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6.転生した価値

本日2話目です。

色々と考えながらもう一度ベッドにもぐりこんでうだうだしていたら、結局昼頃まで寝なおしてしまったらしい。

起き上がってうーんとひとつ伸びをする。

そして周囲を見回すと同時に、諦めの気持ちで息を吐いた。

・・・やっぱり、本当に転生したんだ。

寝る前と同じ、いかにもお貴族様な豪華な部屋。お姫様の寝そうな天蓋ベッド。

夢でした、なんてオチもあったんじゃないかと多少は期待していたが、そうじゃなかったらしい。

朝方は何が何かわからないまま、異世界転生?!ラノベ?!マンガ?!なんて興奮しちゃったから、なんか他人事みたいに思ってたけど。

夢でもなんでもなくて、本当にこの世界が自分の生きる世界なのだと改めて実感すると、やっぱり気分は沈む。


・・・おじさん、迷惑かけちゃってごめんね。

さすがに私が死んだとなると呼び戻されて、手続きやら葬儀やらやってくれてるんだろうなあ。

まあでも、多分葬儀に関してはうちの同僚がどうにかしてくれてるだろう。私の職場、葬儀社だったからな。

前に自分の葬儀代金は一体いくらになりそうか、なんて同僚たちと相見積もりし合って大体の予算は出していた。身内のほとんどいない私が、断トツで少ない金額だったけど。

何かあったらこれでやってね、なんてお互い言いあってたからあの通りにやってくれていると信じたい。それならば、私の貯金でどうにかなってるはずだから。

おそらくおじさんは死亡届書くぐらいで、あとは何もしなくても大丈夫なはず。みんな優秀だからね。


今まで人が亡くなるたびに、嘆き悲しむ遺族の姿を見てきた。

特に子供が亡くなった時の、両親の嘆き悲しみぶりといったら・・・あれを見ることがあれば、自ら命を絶とうなどという人はいなくなるのじゃないかと思う。

それに比べたら多少はましかもしれないけれど、おじさんも悲しむに違いない。


そして、親友の有希も。

おじさん、ゲームをちゃんと有希に返してくれたかな。棺に入れられて、一緒に焼かれてたらどうしよう。ありえそうで怖い。

有希、ほんとごめん。約束してた、ゲーム語り出来なくなっちゃった。

『エレプリ』の世界に転生したって言ったら、有希のことだから「ずるい」って言いそうだけど。


なんだか、よくわからない。

今はゲームの中なのかな。現実なのかな。

どっちにしろ、私はもう水谷理亜ではなく、シャルリア・フロンターレなのだ・・・。


沈み込む思考から引き上げるように、カチャ、と音がした。音が聞こえた方向に目を向けると、部屋の扉が開いて男女2人の顔がそろって覗いていた。

「おや、起こしてしまったかな」

「具合はどう?」

赤っぽい髪と黒い瞳の少しやんちゃそうな男性と、明るい茶髪に薄青の瞳の美しい女性が口々に問う。


「父様・・・母様も」


この世界での私の両親、フロンターレ伯爵夫妻。

お父様であるエルド・フロンターレ伯爵は、見た目は赤毛も相まってか少し軽い印象を与えるのだけど、性格は穏やかで優しく真面目な人柄だ。フットワークも軽く、領民のためにと進んで領地経営に力を入れているので、フロンターレ領はそこそこ発展している。

領都の中心部は人口も多くにぎやかだが、治安が悪いほどではない。中心部から離れると風光明媚な農村や牧畜地が広がっていて、領主様に、と時々作物を届けてくれる気のいい領民たちが住んでいる

お母様のルーシア・フロンターレ伯爵夫人は、辺境貴族から嫁いできた人だ。明るくてよく笑い、怒ったらちょっと怖い。活発で自分で働くことをあまり厭わず、気づけは使用人に交じって掃除をしていて執事のヨアンに怒られたりしている。


ああ、この世界では私には両親がいるんだ。前世ではもういなかった両親が。

自分のことを見つめてくれているその姿に、自然に沸き上がってくる熱いものを止められない。


「まあ!まあまあ、どうしたの、シャル!」

いきなり涙を流し始めた私に驚いて、父様を押しのけるようにして、母様が飛んできた。

そしてそのまま、小さい子にするように私を抱きしめてくれる。

「どこか痛いの?まだ少し熱があるのかしら?」

あったかい。いい匂いがする。ああ、母様の匂いだと安心する。

身じろぎすると、体を離しながらも心配そうにのぞき込む母様に首を振ってみせた。

「なんでもありません。ちょっと怖い夢を見ただけです」

「そうなの・・・?我慢しちゃだめよ?」

うなずいて微笑むと、父様の大きな手がそっと頭にのせられた。

「顔色はよくなってるけど、無理はしないように」

見上げると、今の自分と似た印象の父様が穏やかな表情で見つめてくれていた。

私は父親似なんだ。娘は父親に似るっていうものね。うれしい。

「はい、ありがとうございます、父様」


転生で失ったものは多い。

たった一人の身内である叔父、大好きな親友、積み重ねてきた仕事の経験、明るく頼れる同僚や先輩たち、没頭できる数々の名作ゲーム。

だけど、この両親に出会えただけでも、転生した価値はあると思いたい。


なんだか、少しだけ気持ちが楽になった気がする。

こうやって、ちょっとずつ転生したことを受け入れながら生きていくしかないのだろう。

せっかくもう一度始まった人生なのだから、やれることをやりながら楽しく過ごしていきたいと思う。


・・・ハードモードなのかもしれないけどね。

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