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1.ゲーム『エレメンタル・プリンセス』

初投稿です。

大好きな異世界転生の話を、気の向くままに書いていきます。

よろしくお願いいたします。

「だめだー!またこのエンドだ!!」


携帯ゲーム機を放り投げて、ため息をつく。ゲーム機はぽすっと布団の上に落下し、その画面には麗しい男性4人に囲まれた、これまた美しい少女の1枚絵が映し出されていた。

何が悪いのか・・・いや、むしろこれが普通?

頭を抱えたところに、控えめなノックの音が響く。そして、そっと開けられる扉。


「あれ、なんだ。理亜、起きてるの?」


ひょい、と覗き込んできた顔は、私、水谷理亜にこのゲームを貸してくれた親友だった。


「有紀!わざわざ来てくれたの?」

「健康優良児のあんたが倒れたって聞いたら、そりゃ来るよ」


有紀は手に持った紙袋を少し掲げて見せる。


「着替えとか持ってきた。あと、あんたの叔父さんに頼まれて、入院手続き一切合切もやってきたから」

「う、ごめん。迷惑かけちゃった」

「いいっていいって。叔父さん、相変わらず忙しいんでしょ?国際電話だったよ」


両親も兄弟もいない私にとって、唯一の身内は亡くなった母の弟である叔父だ。

しかしながら商社マンである彼は忙しい身で、なかなか会えることがなく、日本にすらいないことが多い。

とはいえ、とっくに成人して社会人になっている私にとっては寂しいという感覚もなく、保証人やこうやって万が一の時の役割を果たしてくれたらそれで十分だった。


「それにしてもさあ・・・」

有紀が苦笑しつつ、ゲーム機を指さした。

「理亜ってばこんな時もゲーム?しかも『エレプリ』やってるし」

「だって退屈なんだもの。病人でもないのに、なぜか個室に入れられちゃったし」


昨日私は、突然職場で倒れた。

原因はわからない。少しハードワークだった気もするし、ここ数日ろくに食べてないとか寝てないとか風邪気味だったとか色々心当たりはあるが。

激しい胸の痛みだったが、救急車に乗せられて病院に着くころにはけろっと治っていた。

帰りたいと訴えたが、念のためと精密検査を受けるための検査入院となった。

今はどこも痛くないので、退屈極まりないと手荷物から取り出した携帯ゲーム機。

一時も欠かさず持ち歩いているこのゲーム機で夢中になってやっているのは、『エレメンタルプリンセス~精霊の乙女たち』通称『エレプリ』と呼ばれるもので、女性主人公が見目麗しい男性を落とすといういわゆる乙女ゲームだ。

自称ゲーマーの私は1周目は楽々クリアしたものの、その後何度かエンディングを迎えたところで行き詰っていた。


「有紀、せっかく貸してくれたけど、このゲーム難しくない?」

「え?理亜がそんなこと言うなんて珍しいね?・・・なんだ、ちゃんとベストエンディング迎えてるじゃない」

「よく見てよ、テキスト」


『こうして、精霊の乙女であるエレメンタル・プリンセスはマリーアンジュ様に決まりました。彼女の幸せそうな微笑みに、私も心から祝福したのです』


「あれ、もうハードモード入ってるの?やるねえ」」

「やっぱりこれハードモードだよね?!おかしいと思ったよ~」


起き上がっていた身体を、ぼすっと布団に沈める。そしてそのままニヤニヤしてる亜紀を軽くにらんだ。


「説明書も無しなんだもの、わかんないよ」

「ごめんごめん。無くしちゃったんだよ。でも理亜のことだし、メインヒロインのマリーアンジュ編はさっさと終わったんでしょ?」

「まあね。説明書も読まずの初プレイで男性陣全員はべらしての逆ハーエンド迎えたときは、なんだこれって思ったけどね」

「ぬるくてびっくりしたよね?でも、これからが本番よ?なんせ、ハードモードは・・・」


言いかけた亜紀が、ふと枕もとの時計に視線をやる。


「あ、今日はあんまり時間ないんだった」

「そうなの?わざわざありがとうね!ゲームもすごく面白い!退院したら買うわ!」

「全然。ぜひ買って、やりこんでよ!また退院したら、語り合おうぜ!私の一推し、火のラルフィード様についてね!」

「いいや、一推しはなんてったって風のゼファス様でしょ!」


お互いの推しを声高く主張し、笑いあう。

手を振って出て行った親友を見送り、さて、と私は立ち上がる。

まだ夕飯までは時間があるだろう。トイレに行ってなんか飲み物も買って、それからゲームの続きを・・・と考えながら数歩歩いた時だった。


どくん


胸の鼓動が全身に響く。そして、貫かれるような痛み。

慌ててナースコールへと手を伸ばすが、目がかすんで胸が痛くて手が届かない。


やばい。やばいやばいやばい。

痛い・・・痛い痛い死ぬほど痛い、え、これ死ぬの?私死ぬの?

やだ、まだ何もしてない。社会人2年目、やっと仕事に慣れたのに。これから、頑張るつもりだったのに。

恋だってしてない、ゲームばっかりやってて恋愛とかどうでもよ・・・くはないけど、そんな女に誰がかまってくれるんだとかそういうことだけどさ、でもさ、いつかは誰かと恋愛したかったよ、いつかは。


そう、このゲームに出てきたゼファス様のように。

もしこのまま死ぬのなら、来世は『エレプリ』メインヒロインのようなチートキャラで、ゼファス様のような素敵な人と・・・


ああっ、まだハードモードクリアしてない!!

ゲーマーとして・・・残・・・念・・・


そこで私の意識は途切れた。        

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