この世は楽し
母は家事を自分でやりたい人なので、とわ子は家事に口も出さないし手も出さない、そもそもニートの時に散々お世話になってるので、口を出すなんて、とんでもないのである。
父は一切家事が出来ないが自分は稼いで家族を食わしてやってたんだという自負があり、実際頑張って稼いでいたので、週に一度美味しいレストランに行くなど、貧するようなことは無かった。無かったはずなのだが。
母の教育方針的に「うちは貧乏だから!」が口癖で、欲しい物があってもワンクッションツークッションスリークッションで気が付いたら煙に巻かれて欲しかったものは買わないまま帰るなんてことが、ままあった。特に漫画なんてものは何の役に立たないし子供に悪影響な癖に値段が高く、嵩張り重いので絶対買ってはいけない。という具合だった。
父も子供に対して無駄に夢見がちで、今思えば、我が子はきっと天才。くらいの親ばかだったんだと思う。幼稚園の頃にヤマバ音楽教室に通わせ、エレクトーンを与え、小学生でそろばんを習い、学研、参考書、欲しいと言ったら、人を角でブチ倒せそうなフルカラーA4サイズの竹取物語を筆頭に日本や海外のあらゆる物語が載せられた24冊セットの物語シリーズを買ってくれた、これはとても良かった。教育の役に立ちそうな物は何でも買い与えた。TVでお笑い番組があれば、本当は好きなくせに、こんな〇〇(書けないような暴言)番組見るな!勉強しろ!とドヤしてくる。
一人目の娘のとわ子は、お笑いを見てはいけない、アニメを見てはいけない、漫画を読んではいけない、といった、親からの芸能の抑圧に辟易としていたが、夕方母が忙しく、父が居ない時には夕方5時のアニメ三昧だった。母も父も共働きだったので、母の母、おばあちゃんに学校帰り預けられた時は一緒に時代劇をこれでもかと見続けていた。また親戚の家には同じ年頃のいとこが居て、そこには漫画がワンサカ置いてあったので、親戚の相手をするよりも、今を限りとばかりに、死ぬほど速読で漫画を読んだ。親も親戚の相手をしてるし、よその家で子供を叱るのもアレだしで、親戚の家にいる時は漫画が読み放題だった。親戚の家に同じ年頃の子供が居なくても、大人の漫画が置かれていて、とわ子は、それも貪るように読んだ。赤塚不三夫作品や、かきデカ、コルゴ13といった大人の名作ぞろいで、どう見ても幼女が読むような本ではない。親戚が、すごい勢いでそんな漫画を読んでいる幼女を見て、「あんなの、あんな女の子が読んでいいの?」と困惑し心配していたくらいだ。実際漢字が難しく、よく判らない箇所はあったが、その辺をすっ飛ばして兎に角漫画を読み、暫くはそれを反芻して楽しんだ。
実際昔の漫画はちょっとお色気があったり、子供の教育に良いかと言われればどうかな?と、いった作品も多かった。
そんなある日、父がとわ子に漫画をお土産に買って帰ってくれたが、おっぱいぼいんぼいんの女の子が活躍するストーリーで、とわ子はウヒョー!とばかりに興奮して読んだのであった。
母がしていた、子供に悪影響のある漫画を遠ざける。が台無しである。
そんな訳で、とわ子は家で漫画を読む時はスパイのように隠れて読んだ。ある時は枕の下に隠し、ある時は座布団の下に隠し、勉強机の引き出しを二重にして、友達から借りた漫画を隠した。
ある時、友達から借りた漫画がバレ、そのタイトルが「恋のABC大作戦♡」といったタイトルで、それを見た母は急に怒り出した。「そんなエッチな漫画は読んじゃダメ!」しかし、ぶっちゃけ内容は、ただのドタバタラブコメディで特にエッチな事は無かったのだが、とても恥ずかしい勘違いをしていた母であった。どうやら母の中で漫画=すべてエッチなものという認識があったようだ。
人というのは抑圧されればされるほど渇望するもので、兎に角お笑いや漫画に飢えた子供だった。
中学生の頃は、昼休みに購買で買うパンの代金を300円貰い、140円の素うどんを食べ、浮いたお金で単行本を買った。
国語の教科書は全て読み込み習わないところも読み込んだ。国語のテストだけが異常に良くて先生にカンニングを疑われ職員室に呼び出されたが、「どうして国語だけこんなに成績がいいの?」と問われ「国語が好きだからです!」と嬉しそうに答えた為、変な子なんだなと納得された。余談だが算数の文章問題が死ぬほど苦手だった。文章として成り立っていないと感じていた為、何を求められているのか理解できなかった。テストの時「先生これはどういう意味ですか?」と質問して「それは自分で考えて…」と困惑された。
友達の家にある泥論えん魔くん、エスパー真美、デッビルマン、なんでも読んだ、読むもの全て面白く感じた。昔の漫画の方が、質が高いというか、本当に面白い作品だけが世に出ていたように思う。誰も彼もが漫画家になれる訳ではなくて、家族に漫画家になりたい。などといえば、どうかしてしまったのではないか?と心配された時代。覚悟が決まりに決まっていた人間だけが漫画家に成れていたような時代。おのずと、漫画の質も高かったのだろう。
*個人の感想です。
現代の漫画やアニメも本当に面白い物が多いので、この世は楽しいなと思う とわ子であった。