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第十六話

 ジャレンスの店を訪れたチェルシアとローレットは、凌馬とミウを見つけると近づいてくる。

「おはようございます。凌馬さん、ミウちゃん。」

「おはようございます。チェルシアさん、ローレットさん。二人も買い物ですか?」


 凌馬が二人に尋ねると、「実は凌馬さんに話がありまして。」とローレットが答えた。

 二人の話を要約すると、凌馬たちに命を救われたお礼とこの先の目的地が特に決まっていないのなら、自分達の拠点がある街まで一緒に旅をしないかとのお誘いだった。


 凌馬としては特に断る理由もなく、またミウも二人には懐いていたので了承することにした。

「私の方は構いませんよ。ミウも良いよね?」

「うん。お姉ちゃんたちと一緒!」


 ミウは嬉しそうに二人に抱き付くと、二人もミウの頭を撫でて喜んでいた。

「しばらく一緒だね。」

「よろしくね、ミウちゃん!」


 こうして、凌馬一行は四人でロージアンの街を目指すことにした。

 旅の準備のため一日置いて、凌馬一行はノリッチの街を旅立つことになった。


「凌馬殿、心配はないとは思いますがどうかお気を付けて。ミウちゃんも、またいつでも遊びに来てね。」

「ミウちゃん、これお弁当。パパやみんなと一緒に食べてね。」

 ジャレンスと奥さんは、街の入り口まで見送りに来てくれていた。


「ありがとう。おじちゃん、おばちゃん、またね!」

「わざわざありがとうございます。また、機会がありましたら寄らせていただきます。」

 凌馬とミウ、チェルシアとローレットは二人に別れの挨拶をすると馬車は走り始めた。


 凌馬は御者席で馬車の操縦をする。

『ある日 森の中 熊さんに───────。』

 後ろの荷台の方では、ミウとチェルシア、ローレットたちが楽しそうに歌を歌っていた。


「ミウちゃん、変わった歌を知っているのね。」

「うん、パパが教えてくれたの。」

(やっぱり、大人の女性が居ると旅も賑やかで良いものだな。ミウも寂しさが紛れて嬉しそうだし・・・。)


 ミウがいつもより楽しそうに過ごしているのを見て、そんなことを考えていた。

「すみません、凌馬さん。操縦の方をお任せしてしまって。疲れたら交代しますので言ってください。」

 ローレットはそう話しかけてきた。


「大丈夫ですよ。こちらこそ、ミウの相手をしてもらえて本人も嬉しそうで良かったです。男親だけでは、やっぱりミウに寂しい思いをさせて居たようですし。」

 凌馬はそう言って、ローレットに感謝を伝える。


「そんな事無いですよ。ミウちゃん、お父さんのことが大好きだってことは見ていればわかりますもの。」

「ハハ。 だと良いんですけどね。」

 ローレットはそう言って、再びミウと歌を歌ったり景色を眺めたりして旅を満喫しているようだった。


 凌馬は旅の間は、職業をサムライで固定していた。

 二人ともいい人たちだが、自分の秘密は極力隠しておきたかったのと、情報を知る人が少ないほど漏れる危険も減るからだ。


 そんな凌馬の索敵に、複数の気配が引っ掛かった。

「みんな、楽しんでるところをすまないがどうやらお客さんのようだ。」

 凌馬の言葉に臨戦態勢にはいるチェルシアとローレット。


「ローレットはミウちゃんをお願い。私と凌馬さんで敵を撃退するわ!」

「分かったわ。チェルシア、気を付けてね。ミウちゃんは私とここで待っていようね。」

 チェルシアの言葉に、ローレットは了承するとミウを抱えて防御体制を取った。


 凌馬は馬車を止めると、御者席から降りて日本刀を抜き放つ。

「チェルシアさんは、馬車の護衛をお願いします。先陣は私が出ますので。」

 チェルシアが頷いて馬たちの前で陣取ると、凌馬は敵の気配がやって来る方へと歩き出す。


 木々の切れ間から姿を表したのは、醜い顔をした人型の魔物ゴブリンの群れであった。

 ざっと見て二十匹。

 凌馬はやけに多いなと感じながらも、特に気負うこともなく進み出る。


(冒険初日にオーガで、今回はゴブリンか。エンカウントの順番がどう考えても逆だろ。しかし、こいつらまさかミウたち女性陣を狙ってきたんじゃないだろうな(怒))


 先陣をきって一匹のゴブリンが、凌馬目掛けて剣で攻撃を仕掛けてくる。

 凌馬は剣筋を見て躱すと、刀でゴブリンの胴を真っ二つに切断する。


(速い! 流石は凌馬さん、一瞬姿すら見失ったわ。)

 チェルシアは、馬車の護衛をしながら凌馬の戦う姿を観察していた。


「さてと、お前たちが誰に手を出したのかをその身をもって教え込んでやる!」

 凌馬の後ろ姿しか確認できなかったチェルシアは、運が良かった。

 もし、今の凌馬の顔を見ていたら盗賊たちとの戦いの時の表情を、再び見せられていたことだろう。


 その凌馬の嗤う姿を正面から見せられたゴブリンたちは、本来知能が低く相手の力量も測れない存在なのだが、その不吉な雰囲気を感じ取ったのか進軍が止まってしまう。


「今さら後悔しても遅いぞ。たとえ未遂だろうが、ミウに邪な気持ちを向けただけで死罪は確定なんだからな。」

 時すでに遅し。


 凌馬は再び動き出すと、ゴブリンたちが認識できないスピードで次々と頭を刈っていく。

 ゴブリンも抵抗しようと剣を振るが、次の瞬間には凌馬は別の場所に移動した後のため、ゴブリンたちで同士討ちが起きてしまう。


 わずか一分にも満たない時間で、総勢二十匹のゴブリンは屍となり大地に転がっていた。

(いくらゴブリンとはいえ、一人でこのスピードで討伐できるなんて、やっぱり凌馬さんの強さはトップランカーにも匹敵するわ。)


 戦闘を終えた凌馬は、馬車のもとへと戻ってくる。

「結局、私は何もすることがありませんでしたね。せめて少しくらいは役に立ちたかったんですけど・・・。」

 凌馬にそう話かけたチェルシアは、申し訳なさそうにしていた。


「いえ、お二人が後ろにいてくれましたので、気兼ねなく攻撃を仕掛けることができました。いつもは一人ですので、馬車を守りながらなので、もう少し手間がかかってしまうんですよ。」


 凌馬がそう告げると、チェルシアも少しほっとしているようだった。

 凌馬とチェルシアはゴブリンの死体をまとめると、ローレットに魔法で焼却してもらった。


「ミウ、怖くなかったか?」

「ローレットお姉ちゃんが一緒にいてくれたから平気だよ。」

「そうか、良かったな。」

 凌馬は、ミウの頭を撫でてまったりとしていたが、後始末が終わったので再び馬車を走らせる。


 その日は、それ以降の襲撃もなく野営地に馬車を止めると野営の準備を行う。

 馬たちの世話や、寝床の用意をチェルシアとローレットとミウにやってもらっている間に、夕食の仕度をする凌馬。


 今日の夕食はカレーと付け合わせのポテトサラダ、デザートにはフルーツ入りのヨーグルトをチョイスする。

 凌馬はカレーをじっくりと煮込んでいる間に、ポテトサラダ等を用意しているとチェルシアたちがミウを連れてやって来る。


「わあ、すごく良い匂いですね。なんの料理なんですか?」

 ローレットが尋ねてくる。

「パパ、今日はカレーなの?」

 ミウの言葉に頷いて答えると、「やった!」と喜んでいるミウ。


「カレーですか? 凌馬さんは本当に色々と料理の事に詳しいのですね。」

 チェルシアも会話に加わってくる。


 テーブルに料理を並べていき、みんなも席へと着くと夕食をはじめる。

「ん~、少し辛いけど癖になりそうな味ですね。」

「ライスと良く合う料理なんですね。これだと、いくらでも食べられそうで困っちゃいます。」

 チェルシアとローレットがそう感想を述べている間に、ミウの皿のカレーが無くなってしまい「おかわり!」と凌馬に言っていた。


「はい、おかわりは少な目にな。後でデザートも有るから、食べられなくなっちゃうからな。」

 凌馬は、ミウの皿におかわりをよそうとそう付け加えた。

「うん! ありがとうパパ。」

 元気に答えるミウに笑顔を返す凌馬。


「凌馬さん、私もおかわり良いですか?」

「私もお願いします。」

 チェルシアとローレットもカレーのおかわりを要求する。


「もちろん構いませんよ。二人もデザートがあるので、食べ過ぎないようにね。」

 凌馬がおかわりをよそって二人に渡す。


「まずいわ! このままでは体重が・・・。」

「大丈夫よ。明日たくさん動けばきっと・・・。」

 二人は、自分に言い聞かせるようにそう話し合っていた。


 結局その日はデザートまで全て平らげ、二人は明日以降の戦闘では必ず自分も参加して頑張ろうと心に誓っていた。

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