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妖と歩いた道  作者: かぶきれじぇんど
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第五話


 帰りは、廃病院の横を通らず、遠回りをして帰ることにした。15分程遠回りになるが、あの幽霊と会うよりはましだろう。

 山の入り口である小さな鳥居をくぐり、石段に足をかける。行きは下りだからそこまで辛くはないが、帰りがこれまた辛い。ただでさえ学校に行くことにより、心身共に重くなった足どりでは、この石段を上るのは一苦労である。

 折れそうになる心に喝をいれながら石段を上りきり、家の玄関を開ける。玄関で靴を脱いでいると、居間の方から懐かしい電子音が流れてきた。軋む廊下を歩き、障子を開けると緋色が座椅子に座りながらテレビゲームをしていた。


「ただいま。また懐かしいのをやってるな」


「おかえりー。葵もやる?」


「ああ」


 そう言いながら、緋色はグレーのコントローラーをプラプラと振りながら俺に手渡す。コントローラの配線を見る限りどうやら1Pの方らしい。俺は短く返事をしてコントローラーを受け取り、緋色の隣に座る。


「ここって招き猫どこにあるの?」


「崖の上にあるから、壁を登らないと取れないぞ」


 画面に集中し、緋色のフォローをしながら次々とステージをクリアしていく。個人的に好きなゲームだったため、いまだにルートを覚えている。


「そういえば、今日は学校どうだった?」


 ゲーム画面を見つめたまま、不意に緋色が会話を切り出す。


「あー。……うん。まあ、いつも通りだった」


「そうなんだ」


「いや、まあ、違ったことと言えば……。友達ができた」


 俺が答えた瞬間、緋色のキャラクターが落とし穴に落ちる。


「……友達?それって人間?」


 友達が出来たと答えて、人間かどうかを確認するなんて俺たち兄妹ぐらいのものだろう。


「……たぶん人間。それも俺たち寄りの。そいつも霊とか見えるらしい」


「……ふーーーーん」


 疑わしげに緋色がこっちを横目で見る。さっきからゲームの操作に集中できておらず、敵の攻撃を受けまくっている。


「……まあ、俺も全然実感湧かないよ。なんかいろいろと不自然だったし。なにか……違和感あるし」


 今日、白石に出会った事を思い出しながら答える。白石の言動や行動は、客観的に見たら怪しさこの上ない。


(でも、それを言ったら俺も同じか……)


 俺も妖から話しかけられたら答えたりもするけど、それは第三者から見たら虚空に対して話しているように見えるため、小学生の頃までは周りに頭がおかしい子供と見られていた。


「私がこう言うのもなんだけど……。あんまり信用したらダメだよ?」


「……わかってる」


 中学生の頃、友達関係で大火傷をしたことがある。あの頃、人恋しさで浅はかにも友達を作ろうとした自分を随分と恨みもした。

 もう二度とあの時のような失敗は……したくない。


 ボスを倒した所でふと時計を見ると、時刻は19時になろうとしていた。


「キリがいいから、次の街で旅日記つけてから飯にしようか。今日は、なに食いたい?」


「じゃあ、久しぶりにオムライス食べたい」


 緋色がゲームのセーブをしたところでゲーム機本体の電源を切り、台所に向かう。確か、オムライスの材料はまだあったはず。

 冷蔵庫の扉を開け、鳥もも肉や玉ねぎ等、必要な材料を取り出して手早く調理する。オムライスは、一時期こだわって何度も作ったため、体に作り方が染み付いている。


 チキンライスを包み込まず、チキンライスの上に半熟のまま形にした卵のみのオムレツを置き、食卓宅に並べる。

 食べる直前にオムレツをナイフで割り、チキンライス全体を包み込むように半熟の卵が流れ落ちる。その上からケチャップとウスターソース、牛乳で簡単に作った特製のソースをたっぷりとかけて完成となる。

 以前、緋色と食べに行った洋食屋でこのオムライスを出されてから、随分とこだわって作るようになった。


「いただきます」


 律儀に緋色が手を合わせてから食べ始める。


「めちゃくちゃ美味しいよ。葵も腕をあげたね」


 美味しそうにオムライスを頬張りながら緋色がオムライスの味を褒める。


「一時期馬鹿みたいに作ったからなぁ」

 

 作り慣れて何度も緋色に食べさせたオムライスではあるが、作るたびに緋色は褒めてくれる。お世辞だろうが、褒めて貰えるのは正直嬉しい。


「そういえば、お前は今日はなにしてた?」


「今日は、午前中勉強してたら梓と伊吹が来たから稽古してもらった」


「あの2人が?最近よくうちに来るけど何かあったのか?」


「ううん。特にはなにも言ってなかったよ。……ただ、『最近物騒ですから自衛の術を学んでいただきます』とかなんとかは言ってたけど」


 梓さんと伊吹さんは、昔から俺たちの事をよく見てくれる妖だ。彼らは烏の妖らしく、自分たちは妖怪の分類上は鴉天狗と呼ばれているという事を以前教えてもらった。

 妖と一口に言っても、悪い奴らばかりではなく、梓さんと伊吹さんのように優しい妖もたくさんいる。というか、この鬼火山に住んで居る妖は気の良いやつらばっかりだ。


「葵も誘われてたけど、稽古しないの?」


「やだよ……。痛いの嫌いだし、喧嘩も好きじゃないから…」


「我が兄ながら情け無い……。喧嘩じゃなくて自衛だってば」


「どっちも同じだろ」


 俺は平和主義だから人を殴ったり殴られたりするのは好まない。


「まあ、いいか。稽古したくなったらいつでも言ってくださいってだから、一応伝えたから」


 そう言って、緋色が食べ終えた食器を流しまで持っていく。


「ところで、今日何かあった?」


 流しに食器を持って行った帰り、不意に緋色が俺のうなじの部分を覗き込みながら声をかける。


「なんで?」


「いや、葵の首元にもの凄い思念というか……怨みというか……呪い?……誰かの恨みでも買った?」


「……あ」


 緋色の言葉で今朝の通学途中に出会った女の幽霊の事を思い出す。

 まさか、あの一瞬で祟られたのか?


「……心当たりありそうね」


 緋色が綺麗な形の眉をひそめて俺の襟首から指を離す。


「ど、どうしたらいい?そう言われたら心なしか具合悪くなってきたんだけど……」


 酷く狼狽えた声を出してしまったが、この際仕方がない。ただ目があっただけで呪われるなんてたまったものじゃない。


「気にしなくて大丈夫でしょ。死んだ人間が生きた人間にそう簡単に影響を与えるものじゃないわ。まあ、この思念は強いけど、葵自身が気を強く保ってたら大丈夫。どんな怨みもいつかは風化するから」


 俺の心配を他所に緋色があっけらかんと言ってのける。


「そ、それならいいけど。まあ、でも気分がいいものじゃないな……」


 俺たちの育ての親である爺さんは謂わゆる霊媒師みたいな事をしている。緋色は爺さんの仕事に興味を持って昔から色んな話を聞かされているため、俺よりこの手の事には知識がある。

 その緋色から太鼓判を押されたのだからひとまずは大丈夫なのだろう。


(しかし人間といい、幽霊といい、他人から恨まれるのは気分がいいものではないな)


 気にするなと言われても、やはり気分が滅入る。これが呪いの効果と言えば、そうなのだろうか。随分とショボイ呪いもあったものである。


「どうしても気になるのなら、今度お爺ちゃんが帰ってきた時にでも相談してみたら?」


「ああ。そうしてみるよ」


 自分が食べた分の食器を流しまで持って行き、スポンジに洗剤をつけて洗う。


「お風呂先に入るけど、お風呂から上がったらまたゲームやる?」


「いや、今日はもう遠慮しとく。いろいろな事があって疲れたから、風呂からあがったらすぐ寝るよ」


「そう……残念」


 まだゲームをやりたかったのか、緋色が肩を落としながら今から出て行く。

 俺は手早く食器を洗い、明日の分の米を研ぎ、炊飯器にセットする。


(今日は疲れた……)


 このまま風呂に入ってから寝たら、きっと今日はぐっすりと眠れるだろう。










 





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