第0話 あの日書いた書類の名前を僕たちはまだ知らない
「ねぇねぇ、ようちゃん!わたし
大きくなったら陽ちゃんのお嫁さんになるの」
これは僕たちが小学校三年生の時の話。
元気一杯に話しているのは僕の幼馴染。
このころは毎日僕たちは一緒にいた。家が近所で
小学校の登校班も一緒、クラスも一緒
遊ぶのも一緒、帰るのも一緒と本当に
仲良く遊んでいた。(はず)
「ぼくもしゅうちゃんと結婚したいな!」
僕は彼女の言葉に素直に答えた。
すると彼女は一枚の紙をカバンから取り出して
こう言った。
「ホント?すっっごくうれしい!
それでね……ママにもこのことを相談したらね
この紙に名前を書いたらいいよって教えてくれたの」
「名前を書くだけでいいの?それなら簡単だ。
しゅうちゃん見ててね!ぼく最近自分の名前を
漢字で書けるようになったんだよ!」
そう言いながら僕は紙に自分の名前、石神井 陽
(しゃくじい よう)と書いた。なぜが
名前を書く欄の上に付箋で「↓ここになまえを
かいてね☆」と書いてあったので迷うことなく
書けた。
「ようちゃんすごーい!でもわたしだって
書けるようになったよ。ママに漢字じゃないと
効果がないからって言われて練習したんだもん」
彼女はそう言うと僕の書いた隣(こちらも
付箋で「↓しゅうちゃんはこっち○」と書かれていた)に
飯能 柊と書いた。
ーーーそう、当時僕たちが書いたのが世間でいう
婚姻届けだということはお互い知りもせずにーーー