僕や俺なりの力の使い方。~僕はやれやれ系、俺は世直し系~
その日、僕の目の前に、二本の剣が降って来た。
その剣に引き寄せられるように、手が伸びて、しっかりと掴む。手に馴染む。グッと力を込めて引っ張れば、あっさりと抜けて拍子抜けした。
試しに一振り。見た目の割に、軽い。二刀流は難しいとよく聞く。剣道でも、かなりの練習が必要だと。片手で剣を正確に振るという、そこそこの腕力前提。二本の剣をしっかりと連携させるという器用さ前提。その割に、僕はこの剣を、使いこなせる気がした。
「へぇ」
心が躍る。
物語なら目の前になんか敵が現れるのだろう。そんな気配は無いけど。
僕はこれから、この力を隠して、いざという時に発揮するんだ。
背中に持って行くと鞘があった。納める、けど、このまま学校に行くわけには行かないよな、と思ったら、背中に感じていた重さが消えて、手の中に二本の剣が交差したキーホルダーが現れた。
「……便利だ」
良いね、これ。
上機嫌のまま、学校に向かった。
俺の前にあの剣が降って来た日の事はよく覚えている。
背丈ほどある巨大な剣。普通なら、こんな思い奴、どうするんだと思うところだ。でも、俺は躊躇うことなく、その柄を掴み、引き抜いた。
あの時感じた高揚感は、今でも熱となってこの心を昂らせる。
「この力……!」
俺は、とりあえず走った。身体が軽い。ジャンプすれば電柱の高さまで飛び上がれた。そのまま電柱を踏み台にさらに高く。学校が見える。
力を込めて剣を一振り。斬撃は衝撃波となり、視界の先にあった学校が、真っ二つになった。
「は、はは!」
俺は理解した。この力、そうだ、この力なら。
「壊せる。壊せるぞ」
その日、一つの街が、斬撃の嵐により、破壊の限りを尽くされた。
最近、気になるニュースがある。
隣県の三つの町が、謎の現象により壊滅したというものだ。
気象現象などでは説明ができない。なぜなら、建物が鋭利な刃物で斬られたかのごとく、切断されて倒壊していたから。
生存者によれば、急に建物や人が真っ二つになった、とのこと。写真を見ても、確かに斬られてる、としか言いようがない。
通学路の途中、僕は手の中のキーホルダーを見る。
周りを歩く生徒たちも、ニュースは知っているし、先生も注意するように言っていた、いや、何を注意するんだ、って話だけど。
敵らしい敵が現れず、何となく深夜、退屈混じりに公園で一人、二刀を振り回す日々が終わりに近づいてると。
主人公とは、力をいざという時に弱者を理不尽から守るために振るう。
絶対的悪者なんて、最近創作物の中ですら見ないけど。
思わず笑ってしまう。いやほんと、何か倒して欲しい奴がいるなら、さっさと来て欲しい所なんだが。
その時だった。キーホルダーが勝手に剣に変わる。反射的に振り返り、二つの剣を同時に振るう。斬撃が飛ぶ、空気の衝撃が衝突し、破壊の嵐が小規模に形成された。
「な、なんだよ」
悲鳴が聞こえ、すぐに無人の道路に。地面が、斬れていた。その向こう、持ち主の背丈ほどの剣を構えた男が、そこに立っていた。
「なんだ、お前」
「……お前こそ、なんだ。その二本の剣……そうか」
そいつはその大きさ、そして大きさ相応の重さを感じさせない動きで振りかぶり、そして振り下ろす。交差して受け止める。金属音。そして、重み。
「ぐっ!」
大きさに似つかわしくない素早い連撃。的確に僕の身体を両断しようと迫る。
感じるのは破壊への衝動。攻めに転じなければ、すぐにジリ貧になるのは、戦いの素人でもわかる。
追いつけるのは、剣に助けられているから、としか言いようがない。
「お約束だもんなぁ、俺みたいなやつがいれば、俺を止めるための存在もいるってなぁ! わりと早く表れたなぁ。お国の兵隊さんは飽きたんだよ。さぁやろうぜ! ぶっ壊してやる!」
剣が光を帯びる、いや、光じゃない。闇だ。禍々しい闇を帯びる。
「おぉ!」
剣を振り抜いた受けきった、はずなのに、重みは消えず、衝撃だけで押し下げられる。
腰をついた僕に、奴は剣を突きつけた。
「死ね」
振り下ろされる剣。反射的に目を閉じた。
終わりはいつだ。どんな感じだ。やっぱり首かな。首が落ちる時、数秒は景色が見えるって、本当かな。
しかし、いつまで経っても、意識が途切れる気配は無い。腹に衝撃、塀をぶち抜き転がるが、痛みは無い。怪我も無い。身体が頑丈になっているのに気づいた。
「くっ」
立ち上がって敵を見据える、が、その敵は頭を抱えていた。
「殺せな、かった」
そんな風に呟いているように聞こえた。僕は斬りかかる。相手は動かない。剣は中途半端な所で止まる。自分の役目を思い出したかのように顔を上げ、僕を視認し、戸惑う僕を殴り飛ばす。しかし、剣を向けては来ない。
崩れた家に埋まり、僕は思わず唸る。
「何だよ……くそっ」
剣をさらに強く握る。
力が、今手の中にあるのに。僕が、強くなるための力が!
あいつを殺せば、少なくとも、この町は守られる。
あいつを殺せば、俺のやりたかったことは、達成される。
でも、僕は。
でも、俺は。
手を汚す勇気が無い。。
殺す勇気が無い。
やたらゴツイ車が停まった。
二刀の男は瓦礫に埋まったまま出てこない。
車から銃を持った人間が出てきた。
剣を横薙ぎに振るった。無造作に、刈り取るように。無双系のゲームで、いちいち雑魚のHPや数を気にする奴もいないだろ。
「あぁ、殺せる」
俺の衝動は。留まる事を知らない。その衝動に応えてくれる。この剣は。
もっと、もっと、俺を剣に委ねるんだ。
壊したい。壊せ!
あいつが吹っ飛んだ方に狙いを定める。破壊への思いを、高める。壊したいものを、頭に浮かべる。
「うぉぉぉぉ!」
振り下ろせば、黒い斬撃が地を切り裂き襲い掛かる。
「うぉぉぉぉ!」
そんな声が聞こえた。同時に、白い嵐がその場に吹き荒れ、黒をかき消した。
「僕は、強くなりたい! 強くなるんだ!」
剣が白い光を纏う。
「ふん、借り物の力が、嬉しいか!」
「それは、お前もだろうがっ!」
黒と白がぶつかり合う。
俺の破壊衝動を、あいつは憧れだけで受け止めた。
衝動が昂る。黒い闇は深さを増し、剣に重さと速さを与える。奴の白も、輝きを増し、流星の如く降り注
ぐ。
「あぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁ!」
「ぐっ」
押しきられる! 今度は、俺が飛ばされる番だった。瓦礫の山に、突っ込んだ。
でも俺は、笑いが込み上げるのがわかった。
「おい、気づいたか」
「何がだ」
「周り、見ろよ」
「は?」
奴は、視線を三度巡らせ、呆然と、自分の手を眺める。
「なぁ、守りたいわりに、随分と派手に力を振るったなぁ」
「なっ……くっ……」
終わりだ。
今度こそ、殺す。押しきれ。一線を超えろ。この力で、世界を壊し。世界を、作るだ。
けれど、剣は避けられる。まだ、剣は光を帯びていた。
「負けて良い理由には、ならない。戦えるのが僕だけなら、これが諦めて良い理由にはならない。僕が逃げたら、誰が戦うんだ!」
剣が弾かれる。二刀が、振るわれる。肉を斬り、血を飛び散らせ、臓物を貫く。
奴の目は、眩しかった。
それから、僕は今、自分の生まれ、育ち、守った町を見下ろせる山にいる。いや、その一言で済ませるには無理がある。その間には色々あったから。
まず僕は褒められた。その後批難に晒された。
まず、破壊された家。巻き込まれて怪我したり亡くなったりした人。復讐の対象は死んでいるから、まぁ、僕に向けられる。責任の所在をはっきりさせるためには、当事者が丁度良い。
それから数日、なんかお偉いさんが率いる人に連行されることになった。強すぎる奴がいるのは、都合が悪いと。剣になったキーホルダーは取り上げられ、僕は牢屋にいれられた。一日過ごしたが、不味い飯と固いベッド、あんまりだ。
でも、すぐに気づいた。剣は持ち主から離れると、戻ってくるみたいで、僕は牢屋を破壊して逃げることにした。
そして探し回って、なんかの研究機関で色々調べられていたあいつの剣も回収した。
その剣は今、僕の手の中で、深い、深い闇を帯びている。不気味なくらい手に馴染む。
練習がてら書いてみたファンタジー要素の入った話です。設定を考えるのは楽しいなぁ。