現代へ3
餓鬼の頭が弾け飛ばした拳を引き、足元に横たわる少女にマントを被せる
魔王の攻撃にも耐えたマントだ、戦闘の余波でも問題なく耐えてくれるだろう。
何より目に毒だ。
「え・・?えぇ・・・?」
春香と呼ばれていた少女は現状を把握出来ていない
餓鬼も何が起こったのかよく分かっていない様だったが、仲間を殺されたのは分かっている様ではっきりとした敵意を俺に向けていた。
そして
「ギィッ!!」
声を上げ俺の方へ飛び掛ってくる
「俺の目の前で」
飛び掛ってくる餓鬼に向かい1歩踏み出し顎を掌底で撃ち抜く
餓鬼は勢いを殺され空中で一瞬静止する
その一瞬に俺は大きく振りかぶり拳を餓鬼の顔面に叩き込む
「女の子泣かせてんじゃねーよ!」
拳を顔面に突き刺しながら地面に叩きつける
餓鬼の体が頭から地面にめり込み、痙攣を起こしながら絶命する
その流れを一部始終見ていた春香は口を大きく開け、驚くほか無かったというのを後日聞くことになるのは別の話だ
「助けてくれてありがとうございますぅ~」
「いや、たまたま通りがかっただけだ、礼なんていらないさ・・・それより聞きたいことがあるんだが.....」
語尾が伸びつつ感謝の気持ちを表に出す春香に本題を切り出そうとすると気を失っていた菜子が目を覚ましたのだ。
「ん・・ここは・・・・なにこれマント・・?私は・・・、あっ!春香!?無事!?」
「あ~菜子ちゃん~大丈夫~?」
「良かった!無事なん?餓鬼はどこ行ったん?餓鬼に掴まれた所までは覚えてるんやけど・・・てかこの人誰何?変な格好しとるけど・・コスプレ?」
コスプレとは何だろうと思いつつ、事情を春香にのんびりした口調で菜子に説明してもらい、その後に俺に起きた事も説明した。
「アレックスさんすごいなぁ~勇者さんやで菜子ちゃん~」
「いやそうすぐ信じないでよ春香・・・でも餓鬼を素手で倒す力・・勇者とか格好はともかく、でたらめと決め付ける訳にもいかないし・・・」
嘘じゃないんだけどなと思いつつ、沈黙していると菜子が一度家まで着いてきてほしいというのでこれを了承した。
どの道宛てなど無いのだ、一先ずこの少女達に着いて行き場所だけでも分かればと思い2人の少女の後を追っていく。
ここよ、と菜子が足を止める
見上げると今まで見たことの無い形の大きな家があった。
いや、家と言うには大きい、敷地で言えば貴族の屋敷ほどの大きさだ。
この少女達はもしや貴族の令嬢だったのでは無いかという思いが過ぎり、今までの態度に冷や汗が出る。
こっちよ、と屋敷を案内され木造作りの廊下を歩き奥へ案内され、部屋の前に案内される。
失礼しますと菜子が言い、部屋へ入ると机に肘を付き、顔の前で組んだ壮年の男性がこちらを見つめていた。
「菜子、春香、ただいま戻りました」
「うむ、無事で何よりや、それで?そちらの男性は?」
「餓鬼にやられ、危ないところを助けて頂いた男性で、アレックスさんと言います。」
紹介されたので自己紹介をする。
相手は貴族かもしれない方だ、勇者とは言え礼儀は欠かせない
肩膝を付き、顔を伏せ俺は自己紹介をする
「ご紹介に預かりました、私はダイノス王国より勇者の使命を預かりし者、アレックスと申します。」
そして沈黙が流れる
春香はほぉ~と感嘆の声を上げ、菜子は片手を頭に添え、呆れた感じを出しているのが気配で分かる。
何か間違えただろうか、と思案していると壮年の男性から声がかかる。
「ダイ・・王国?が良く分からないがアレックス君だな?私は吉田創玄と言う者だ。
まずは娘達を助けて頂き本当に有難う。」
そう言い、深く頭を下げる吉田創玄と名乗る男性を前に俺はまったく別の事を考えていた。
ダイオス王国を知らないだと・・・?