第六話
ーーーーー瞼を開けると。知らない部屋の中に居た。体が綿毛にでもなったかのように軽い。
-----頭がぼんやりとしてうまく働いてくれない。-----だけどーーーーー頭の中がフワフワしてとても気分がいい。-----視界の中に入るのはーーーーー薄暗い天井とーーーーー私を覗き込む二人の男の姿だけだ。
いつもの夢じゃない……。
これは、この夢はーーーーー
『龍ちゃんやべえって……。だからあんな先輩とは手を切れって言ったのに……』
酷く狼狽えた男の声が聞こえる。
『うるせえ!お前だって同罪だからな!お前も美味しい思いが出来るからホイホイついて来たんだろうが!』
ニキビ面の男が怒声をあげる。
『……でもこれって。もう……もう呼吸が……』
『し、知らねえよ……。俺だって先輩から言われた通りにいつもの3倍打っただけだし……。先輩が多く打ったら記憶も飛ぶから絶対大丈夫だって言うから……』
二人して顔を真っ青にしながらこちらをみる。-----どうしたんだろうか。
わからない―――――。
とにかく気分がいい―――――。
『……おい。逃げるぞ』
『でもこのままだとやばいんじゃ……。DNA検査とかされたらばれるんじゃ……』
『DNA検査されたとしても、俺たちに逮捕歴はないから絶対ばれないって。指紋だけ残らないように触った所を全部拭いて行くぞ。下手に証拠を残さないようにする方がかえってやばいって聞くからな。それに、こんな薬中の売春してる女なんて警察も真剣に捜査しないだろ』
『う、うん。そうだね。わかった―――――』
―――――何か言っているが、理解できない―――――。目の前が―――――白くなっていく―――――。
―――――私は―――――どこで間違えたんだろうか―――――。
―――――目を覚ます。仰向けのまま目を開けると、そこには知らない天井ではなく、緋色の顔があった。
「……なにしてんの?」
「い、いや、うなされてたようだから……。大丈夫かな―――と思って」
お互いの息さえ触れるような距離で緋色に問うと、緋色から歯切れの悪い答えが返ってくる。緋色の長い髪が頬にあたりくすぐったい。
「まあ、いいや。重くて暑いからどいて――くれっ!」
両手・両膝を駆使し、掛布団ごと緋色を持ち上げ、右隣の緋色が元々寝ていた布団まで転がす。綺麗に半回転して受け身をとりつつ、緋色が自分の寝床に戻る。
「重いだなんて心外な」
月明りしかなく、緋色の表情は読み取れないが、頬を膨らませて憤慨している事が容易に想像できて思わず苦笑いしてしまう。
見るに堪えない夢だったため、この何でもないやり取りに正直救われる。
「……それで、どんな夢だったの?」
うなされていたという事だったが、寝言でも言っていたのだろうか。緋色が心配そうに声をかけてくる。先ほど、気にするなと言われた手前、あまり心配させるような事は言いたくない。
「……いや、とるに足らない、くだらない夢だったから大丈夫」
色々と思うことはあるが、結局のところ俺には関係ない。あの女の幽霊が、どんなに悲しく、苦しい思いをしたとしてもすでに過去のことだ。ましてや、俺の知り合いというわけでもないから、敵討ちなんかする義理もない。
―――――俺とは関係ない。―――――関係ないんだ。