、これも想定済み。どれだけの付き合いだと思っているのだ。



「ま、だよね。断られるとは思ってた」

「……やけに素直に引くね。いつもはもっと駄々っ子になるのに」

「キッズかウチは」



 さすがにそんな歳ではない。……若干駄々をこねそうになったが、それでは八百音を動かせないことは知っている。

 反論しようと思った矢先、八百音が手を出して美空を制止した。



「美空。私はダンジョンに行ったことがないし、どういう場所かは配信上でしか知らない。でも、怖い場所っていうのはわかってるつもり。そんな場所で……しかも鬼さんが危ないって言うくらい危険なモンスターハウスで、親友の命綱役をやるなんて、私にはできない。もし美空に何かあったら、私はあなたにどう謝ればいいの?」



 もしものことを想像したのか、泣きそうな顔で美空を諭してくる。

 確かに八百音の言うことはもっともだ。タイミングを見誤った場合、魔物に食われて死ぬ。死ななくとも、手足のどれかは引きちぎられるだろう。

 そうなったら……アウトだ。

 今度は別の意味で、嫌な汗が出てきた。体が震え、喉の奥が乾く。



「……ごめん。変なこと言った」

「私の方こそ……ごめん。私が……あんたを失うのが、怖いだけだから」



 さっきまで和気あいあいとしていたのが嘘のように、妙な空気になってしまった。

 けど、手っ取り早く強くなり、早く下層に向かうには、この方法しか思い浮かばない。八百音には頼れないとなると、どうやって修行すればいいのか。



(伸縮自在の新素材ワイヤーロープがあればいいんだけど、あれ1センチで5万円もするから現実的じゃないんだよね……最低でも30……いや、40メートルくらい必要だから、いくらなんでも手が出ない)



 やっぱり諦めるしかないのかなぁ、とため息をついた。

 地道に、少しずつ。それが強くなるための1番の近道なのだ。いきなり強くなるなんて、ゲームや漫画の世界じゃあるまいし、無理に決まってる。

 美空は気持ちを入れ替えて、美空は八百音に挨拶してアパートへと戻っていく。


 終ぞ、八百音が思案顔をしているのに、美空は気付かなかった。



   ◆◆◆



 翌日。美空はダンジョンではなく、(ゲート)前に広がる横浜ダンジョン街へやって来ていた。

 ここには、魔物を倒すことで手に入れた魔石。ダンジョン内で採掘した鉱物や、採取した植物。稀に魔物からドロップする、魔物特有の牙や鱗、皮などが売られている。他にも武器や防具、回復薬などの薬系も並んでいて、ダンジョンで必要なものはすべてここで手に入る。

 値段はピンキリ。安いもので数千円。高いと高級車が買えるほどの額になる。


 今回美空が欲しているのは、安価で買えるできるだけ丈夫なロープ、もしくは鎖だ。

 条件としては、美空の炎に耐えられるだけの耐久力、もしくは炎耐性付きが絶対条件になる。

 が、どうも満足いくものが見付からない。

 超巨大な水晶が中央に鎮座する、水晶広場のベンチに座り、深いため息をついた。



「ここなら見つかると思ったんだけどなぁ〜……」



 あれから一晩考えたが、どうしても諦めきれずに探しに来てしまった。

 目指すは下層以下。なんとしても、早くそこに辿り着きたい。その為にも強くなる必要があるが……。



「モンスターハウス……どうやったら、安全に修行できるだろう……」

「モンスターハウス、攻略したいのですかな?」

「はい……え?」



 誰に声を掛けられたのだろうか。

 振り返ると……妙な2人組がいた。

 まず、身長差がありすぎる。凸凹コンビだろうか。2人ともボロ切れのローブを着ていて、フードを深く被り、口元もマフラーで覆っている。この時期には珍しい……というか、暑すぎる格好だ。

 怪しい。はっきり言って、超怪しい。顔も見えなければ、マフラーのせいで声もくぐもって聞こえる。

 ダンジョン攻略者だろうか。攻略者の中には、ファンタジーっぽい格好に憧れる人たちもいるらしいが、これはかなり拗れているように見える。

 慌てて立ち上がり、2人から距離を取る。



「な、何? なんか用?」

「いえ、モンスターハウスを攻略したい者がいると、小耳に挟んだものでして」

「あっしら、攻略者に必要な道具を売る商人でしてね。丁度、お嬢さんに必要なアイテムがあるんですよ」



 小さい男が、かばんからマッチ箱程の大きさのスイッチを取り出した。



「このスイッチを押すと、人一人が入れるくらいの防御シールドが展開されます。防御シールドは魔物からの攻撃を防ぎ、内側からの攻撃を通す優れもの。見ていてください」



 スイッチを押すと、小男の周りに半透明の球体が現れる。

 それに向かい、大男が勢いよく拳を叩きつける。


 ──ゴウゥンッッッ!! かなりの衝撃音が響いたが、なんと防御シールドは傷一つついていない。


 代わりに、小男が内側から野球ボール程の石を大男に投げつけると、そこには何もないかのように素通りした。



「すっ、すごい……!」

「でしょ? こちら、まだ世に出てない最新式でしてね」

「今なら特別に、5万円でお渡ししますが……いかがします?」

「買った!」



 今の大男の一撃は、かなりのものだった。それを受けて壊れないってことは、上層の魔物であれば壊れる心配はない。狂化してようと、大丈夫なはずだ。

 これは願ってもないチャンス。これを逃せば、チャンスはない。


 大男に5万円を渡すと、小男からスイッチを受け取る。

 これさえあれば。その気持ちが先行し、美空は直ぐに横浜ダンジョンの(ゲート)に向かっていった。


 ……男たちが、不敵な笑みを浮かべているとも知らずに。

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