第1話 僕は友達が少ない(切実)
ー私立仏子高校ー
僕がこの高校に通うようになってから
あっという間に一年が過ぎた。
今年の春に僕、石神井陽はこの仏子高校の
2年生になったのだ。
「よっす!陽」
校門で僕にそう言って挨拶をしたのは
稲荷山 隼人
僕の数少ない友だちである。
「おはよう隼人。今日から新学年だね。
クラス分けがどうなってるか気になって
昨日はあまり眠れなかったよ」
「俺もそれは気になるけど……
またあの話をする気か?」
そう言いながら隼人は明らかに嫌そうな
顔をしている。
「あの話って?僕はただ今年こそは
しゅうちゃんと同じクラスになってて
欲しいなという気持ちが抑えきれなくて」
「やっぱりその話じゃないか……
飯能さんとの話はいいから早くクラス表を
見に行こうぜ」
「いいからってなんだよ!あのな
僕としゅうちゃんは小学校の時になあ」
「婚約をしたんだろ?その話は耳にたこが
できるほどに聞かされてるよ」
そう、僕と飯能柊は小学校三年生の時
婚姻届けを書いたのである。
僕はその時の気持ちのまま
こうして高校生になり
早く結婚できる歳になるのを
今か今かと待っているのだが……
「お前の妄想はもうわかったよ。
学年で1、2を争う美少女との
美女と野獣的な、「あいちゃん大勝利!」的な話なんだろ?」
と周囲には信じてもらえていない。あとあいちゃんは
勝利しなさそう。
自己分析だが信じてもらえない理由が二つある。一つ目は
彼女が存外美人になってしまったこと
(幼馴染の僕からすればもともと
超絶美少女だったけど)
「美人で明るく勉強もできる完璧人間」
彼女が世間に与える評価である。
実際に学校生活でも常に彼女は
友だちと一緒におり、一年間で
数多の告白を受けたという。
現在は江戸幕府の将軍の数くらいの
男子が告白し、全員が大政奉還している。
断るときの理由は決まって
「ごめんなさい、今は私は誰とも
付き合えないの」らしい
対する僕は順調に成長し、
今や趣味が寝ることのメガネ野郎である。
昔のことをいくら話しても妄想と
言われてしまう。
そしてもう一つの理由。
小学校三年生の気持ちのまま僕は育った。
しかし、彼女はどうだろうか?
結論から言うと「ノー」である。
小学校三年生の彼女
「結婚式はどこであげよっか?
ハワイとかいいなぁ」
小学校五年生の彼女
「ようちゃんカッコいいからって
浮気とかしちゃだめだよ?」
(涙目上目遣いで)
中学校一年生の彼女
「恥ずかしいから人前で
会話をするのは控えましょう」
中学校三年生の彼女
「私には関係ないけどあなた
高校はどこを目指しているの?
聞いたところで私には何にも
関係ないけど」
高校一年生の彼女
「偶然高校もいっしょね……
まぁ一応挨拶だけしておくわ
……よろしく。
あ、あとあのことを周りに
言うのはやめなさいよ」
とだんだん僕に対して冷たくなっていき
同時に疎遠になっていたのである。
ちなみに彼女の言うあのこととは
もちろん婚姻届けのことであり
隼人が知っているのは中学からの
友だちだからである。
(中学時代にこのことをまわりに言って
ひどくからかわれたことが原因で
僕は彼女に文字通り顔を真っ赤にして怒られた。
高校では律儀に約束を守っているヨ!)
以上の理由から僕の話は妄言だと言われている。
しかし、僕にもプライドというものがある。
「よしわかった!じゃあもし僕としゅうちゃんが
同じクラスだったら証拠もの「婚姻届け」を
だしてもらうようしゅうちゃんに話そう!」
そう、本当なら今すぐここに証拠を突き立て
「この紋所が目に入らぬか!」と隼人を
降伏させたいところだが、生憎それは
彼女がもっているのである。なので
彼女にだしてもらうよう伝えるのだ。
「本当だな?それは楽しみだ。
ならなおのこと早くクラス分けを見に行こうぜ」
ーかくして僕たちは玄関のクラス表の前に立ったのであるー
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