薄暗く、空虚で無駄に広い空間。
無数の柱が立ち並び、天井を支えている。
眼前だけ障害物の無い道が開けられ、導くかのように赤い絨毯が敷かれている。
はは、まるで魔王の城だな……。
絨毯の行き着く先が見えぬ程遠い。光源が少ないのも原因だろう。
だが、この空虚な空間が今の僕には合っている。
そうだ、もう僕には何もない。
絨毯の起点か終点かも分からない位置に用意された、豪華な椅子に力なく深く腰掛けている。
そして、表紙だけでなく中の紙も傷んだ書物に目を通していた。
ふと、足音が聞こえ、絨毯の先の暗闇に目を凝らす。
だいたいの推測はついている。
何の打診も無く、ここに訪れるの者など一人くらいしか思いつかない。
「ようやく、貴方の願いが叶う日が来るかもしれませんよ?」
声を聞き、推測通りであったことに、安堵と落胆を感じた。
「どうでしょうかね?今はもう……あまり期待はしてません……」
「私が直に伝えに来たことはありましたか?」
目の前の男性は笑みを浮かべる。
「……何か違うんですか?」
「ええ……少しだけ」
僕は本を閉じた。
「では、何が違うんですか?」
「ハーフエルフの女性が一人、それも魔人とエルフのハーフです」
「……確証は?」
「ありません」
男性は柔らかに答えた。
「そうですか……。でも、少しだけ確率は上がりますかね……」
意は決しているつもりだが、対照的に発する声は弱々しいものになった。
「もし本人であった場合、あなたはどうするのですか?」
男性は一変し、鋭い目つきで僕を見る。
「もちろん……。その時は…………」
僕は真剣な眼差しで彼を見て答えた――――