02 運命の出会い編 第十話
凌馬は目が覚めると、徐に自分のステータスを確認する。
如月凌馬
ジョブ
無限の可能性─状態─
○エクストラスキル
・無職からの脱出LV.2
レベルアップにより新たな能力が解放されました。スキル『転職』。一日に一度だけ職業を変えることができる。ただし、前の職業能力は使用できない。
日付が変わると無職に戻ってしまう。
連日あれだけ能力を使い続けていたので、どうやらレベルアップしたようだった。
これまで、一度職業を選ぶと次の日まで変えることができず、どうにもそこがネックに感じていたが、これならばいざという時に戦闘職に変えることができると、ホッと胸を撫で下ろす。
メリーナの手配によって、子どもたちの家も掘っ建て小屋から人がまともに住めるものを用意された。
ここほど居心地は良くはないが、自分たちの家を手に入れた子どもたちは大いに喜んでいた。
これで、思い残すこともなくなった凌馬。
何時ものように食堂で朝食を食べていた凌馬は、不意にメリーナへと話し掛けた。
「メリーナ、そろそろ俺はここから御暇しようと思う。」
行きなりの事にみんなが驚いていた。
「そうですか・・・。出来ればこのままこの国にいてもらえればとも思っていたのですが、凌馬様には凌馬様の都合もありますよね。」
メリーナは、そう言うと納得してくれた。
「お兄ちゃん、何処かにいっちゃうの?」
泣きそうな顔でそう聞いてくるリオに、凌馬もやるせない気持ちになるのだが、リオの頭を撫でながら語りかけた。
「ごめんなリオ。お兄ちゃんにはやらなくちゃいけないことが見つかったんだ。この世界を回って、リオたちのように苦しんでいる人たちを助けて回りたいんだ。今までの俺はどうしようもない奴だったけど、今の俺にできることをやりたいんだ。」
凌馬はリオの目をしっかりと見ながら、そう説明をした。
リオは涙を拭いて凌馬に抱き付く。
「わがまま言ってごめんなさい。僕もう大丈夫だから。お兄ちゃんも頑張ってきてね。必ずまた会いに来てね。」
リオの言葉を聞き、凌馬はリオの頭を撫で続けるとメリーナに告げた。
「メリーナ、リオたちの事を頼む。もし、この国に新たな問題があったならば必ず駆けつけると約束する。」
凌馬の言葉に力強く頷くメリーナ。
「はい、お任せください。凌馬様もどうかお気を付けて。」
そうして、凌馬はこの街から旅立つことになった。
皆の見送りを受ける凌馬は、馬車に乗っていた。
メリーナが今回の功績にと、特別に用意してくれたものだった。そして、旅の資金も受けとることになった凌馬。
「それじゃあ、行ってくる。みんな元気でな!」
『お兄ちゃんいってらっしゃい!』
「凌馬様、お気を付けて。いつでも戻ってきてくれて構いませんので。」
「凌馬君。本当にありがとう。またいつか会おう。」
子どもたち、メリーナ、ハンズにそう言われ、手を振りながら凌馬は馬車を走らせた。
「はは、日本にいたときには人と別れる時も特に何も感じなかったのに。わずか十数日一緒にいただけで、こんなにも悲しい気持ちにさせられるなんてな。」
凌馬は、目からこぼれてきた水を袖口で拭う。
だが決して悪い気分ではなかった凌馬であった。
凌馬は、一路最初にたどり着いた村へと向かっていた。
「ジェーンやミックは元気にしてるかな? 村のみんなも変わりがなければいいが。」
凌馬が村にたどり着く頃には日が暮れていた。
「たっ、大変だー。凌馬様が帰ってきたぞー。」
村に響くその声に、村人たちは全員驚くとともに嬉しそうに村の入り口に集まっていた。
馬車を止め降りた凌馬に、ジェーンとミックが抱き付いて涙を浮かべている。
凌馬は二人を抱き締めると、村長をはじめ村人たちに「ただいま!」と告げた。
「おお、よくぞご無事で戻られました。皆、凌馬様の帰りを首を長くしてお待ちしておりました。」
村長の言葉に、村人たちも歓声を上げていた。
「みんな、心配かけてごめんな。詳しいことはあとで説明するけど、もう領主のことで心配する必要はなくなったよ。」
凌馬の言葉に、皆が喜びを表していた。
「さあ、とにかく中へ。疲れた体を休めてください。」
村長の案内で、村長宅へと向かう凌馬。
そこで、これまであったことを説明すると、驚愕するとともにこれで安心して生活が送れると村人たちは喜んだ。
その日は、村を上げての宴会が催された。皆が口々に前の領主の悪口を言い合って、その脅威から解放された事に安堵していた。
また、村の事はメリーナ第一王女にもお願いしてあると凌馬に言われて、こんな辺境の村に恐れ多いと村長は語っていた。
それから、三日間村に滞在した凌馬は村長に自分の今後について話した。
「それは・・・、寂しくなりますなあ。しかし、凌馬様が決めた道。このダンは応援しとりますじゃ。」
村長に説明をした凌馬は、一番大事な二人にも説明にいく。
「お兄ちゃん!」
「凌馬様!」
二人に泣き付かれて、凌馬も涙ぐみながらも頭を撫でると優しく語りかけた。
リオにも言ったように自分にやりたいことができたこと、いつか必ず二人に会いに来る事を告げると、最後には二人も分かってくれた。
凌馬は、最後に村人たちに感謝の印として贅沢品や子どもたちにお菓子を渡していくと、馬車に乗り込み世界を回る旅に出る。
「お兄ちゃんまたね!」
「凌馬様、お気を付けて。」
『凌馬様、必ずまた帰ってきてくださいねー。』
凌馬はミックやジェーン、村人たちに見送られてこの国から出立するために旅立つ。
「別れは寂しいけれど、見知らぬ場所へ旅をするのはワクワクしてくるな。またこの先も、色々な出会いや別れが待っているのかな。」
凌馬は、日本にいた頃には味わえなかった自由な旅に、期待と不安を感じながらも馬車を走らせていた。
その日の日も暮れ、野宿の用意をする凌馬。
夕食を食べ終えた凌馬は、『無職からの脱出』を使い護身用の武器を用意することにした。
ジョブ
・武器商人
報酬によって様々な武器を用意しよう。ただし、信頼関係がないと重要なものは用意できないぜ。
○危険物召喚
相変わらずの説明を無視すると、『危険物召喚』で使えそうなものを召喚する。
・スリングショット
・SIG SAUER P226
・H&K MP5
現代兵器の召喚はかなりの魔力を消費し、これだけで魔力をかなり持っていかれてしまった。
「銃火器類はいざというときのために隠しておくとして、スリングショットはきちんと使えるように訓練しないとな。」
凌馬は職業に頼らなくても、最低限の戦闘が行えるように備えていった。
幸い、これまでは魔物との遭遇もなかったが、旅をしていけばいずれは避けて通れないものであった。
凌馬は馬車の中に寝床を用意すると、馬車周辺に鳴子の罠を設置して就寝をすることにした。
翌朝、何事もなく目を覚ました凌馬は朝食と馬の食事を用意して、再び馬車を走らせた。
しばらく進んでいくと、先の道で馬車が横転しているのを発見する。
すぐさま、SIG SAUER P226とスリングショットを装備すると周囲を警戒して横転していた馬車へと近付く。
「ぐおおおお。」
その時、森の中から地響きとともに雄叫びが聞こえてきたのだった。