表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/165

2.夢にまで見た異世界転生

本日2話目です。

なんだこれ。なんだこれ。


私はベッドの上で四つん這いになっていた。

時々友達とのSNSでのやり取りで使っていた、orzのポーズそのままに。


ベッドといっても。

おそらくキングサイズと思われる大きなベッドに、天蓋付き。ひらひらのレースがついている。ビバ!憧れのお姫様ベッド!って感じのものだ。

間違っても、さっきまで寝ていた病院のベッドではない。そして、自宅のせんべい布団でももちろんない。まあ、せんべい布団はベッドですらないけど。

ベッドの周りは見知らぬ広い部屋。真っ白の入院していた部屋じゃない、自宅のこじんまりしたワンルームでもない。

大きな窓には真っ白なカーテン。重くて分厚く見えるのに、なぜか陽の光が透けて入ってきている。天井にはガラスに炎が浮かんだような、見たことのない照明器具。小花模様の美しい壁紙に、重厚そうな木製家具。

ここは一体どこなんだ。


さっき、眠りから覚めたばかりの時は夢だと思っていた。

死にそうになる夢見ちゃったよ、あはは~とか思いつつ身体を起こしたら、目の前に大きな姿見があった。

その鏡面に、全く知らない少女の姿を映して。

いや、知らないわけではない。よく知っている。まさか彼女が自分の姿だとは思わなかっただけで。

その姿は私がついさっきまでやっていたゲームの登場人物そのものだったのだから。

悲鳴をあげるとまではいかなかったものの、思わず跳ね起きて立ち上がりかけ、崩れ落ちてそのまま四つん這いになった。何がなんだかわからないまま。


お姫様ベッドに四つん這いというシュールなポーズのまま考える。


これは、あれだ。夢にまで見た異世界転生だ。そうに違いない。

妙に冷静になって、今の状況を分析する。

あの時に病院で私は死んで、そして生まれ変わったのだ。

なんか、そういう小説読んだ。漫画も読んだ。面白かった。

私も異世界転生するならゲームのキャラがよかったし。どうせならヒロインがいいけど、ライバルキャラの悪役令嬢も今流行りだし悪くない。

悪役令嬢がばっさばっさと周囲をぶった切っていく話は爽快この上ない。

そう思ってた。そう思ってたんだけど・・・。


とにかく、確認しないといけない。

私はゆっくり体を起こし、ベッドから降りた。さらりとした感触に、自分が着心地のいい夜着を着ていることに気づく。シルクかな?さわっとしてつやつやしてる。

ベッド下にそろえてあった小さなふかふかのスリッパを履き、ふらふらと姿見に近寄る。

長い足の絨毯、高そうだ。というか、姿見もその横のドレッサーもなんか高級そうだ。昔、博物館で見た「中世ヨーロッパ貴族の部屋」なんてのに飾ってあったのを思い出す。

私の予想が間違ってなければ、ここは伯爵家だ。よくわからないけど、伯爵家はお金持ちなはず。少なくとも、前世の生活に比べたら天と地の違いだ。


姿見の中の自分自身と対峙する。指でそっと鏡面に触れる。

明らかに日本人ではない顔立ち。サファイアのような青く大きな瞳、こぼれそうな長いまつげ、シミ1つない白い肌。

赤茶色のつやつやした髪は肩の下あたりまで伸ばされていて、サイドの部分だけシャギーが入り、耳の下あたりで内に巻いている。

この美少女を知っている、やはり知っている。

彼女の、名前は・・・。



「シャルリア様、お目覚めですか?体調はいかがですか?」



はっとしてその声の方を見ると、少し開いたドアの隙間から、紺色のシンプルなワンピースに、真っ白なエプロンといういかにもメイドな服を着た女性が顔をのぞかせていた。

若い。年の頃は16~18歳ぐらい?高校生ぐらいに見える。黒っぽい髪と瞳、日本人と似た印象に少しほっとする。こちらをうかがう表情は、本気で心配そうだ。

そして私が起きているのを確認すると、一礼してそのまま入ってくる。

すぐそばまでやってきて、軽く顔をしかめた。

「まだ少し、顔色が悪そうですね」

手を取りつつお熱はなさそうですが、とつぶやく彼女。

「え。ええ、そうね・・・あまり、本調子ではないわ」

言いながらも耐える。怒涛のように沸き上がってくる記憶の嵐に。


私が産まれて喜ぶ両親と兄、丁寧に手入れされた美しい屋敷と庭、働き者の使用人たち、すくすく育つ私、美味しいご飯、そして。

昨夜の記憶。昨日は私の12歳の誕生日だった。家族と使用人たちとお祝いをして、楽しく過ごした。しかし、その後で重く鈍い頭痛がしたため、早めに休んだのだ。


不意にその思考はメイドの声で遮られる。

「軽い朝食と、お薬をお持ちしますね。お嬢様は横になっててくださいませ」

「ありがとう。・・・ニーナ、お願いするわ」

メイドな彼女の名前はニーナだ。思い出した。私付きのメイドさん。

ニーナはにっこり笑うと、すっと部屋を出ていく。その姿が消えると、私は再び姿見に移る自分自身と向き合った。


間違いない。

私の名前はシャルリア・フロンターレ。私が死ぬ直前までプレイしていたゲーム、『エレプリ』の登場人物として異世界転生したのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ