永遠のとわ子
自分でも、なぜ泣いたのか判らなかったが、やっぱりつらかったんだな。つらたん。
泣いたら、なんかわかんないけど、憑き物が落ちたみたいに、とわ子は晴れ晴れと気持ちが良かった。
今回のミュージカルの企画でお見送り企画があり、流行り病のゴロナのせいで、ミュージカルでは俳優たちが客降りと呼ばれる様式で、ゴロナの前までは、観客の近くに降りてファンサービスをしてくれていたのだが、そういった事が出来なくなったため、せめてものサービスという事なのだろう。俳優が持ち回りで高い所からバイバイしてくれる特別措置があり、たまたまだがスズボシくんが担当で、本来ならキャラクターのエツ先輩は前が大っぴらに開いて肌けて肌色の人だけど、見送りだからか、きっちり前を閉めていて、恥じらいがあり、そういう所すすすすすすすすぅきぃーーーーーーーー!みたいな状態でありつつも、表向きは冷静な顔をして、初めての事だったので、とわ子ごときが手を振り返しても宜しいのでしょうか?恐れ多すぎて思わず会釈だけしてしまったとわ子であった。
そして、コウちゃんと晩御飯を食べ、お宿の尾品川ブリンスホテルのツインルームで口から魂がはみ出た状態で呆けていた。一緒に泊まっているのはコウちゃんだ。歴戦の猛者であり、いつも、ほんといつもありがとう!マジで、優秀な人で、いろいろ手配とか進むルートとか決めてくれて、とわ子はマジ感謝です。良いんだろうかと思いつつお任せしてしまっているのです。
コウちゃんとは一緒にご飯を食べたり、寺に行ったり神社に行ったりする仲だ。同じソシャゲが好きな同士でもある。そのソシャゲの縁で行った聖地巡礼の旅も楽しく、コウちゃんは顔が広くいろんな人と友達なので、そのご友人に車を出して貰い、初対面のとわ子なのに、一緒に車に乗せてくれて聖地巡礼をさせてくれる聖人のような友達を持っている聖人のような人なのだ。
とわ子も昔はバリバリ働いてて、それこそ毎週イベントに行ったり、日本でイベントしている地は北は北海道から南は九州東は東京と、ほとんど制覇したり、友人を10人以上率いて遠征に行ったり、同人誌を出したりイケイケだった時があったのだが、今はニートである。いつ金が尽きるかとびくびくしていたが、聖地巡礼の後に就職できたので、聖地巡礼の神社さまさまである。マジで。
新幹線代ちょっと高すぎない?!という気持ちはあるが、まあ、推しに会うためなので必要経費です。むしろ推しに会えるので実質タダです。オタクが世界を回すんだよ!
オタクと書いて狂人と読む。
旅行の行く先々やご飯を食べる所で、こそこそとキャラクターグッズを出し、それと共に写真を撮るのが生きがいなんだよ、文句あるか?!誰にも迷惑かけてないだろぉ?!俺が!俺たちが経済なんだよ!!
そんな風に思いつつ、コウちゃんの持ってきたタヌタヌのぬいと自分の持ってきたギネギネのぬいをツインのベットに並べて写真を撮り、悦に浸っていたわけです。
5月まではニートだったので、8月の今、こうしてパワのハラに苦しめられながらも、お宿に泊まり、明日も推しを観劇出来るので、その為にとわ子は頑張ると誓ったのだった。
二回目の観劇で同じミュージカルを見たが、一度目のように号泣することは無かった、ただキラキラとした華々しい推しを見て、ただただ幸せを感じた。それが不思議でもあった、あれはなんだったんだろう?ずっと一回目とわ子が号泣した時の推しの顔が目に焼き付き、一瞬だったのに、とわ子の中で、それは永遠になった瞬間だったのだ。不思議な事に、それから5か月経っても、あの一瞬のスズボシくんの顔が今でも鮮明に記憶に残っている。
きっとこの先何年経っても、あの日、あの時のスズボシくんは色あせることなく、永遠に、とわ子の中で残り続けるのだ。