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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第一章.兄妹の新生活編

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12.ドキッ! 男だらけの冒険者ギルド!!

ブクマ、ポイント評価など本当にありがとうございます。引き続き毎日更新がんばります!


 

 煌びやかとまでは行かずとも、清掃の行き届いた清潔な空間。

 喫茶スペースでは優雅な一時が流れ、店内には落ち着いたBGMが流れている。


「お帰りなさいませ、冒険者様」


 そして入口にて鮮やかに出迎えるは、華やかな執事たち――。


「間違えました」


 俺はそっ……と扉を閉めた。


「兄さま? どうかされました?」


 後ろに立っていたユキノが不思議そうにぴょこんとジャンプしている。俺の背中に隠れて中の様子が見えなかったようだ。


 答えないままゆっくりと、俺はもう一度その建物の外観を確かめる。

 ――うん、看板にはやっぱり、「冒険者ギルド」と案内の文字がある。

 ダルたちに「ウチの店出て右角曲がったらすぐだぞ~」と教えてもらったとおりだ。ここは城下街【ハルバン】に唯一存在するギルド。……で、間違いないはずなんだけど。


「兄さま」


 ユキノが俺のことを続けて呼んだ。答えようとしたところで、ユキノの目が俺を通り越した向こう側に向けられているのに気づく。

 振り向くと、俺が入口でもたもたしている間に「お出迎え」がやって来てしまったらしい。

 一度は閉じたはずの扉がしっかりと開いて、中から爽やかな笑みが飛び出してきた。


「どうぞ、お二方ともお入りください。ウェルカムドリンクもご用意しておりますので」

「まあ嬉しい。そういえば、今日はまだ何も食べていませんでしたね」

「左様でございましたか。当ギルドにはささやかながら喫茶スペースもございます、そちらで朝食もいかがでしょうか」

「お心遣いに感謝いたします。では兄さま、冒険者登録の後はこちらでお食事にしましょう」


 しかし圧倒される俺とは異なりユキノは慣れたものだ。

 執事との受け答えを終えると、颯爽と入店してしまった。何でそうスラスラ言葉が出てくるんだ。

 俺は慌ててユキノを追いかけた。そんな俺たちに、優雅な挨拶と共にお辞儀してくる黒い執事服の群れ。九割ほど眼鏡。受付も給仕役も全員男性……。


「ユキノ、これやっぱり違う店なんじゃ」

「でも、皆さん礼儀正しい方達ですよ」

「けどギルドっていうより、ほぼ執事きっ――」


 そう呟いていたら、横合いから急にグンと引っ張られた。

 見ると、喫茶スペースでお茶を嗜んでいた若い女性三人組だ。

 何だろうと焦る俺に対し、彼女たちは口々に、小声ながら叫ぶような調子で言い始めた。


「アナタ知らないのっ? 王都のギルドは男のレベルが違うって有名なのよ」

「週末には握手会やチェキ会の催しがあるけど、依頼を数多くこなした冒険者が優先的に整理券を配布されるから、みんな毎日必死で冒険してるの。高難易度ミッションにも死ぬ気でチャレンジしなきゃ勝ち残れない!」

「執事長のセバス・チャンなんて「目で人を殺す」って言われてるの。そのことからついた二つ名は"殺人眼鏡執事(キルキルバトラー)"よ!」

「何が何だか分かりませんが、とにかく大人気の執事喫茶ってことですね!」

「「「冒険者ギルドよ!」」」


 揉みくちゃにされてひいひい言っていると、力強い腕が俺の身体を引き上げてくれた。

 誰だ? と思って振り向くと、


「いけませんよ、お嬢様方。こちらのお坊ちゃまは当店にお越し頂いたのは初めてのようです。手取り足取りご案内さしあげなくては」


 一際イケメンの七三分け眼鏡クール執事が微笑んでいた。もう何からツッコんでいいかわからない。

 しかし戸惑う俺を尻目に、店内がざわつき、女性たちから黄色い歓声が上がる。というかギルド側の男性以外、ほとんど室内に女性冒険者しか居ないんだけど……。


「大変! 副執事長のエンビ・フクだわ!」

「麗しすぎて目がつぶれる! 幸せ!」

「チェキ(魔法名《必写撃(チェックイット)》の意)も注文してないのに、いたいけなキュートボーイとの絡みが見られるなんて!」


 ……うん、俺に分かるのは最早誰も止めてくれそうもないということだけだった。

 こうなったら自分で何とか切り抜けるしかない。俺は何故か腰を片手で抱き留められた格好ながら、おずおずと切り出した。


「あ、あのエンビ……さん? 助けてくださったのは有り難いんですけど、そろそろ離していただけたら……」


 聞いちゃいない様子でエンビさんが端整な顔立ちを近づけてくる。

 香水のものか、妙に良い香りが鼻腔をくすぐっている。上品なセージの香りみたいな……。


「ほう、これは逸材……。君、この眼鏡を掛けてここで働いてみる気はありませんか?」

「言いながら、もう掛けてますよね!」


 そして匂いに気を取られていたらいつの間に眼鏡を掛けられていた。

 早業すぎて怖い。ていうか顔が近い!


 異世界の洗礼を受け震え上がる俺に近づいてきたユキノが、ひそひそ小声で囁いてきた。


「兄さま……私、メガネ属性もあったようです」


 そっかぁ、と俺は外した眼鏡をそっと妹に掛けてあげたのだった。



 +     +     +



「大変失礼致しました。当店の趣向に圧倒される冒険者様が多いものですから、たまに堂々とからかわせて頂いておりまして」

「堂々とからかわないでください……」


 その後何とか悪ふざけから解放された俺たちは、エンビさんに渡されたベージュ色の紙に必要事項を記入していた。ユキノは相変わらず眼鏡装備だ。結構似合ってる。


 受付用紙の内容としてはシンプルに、名前・役職・リブカードの色の項目。丁寧に備考欄というのもあったが、俺は特にそこには何も書いていない。

 《来訪者》に与えられる"言語理解"、"言語抽出"のスキル効果なんだろうが、今のところ会話や読解にもまったく困らないし、今回で初めて、文字も問題なく書けることが判明した。

 自分としては、ただ単純に慣れ親しんだ日本語で書こうと思っている。が、ペン先が紙面についた直後、見たこともない文字が自動で描かれていくというか……それは言葉にできないほど不思議な感覚だった。


「この冒険者ギルド創設者の言葉です。「ギルドと言ったらキャバみたいなイメージ、アリはアリだが敢えて『ドキッ! 男だらけの冒険者ギルド!!』的なアプローチもアリじゃない? ……と。そんな遊び心に満ちたギルドです。キャバという言葉の意味は分かりかねますが」


 その創設者の人、明らかに俺たちと同じく異世界から来た人だろうな……。

 しかしその才覚により、今やこの執事喫茶風ギルドは各地に広まり、チェーン店も続々とオープンしているらしいというから大した物だ。喫茶スペースは夜にはバーに早変わりし、これまた冒険者の憩いの場として機能しているのだという。


「近日中にメイド喫茶風ギルドも展開予定です。お楽しみに」


 エンビさんがカメラ目線で言っている。異世界がごくごく部分的に日本文化に染まっているようで、何か申し訳ないような気持ちに……。


 俺とユキノは必要事項を書き終えると、それぞれのリブカードと共に用紙をカウンター越しのエンビさんに提出した。


「はい、こちらで確かに……おや?」


 エンビさんの動きが一瞬止まる。


「シュウ様のカードは灰色ですか。これは珍しい」

「そうなんです。色が変わらないままで……不良品とかではないみたいなんですが」

「ふむ……。通常、リブカードは地・水・炎・風・雷・光・闇・無の八属性の内のどれか、あるいは複数の属性を所持することで色が変化します。しかし灰色というのは、聞いたことがありません」


 エンビさんは物珍しそうに俺のカードを見つめている。

 一縷の望みはあるかと思ったが、ここでもヒントは得られそうにない。

 落胆しかけた俺だったが、さすが執事というべきかエンビさんの気遣いは超一流だった。


「ですが冒険者ギルドでは、冒険者の皆さんに様々な依頼を斡旋させて頂いております。簡単なものですと採集・伐採・採掘から始まり、危険な魔物討伐も数多くお願いしていますね。

その性質上、あらゆる立場の方が集まる場所でもありますから……情報収集には最適かと存じます」


 一切言い淀むことなく告げると、華麗にウィンクを一つ決めてみせる。


「私の方でも個人的に情報を集めてみます。何か分かったことがあれば、すぐにお伝えしましょう」


 俺の中でエンジさんに対し貼られていた「眼鏡の変な人」というレッテルがぺりぺりと剥がれ、見る見るうちに「眼鏡のデキる人」に変わっていく。


「ありがとうございます、助かります」

「良かったですね、兄さま」


 ユキノと笑顔で頷き合う。まだこのカードのことも、女神さまから授かったスキルのこともよく分からないままだが、少なくとも一歩前進したと思っていいだろう。


「では、お二方とも登録が完了しましたのでリブカードをお返しします」


 返ってきたカードを確認すると、以前とは少し内容が変わっていた。


――――――――――――――――


鳴海 周 “ナルミ シュウ”


クラス:剣士(フェンサー)

ランク:F

ベーススキル:"言語理解"、"言語抽出"

パーティ:鳴海 雪姫乃 “ナルミ ユキノ”


――――――――――――――――


 クラスとランク、それにパーティメンバーの記述が増えている。


「私のカードに、兄さまのお名前が刻まれている……! ユキノ、感激です!」

「このランクっていうのは?」


 カードにすりすり頬ずりしているユキノはひとまず放置して、気になるところをエンビさんに訊いてみる。


「文字通り冒険者様の等級を表しており、クエストを達成されますと難易度に則りこのランクが上昇していきます。一番下がF、そして最高位のランクはSランクとなりますが……ハルバニア国内には現在Sランクの冒険者様はいらっしゃいません。現状ですと、Aランクの方々が第一級となりますね」


 当然ながら、俺とユキノはFランクからのスタート。

 ということは、俺たちより強い人が現時点で大量にこの国には存在しているということだ。


 たった二日前の、異世界に召喚された日。

 魔王を倒してほしいとラングリュート王は言った。

 魔王が蔓延させている血蝶病(けっちょうびょう)の呪いを打ち破ってほしい、と――しかし、俺の第一目標は違う。


 俺はこの世界で、ユキノを幸せにしてやりたい。

 そのためには、ユキノのことを守り抜けるくらいに強くなる必要はある。が、魔王に勝てるほどなりふり構わない強さを求めているわけじゃない。

 困っている人を助けたいとは思うが、優先順位をはき違えてはいけない。それは今後も肝に銘じておかなければならないだろう。


「兄さま、何か考え事ですか?」


 ふと、真向かいから声がして、ハッと顔を上げる。

 ユキノはティーカップを手にして、不安そうに俺の顔を見つめていた。

 せっかくの食事中だというのに考え事に耽っていた。俺は慌てて、取り繕うように口にした。


「いや、気になってたんだけど、誰もクラスメイト見かけないなって」

「クラスメイト……ですか。そういえば、そうですね」


 ユキノは言われて始めて思い出した、という感じに周囲を見回す。

 俺も改めてギルド内の隅から隅までを眺めてみるが、やはり見知った顔は一人も居ない。


 衣裳屋や武器屋に立ち寄ったときも、街中を歩いているときもそうだ。マエノやホガミ……それにイシジマやハラも見かけていない。

 ふつうに考えれば、彼らはまだハルバニア城の近くから移動していないだろう。つまり、高確率でこのハルバンを訪れているはずだ。それなのにすれ違いもしないというのは些か不思議だった。


 今さらのようにサラダを口に運ぶ俺を見て、ユキノは静かに微笑んだ。


「案外、まだお城に留まっているのかもしれません」

「はは、まさか」


 一度、ハルバニア城に戻って様子を見ておきたい気もしたが、何となくそれを口にするのは憚られた。




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