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僕は、アルレ王女の部屋にお茶の差し入れをした後、今更部屋の中に居場所が無いので、再び部屋を出た。
◇ ◇ ◇
空いた時間で、気分転換も兼ねて、城の庭園へ来た。
相変わらず、無駄に広く心地良い庭園だ。
おもむろに設置してある長椅子に腰掛け空を見上げ、暫く呆けていた。
僕はいったい何をしているのだろうか?
「あれぇ?パーン先輩じゃないですか?」
突然、背後から声を掛けられ振り向く。
そこには、見覚えのある猿顔の男がいた。
「おっ。あぁ、えーっ………っ…………キ、キーンか。なんで城に?」
咄嗟に名前が出て来なくなりそうだったが、何とか思い出せた。元部下だ。
「なんすかぁ?忘れられちゃったのかと思いましたよ。いやいや、お久しぶりです。ゆったりお城勤務なんて羨ましい限りっすよ。アルレ様の従者でしたっけ?楽しそうでいいなぁ。俺なんてしょっちゅう色んな所に呼び出されて、忙しくて忙しくて。今日もちょうど城内で軍会議がありましてねぇ。あっ、そうそう、パーンさんの役職、今は俺が引き継いでるんすよ。いやー、就いてみると大変すねー。あっ、一応、管理官に昇格したって報告っす」
キーンは、こちらの反応など一切気にせず、いやらしい笑みを浮かべながら得意げに話をしている。
相変わらず、ベラベラと良くしゃべる奴だ。
僕の部下だった頃から、お調子者で好きなタイプではなかったが、それなりに使える奴ではあった。
「そりゃ、おめでとう」
「いやぁ、パーン先輩のおかげっすよ。まぁ、ゆっくり気楽に隠居して下さいっす。おっと、もう行かなきゃ」
そう言うと、キーンは足早に去っていった。
多少勘に触ったが、所詮その程度だ。
謹慎期間等も含め、2年近く経つ。
一度離れてしまえば、軍時代、何の為に目の色を変えて昇進に躍起になっていたのかすら思い出せない。
僕には軍の上に立って成したい野望がある訳では無かったし、金にもそこまで執着していなかった。
強いて挙げるならば、周囲の競争に感化された事と、幼い頃に植えつけられた劣等感を払拭したかっただけなのかもしれない。
今となっては心底どうでもいい事だ。
それにしても、本当に何してるんだろうな、僕は……。
再び空を見上げた。
気が付けば、パラネル先生の授業が終わる時間だ。
僕は急いで王女の部屋に向かった。
◇ ◇ ◇
部屋に着くとちょうどパラネル先生が部屋を出る所だった。
「どうもありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします」
僕はにこやかに挨拶し、頭を下げた。
「ふん」
と、鼻を鳴らし、僕と目をあわせる事無く行ってしまった。
本当に、教育者としてどうなんだろう?あの人。
僕がパラネル先生と入れ替わるように王女の部屋に入ると、王女と目が合う。
「あぁ~疲れた。セルム、茶と菓子じゃ。すぐに用意せい。菓子はとびきり甘いヤツじゃ」
王女は、机に覆い被さり倒れながら言う。
「はいはい、どうせそう言うと思ったんで、用意してありますよ。持って来ますからちょっと待ってて下さい」
「うむ、さすがセルムじゃ。分かっとるのぉ。用意が終わったら今日も執筆活動じゃ」
さっきまでのぐったりしていた態度からうって変わり、やる気の漲る王女。
まぁ、実際書くのは僕なんだけどね……。
楽しそうな王女を見て、やれやれと思いながらもつい世話を焼いてしまう。
取り合えず今は、王女の気まぐれに付き合いながら、のんびりと考えるとするか。