3.ゲーム内容を思い出してみる
ニーナが持ってきてくれた朝食を、ベッドで食べる。
ベッドで朝食?どこの外国のセレブ様だ。高そうな寝具を汚しそうで気が気じゃなかったけど、おそらくしぼりたてであろうオレンジジュースも、コンソメのような野菜スープも、フォカッチャのような小さなパンも全部美味しかった。
食べ終わってからニーナにもらった苦い薬を飲むと、再びベッドへと横になる。
身体は全然どこも悪くないのだけれど、とにかく状況を整理しないことにはどうしようもない。
私は軽く目をつぶり、できるだけ詳細にゲームのことを思い出すことにした。
ゲーム『エレメンタル・プリンセス~精霊の乙女たち~』の舞台は、前世でいう中世ヨーロッパに似た世界にある1つの国、フランズベルト王国だ。
王道ファンタジーによくある剣と魔術の国。侯爵、伯爵といった貴族が存在するが、人口の大多数は一般市民である平民だ。
この国では特定の宗教はないが、木や動物、建物や道具に至るまでそれをつかさどる精霊がいるとされている。精霊王というその頂点に立つ至高の存在が信仰されており、その精霊王に仕える多くの精霊たちが存在するのだ。
よって、精霊王の力である「精霊の加護」が何よりも重視されている。
剣の腕も、魔術の力も、軍事も教育も、手洗いや料理などちょっとした生活にすら精霊の加護が関係しており、精霊の力によってこの国は動いているといっても過言ではない。
精霊には細かい種類があるらしいが、大まかに分けて4つに分類される。
火のエレメンタル、水のエレメンタル、風のエレメンタル、土のエレメンタルの4つだ。
火のエレメンタルは攻撃を主体とする力。体術や剣術といった戦闘技術、攻撃魔術など主に軍事系。
水のエレメンタルは守護や癒しの力。回復魔術のみならず、医療や薬、農作物にいたるまで守護している。
風のエレメンタルは物を作り出す、生み出す力。様々な武器や鎧、あるいは生活用品まで作り出すクラフト工房だけでなく、それを流通させる商人の役割もこの国では貴族が担うため、必須な守護だ。
土のエレメンタルは記録し、それを読み取る力。学問にも関わり、この王国のことはすべからく記録されていて、その資料を基に国は発展し、進歩してきた。
フランズベルト王国民はすべての住民が精霊の加護を受けており、その受ける加護のどの要素が強いか弱いかによって職業や身分が決められていた。
すなわち、貴族でも位が上になるにしたがって精霊の加護は強くなり、平民は加護が弱かったり偏っていたりする。
誰もがその加護を生かして仕事についたり、生活に必要な魔道具を使ったり。
毎日の生活に密接している精霊の存在は王国民にとっては何物にも代えがたいもので、貴族平民問わずすべての人々が精霊に感謝して毎日を送っているのであった。
また、土のエレメンタルの加護により、この国の教育水準はかなり高い。なので、学術所という魔術や剣術が学べる場所が存在し、貴族と平民では違う場所にあるものの、身の丈に合った教育が受けられるようになっていた。
貴族用の学術所はハーディエンス学院と呼ばれ、14歳から16歳までの貴族の子女が通う。
16歳で学院を卒業と同時に成人であると認められ、そこからは各方面に分かれて貴族としての役割を果たすのだ。
剣術や攻撃魔術に自信のあるものは王立騎士団へ。回復魔術に自信のあるものは聖堂と呼ばれる教会や病院のような癒しの場所へ。
物を作り出して商売するもの、文官となって軍師やいわゆる役人になるもの。
その過程に必須であるハーディエンス学院。そこにメインヒロインが入学した時から『エレプリ』のストーリーは始まるのであった。
プレイヤーが操作するメインヒロインは学院の伝説の称号である「エレメンタル・プリンセス」を目指して学院生活を送る。
エレメンタル・プリンセスが存在する間のフランズベルト王国は豊かな実りと平和が訪れ、目覚ましい発展を遂げるとされている。
エレメンタル・プリンセスに選ばれる名誉というのは、前世でいう学園祭のミスコンなどとは訳が違う。それはもう聖女のごとき存在で、学院を卒業してからも国を挙げて大事にされるのだ。
伝説というだけあって、ここしばらく・・・それこそ百数年も「エレメンタル・プリンセス」には誰も選ばれておらず、その選出方法も謎のままだ。唯一の手掛かりは、火、水、風、土のそれぞれ4つの精霊の力を強く持っている精霊使徒に選ばれし乙女となること。
・・・いや、プレイヤーとしては知ってるんだけどね。ゲーム的に言うと、つまりはそれぞれのエレメンタルの加護が強い4人の攻略対象の好感度を上げて支持を取り付け、学院の卒業式で精霊王からプリンセス任命の使命を帯びた精霊使徒である彼らから「エレメンタル・プリンセス」だと崇められればいいのだ。
そのためには様々な努力をしなければならないはずなのだが・・・。
なんというか、メインヒロインがチート過ぎて簡単にクリアできてしまったのだ。