第二話 ー遭遇ー
家が山の上にあるため、高校までの道のりはなかなかハードだ。家の前の人ひとり通れるくらいの小さな鳥居を潜り抜けると、苔が生えた古びた石段が目に入る。子供の頃数えた事があるが、およそ200段ほどあるため、毎日の登下校でこの石段を登り下りするのは本当に億劫に感じる。
歩き慣れてはいるが、苔が生えて滑り易くなっている石段を慎重に降り、ゴールの小さな赤い鳥居をくぐる。鳥居をくぐり抜けると、ようやく農道が目に入り、歩き難い石段から脱出できたことにほっと胸を撫で下ろす。
20分ほどかけてひたすら代わり映えのしない田んぼ道を歩いていると、ようやく綺麗に舗装された道路に出る。
(やだなぁ……)
学校に行かなければならないというだけでも億劫なのに、俺が外に出たくない理由がもう一つある。俺達が住んでいる山には結界があるらしく、悪意がある者は入って来れないらしい。だが、鳥居から出るとその効力も切れる。この世界には、様々な幽霊や妖といったこの世ならざる者が闊歩している。
歩いていると、様々な者に出会う。交通事故により全身が血だらけの幽霊や、なぜ死んだのか気づかずに茫然と立ち尽くしている幽霊。
俺は、いつもと同じようにそいつらと目を合わさないように伏し目がちに歩く。
「……ッ!!」
いつもと同じように高校へ行く途中にある、廃病院の隣を抜けようとすると、普段と違う光景に気づく。
『----ごめんなさい。……ごめんなさい。私は……』
他の幽霊とは違い、どことなく雰囲気が禍々しい。今まで出会った事のないタイプの幽霊にたじろぐ。制服を着ており、外見は肩甲骨まで伸ばしたややパーマがかかった髪に、眼鏡をかけている。おとなしめな印象を受ける。
(高校生みたいだな。だけど、なんであんなに禍々しいんだ?)
たいてい、幽霊というのはその場所にいるだけでなにもせず、人畜無害な者がほとんどだが、この幽霊はどことなく雰囲気が違う。
「……やば」
瞬間、幽霊と目が合う。彼女の瞳の奥には憎しみの炎が燃えており、怨めしげな表情でこちらを見る。
(……油断した)
目が合った瞬間、女幽霊の記憶が一瞬にして俺の頭の中に流れ込んでくる。
『やめて!』
『なんでこんな……』
『……違う!私じゃない!』
『なんで信じてくれないの……』
……記憶は酷く断片的であり、要領を得ない。だが……これは……。この記憶からは、断片的ではあるが、女幽霊が生前、複数の男に強姦され、絶望し、自殺したということが推測できる。
(俺にどうしろっていうんだ……)
一方的に記憶を押し付けられ、俺は憤慨する。知りたくもない記憶をいっぺんに見せられたことにより頭痛がする。
「……頭いてえ」
結局、女幽霊は記憶を見せるのみで、それからはなんの行動もみられなかった。ただ、その場に立ち尽くすのみでブツブツと恨みつらみを延々と述べている。
俺は心に若干のしこりを残しながらその場を後にし、学校に向かう。