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テトラ・オリジン 〜白銀の黎明〜  作者: 五十川紅
第一章 銀嶺の刃と戯神の影
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第ニ話 オリジンドール・アルナイル

 体の捻りを使い勢い良く抜刀し、巨大なオリジンドールの足首部分を斬りつける。


 甲高い金属音が響き火花が飛び散るが、その斬撃の痕に、傷を付ける事は出来なかった。


 太刀を振り抜いた勢いのまま、右の踵を重心にして、独楽のように回転しもう一方の足首も斬りつけるが結果は同じだった。



「なんか妙に硬いな。これは普通の鋼ではないかな?」



 刃を入れた感覚だと、陶器に近い感覚だった。薄く付いた斬痕の下にも鋼が露出したような痕も無く、表面と同じ白磁のような色のままだ。



 足元を斬られ、私の位置を補足したのかオリジンドールの頭部が私の方を向く。



「ふん……。このオリジンドール・アルナイルにはそのような生半可な攻撃など通用しない! なんと言っても一機で一軍の戦闘能力に値するのだからな」



 搭乗者はくつくつと笑い、なにやら、興奮している……。

 確かに通常の軍隊装備では、あの装甲を穿つ事は難しいだろう。


 だが機体の性能が高いのは分かるが、搭乗者は慢心しきっている。自分の機体がやられる事なんて想像もしていない感じだ。


 ――慢心した相手は、割とやりやすいものだ。


 私は脚に命気を纏う事で脚力を強化し、アルナイルとやらの背後に一瞬で抜け出すと、少し間合いをとった。



「生憎だけど……硬いモノを斬るのは、得意な方なんだよね」



 アルナイルはこちらに踵を返すと、機体の脊髄部分に手をかけ、そこから細身の長剣を引き抜いた。

 鍔が無く、柄から鋒までが真っ白の一見変わった奇妙な剣だが、その鋭さは遠目に見てもわかるほどだ。



「その動き、どうやら本当に噂に聞く銀嶺のようだな! 秘匿任務とはいえこのアルナイルの初陣としては下らない作戦だとは思っていたが、思わぬ所で巡り合うのが、好機というものか。

 くくく……貴様を討ち取れば、このテトラーク皇国第一機甲師団第三部隊長、ヴェンダー・ジーンの名も皇国のみならずこの国でも……んむあッ!?」



 なんだか長くなりそうだったので、私は命気を先程よりも強く全身に纏い、アルナイルに向けて一気に間合いを詰める。

 その速度を乗せたまま踏み込み、一度納刀した太刀の鍔元を指弾の要領で弾き、通常の抜刀速度よりも遥かに加速させると、そのまま横薙ぎに一閃する。



 ――水覇一刀流攻の型二の太刀、驟雨。(しゅうう)



 神速の一閃は、先程うっすらと付けた左足首の斬痕と、寸分違わない箇所に吸い込まれていき、鈴の様な音を立て振りぬかれた。



「貴様、まだ話しているというのに……うぉっ」



 アルナイルが動こうとした途端、左足首が件の装甲ごとすっぱりと斬れ、ヤツはたまらずバランスを崩し、跪いたような体制になった。



「ごめんごめん。なんか長くなりそうだったから、もういいかなーなんて」


「貴様……先程は私に不粋と言っておきながら……い、いや、それよりも、このアルナイルを斬った? 運用実験では傷一つ付かなかったというのに……いかに高位傭兵の攻撃とはいえ、時代遅れの太刀などでこの超高密度のフォーリア鋼で造られた装甲をんんぐッ?」


 太刀を振り抜いた体勢から脇構えになり、次は右の足首を狙う。アイツのおしゃべりは無視だ。

 渾身の踏込みから、足首、膝、股関節、肩、肘、手首と、関節一つ一つを柔軟に撓らせ加速させていく。



 ――水覇一刀流攻の型一の太刀、時雨。(しぐれ)



 音速を軽く超える速度を乗せ、両腕で横一閃に振りぬかれた太刀筋は、なんの抵抗もなく振りぬかれた後、一拍おいて衝撃波が鋒の軌跡に沿って発生する。


 轟音を伴って発生した衝撃波は、流石にあの巨体の重量を吹き飛ばすことは無かったが、切断面から大きくずれ、バランスを保てなくなったアルナイルは、砂埃を立て俯せに地面に倒れ込む。



「ごめんね。話長いのってちょっと苦手なんだ」



 私は、話の長い男って嫌いなんだよね。そういう奴って大概めんどくさいから。


 更に倒れ込んだアルナイルの胸部、搭乗席が在るであろう場所に鋒を突きつけ言い放つ。



「今すぐに出てきて投降してくれるなら、一応捕虜としてライエの憲兵所に突き出してあげるよ。

 まぁ、このデカブツは鹵獲するのは私だから、コチラで貰っちゃうけどね。それから秘匿任務うんちゃらは、私は聞く気もないから安心していいよ」



 秘匿任務と言っている上、こんな兵器(オリジンドール)を持ち込んでいる以上、不法入国は当然だろうし、ライエで引き渡せば報奨金くらいは貰えるかもしれない。


 そんな事を考えていると、横からアルナイルの腕が動き、巨大な剣が振るわれてきた。速度も重さも乗っていない、悪あがきのような剣だ。


 私はアルナイルの剣に対し、自らの太刀を滑らせる様に受け流して移動し、相手の剣を負荷に使い、剣を持った手首を一気に斬り落とす。


 どうやら手首の部分はフレキシブルに動く反面、例の陶器のような金属ではなく、それ程までの硬度は無いようだ。



「無駄とわかっていそうなものだけれど、諦めずに抵抗する姿勢は嫌いじゃ無いよ。でも……」



 言いかけていると更に斬られた右腕を杖のようにして上体を起こすと、左手の前腕部に仕込まれていたライフルが轟音と共に弾丸を放ってきた。


 元の機体が大きいだけに、弾丸の大きさも通常のライフルよりも桁違いに大きい。もはや大砲の弾のようだ。


 私は頭と眼に全力で命気を送り込み、思考速度と視覚の認識力を強化すると、飛来する弾丸や周りの風景に映る全てがスローモーションのような世界に変化した。



「そんな木偶人形なんかよりも、強い人間は沢山居るんだよね」



 飛来する弾丸の先端に太刀の鋒を置くように添え、全身をバネのように使い、思考が加速された世界の中でゆっくりと後退する。


 弾丸の勢いを一歩、二歩と後退したところで完全に殺しきり、静止した弾丸を太刀であえてアルナイルの方に振り払う。


 一応、もう一発撃っても無駄だよという意味を込めたつもりだったが、アルナイルはもう一度腕を私に向けてきた。



「仕方ない。胸部を断ち斬って貴方を引きずり出そうかな」



 轟音と共に、またしても弾丸が発射されるが、今度は捉えた弾丸を横一文字に雑に切り払うと、そのまま倒れ込む様に重心を落とし、渾身の踏み込みで一気に間合いを詰める。




「……ッ!! クソッ! なんなんだお前は……! 本当に人間か!?」



 やれやれ、それが麗しき乙女に浴びせる言葉なのかなぁ。


 少し悲しい気持ちになりながら、私は命気を両腕に強く纏い、霞に構えると、アルナイルの肘の内側の部分に向けて、太刀の反りと同じ入射角で渾身の突きを放つ。


 鋒に込めた突進力を余すことなく伝え、肘の先から蛍火嵐雪の鋒が顔を出す。



 ――水覇一刀流攻の太刀四の型、雪月。(ゆきつき)



 貫通した太刀をそのまま横一閃、力任せに切り裂くと、半ば切断された腕は自重によって、もげるように、ぼとりと地に落ちた。


 太刀を振り抜いた後の残心の姿勢から、再度霞に構えると胸部の装甲に向けて、連続して太刀を突き込む。



「ねえねえ、いい加減に出てくる気はないかな? あんまり、見えないところから攻撃されて、間違って君に刺さっちゃったら嫌でしょう?」



 脅すように更に二回、三回と突きを入れると、排気音を立てて胸部が開き、中から男が両腕を上げて現れた。


 男の風貌は、小綺麗な軍服を着ていて、赤毛を短く整えており、年のころもまだ二十歳を過ぎた頃だろうか? 紅の双眸には、若干涙が浮かんでおり腑抜けた印象もあるが、この若さで、部隊長と言う事は、実はそれなりに優秀な人物なのだろう。


 ま、コネなんかで地位を得ていなければの話だけれど。


「……噂の銀嶺とはいえ、よく見ればまだ小娘ではないか……。斯様な者にこの私がやられるなど……」


「その手の嘲りはもう慣れてるよ。

 でももう三、四年すれば、きっと私はこれまで馬鹿にしてきた君達が手のひらを返しすぎて、手首を折るくらいのレディになる予定なので、よろしく〜」



 私は笑顔で手をひらひらと振ると、男は唇を噛んで鼻を鳴らした。



「じゃあ、とりあえず列車までご同行願おうかな。えーと……」


「……ヴェンダー・ジーンだ。さっき名乗ったと思ったのだがな」


「そうだっけ? もしかしてべらべら喋ってるときに言った? ならごめんね。聞いてなかったよ」



 悪びれもなく、詫びを入れる。



「じゃ、行こうかヴェンダー君」


「ヴェンダー君って……」



 ヴェンダー君の背に太刀を突きつけながら、私達は列車の方に歩き出した。





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