チュートリアル・俺、銃、黒仮面
握っている銃を見る。アニメや映画などで見る自動拳銃だ。銃にはそんなに興味ある訳ではないが、握ってみると中々の高揚感がある。
深い黒色で光沢があり、目立った装飾は無く、機能性だけを求め続けたような形だ。
この世界なら装飾しまくっても機能性は変わらないと思うが、それでもこんな形なのはむしろ拘りを感じる。かっこいいと言うよりかは、美しいと言った方が適切だろう。
「お気に召したか?」
おそらく、あいつが直々にこの銃を創ったのだろう。そう思うとなんか悔しい。なので、銃弾で奴の一言にお応えしよう。
「じゃあ、そろそろ第二幕を始めるか。チュートリアルくらい、さっさとクリアするんッおっと!」
奴が喋っている途中で撃っちゃったけど、わざとじゃあない。行動が二秒遅れただけだから。ちゃんとあいつが喋る前に撃とうとしたから。だからこれは、しょうがないよね。(ガッツポーズ)
「なぁに、バカが銃持った結果だ。許せ」
今度はちゃんと両手で構えて撃ったので、大体のコツは掴めたような気がする。引き金を引きっぱなしにするが、一発の発砲に留まり、連続発射はされない。やはりセミオートか。
これでフルオートだったら、銃弾は無限らしいから、ずっと引き金を引いていれば無限に連射できたのに。
「それのままで引き続けても、連射はされないぜ? 銃弾は無限だ。そんなことしたら面白くないだろ? だが....」
奴が銃をこちらに向ける。奴の指に力が入ったと見た瞬間に、勝手に足に力が入り、その場から動く。
だが、鳴った銃声が三発連続だった事に気が付いた時には、耳朶と骨盤の出ている部分に、じわりと痛みが撫でていた。
「一回引いて三連射するように切り替える事なら出来る。....まぁ、それのやり方は自分で探してくれ。俺は一発づつの撃ち合いが好きなんでね。三連射はもうしない」
三連射機能搭載か。なんだっけ。三点バーストとかそんなような呼び方だったけど、まぁそれは今考える事じゃない。
銃を構える。
....だが、三連射モードに切り替えて撃てるなら、そっちを使った方が少しでもこの不利を極めたような状況をマシにできる気がする。
ただでさえ、こっちは二秒遅れる。
さらに勝つ条件が違う。俺は奴の仮面を取る事で、奴は俺を撃ってればいい。撃たれても再挑戦できるが、そうじゃない。あの暗い場所にはもう二度と行きたくない。
俺が勝つ為には、足、両手を撃つ事が手取り早いだろう。足は、動かれないように。手は、撃たれないように。
三連射モードにできれば、当て易さは上がるだろう。だがどうすれば三連射モードに切り替わるのかが分からん。というか....
発砲音が響いて、それを反射でなんとか回避して、ついでに一発撃ち返す。
どうすれば切り替わるのか? なんて考えてる暇はない。考えるんじゃない、感じるんだ。なんて事を言った奴がいるが、感じても何も起きないわ。考えても分からないなら行動しとけコノヤロー。
銃を握った手とは逆の手で、それっぽい物が無いかを手探る。
銃に目を向ける訳にはいかない。奴だけを視界に入れておけばいい。
奴は距離を取るように、後ろへ跳ねていく。追いかけたくなるが、二秒遅れる中で追いかけるのは隙を作る。
だが、行動が二秒遅れる中で動く的に当てるのは困難だ。だがやるしかない。あいつの二秒先を読め。
左手で探り当てた所を抑えながら撃つが、一発しか出ない上に、普通に外れた。
無理ゲーェ。二秒先を読むとかやっぱ無理ゲーェ。あいつもう三十メートルくらい離れてるし。
一応、撃たれるのに警戒をして、謎のステップを刻んでいる俺。だがそれが功を奏したのか、奴からの狙撃を逃れる。うっひょい。謎のステップ続行。
左手が、またそれっぽい所を探り当てた。今度は確信がある。
銃のグリップの後ろ側、握っている右手の親指の付け根より少し下。そにある窪みが押せる。この位置にあるのは、片手で握ってもすぐ三連射モードに切り替えられるようにしてあるのだろう。
握っている右手の親指の付け根を少し下にずらして、そこを右手の上から左手で押して撃つ。
発砲音が三回連続で鳴った。腕に来た衝撃も三回だ。そして、奴の右腕に一発掠めたようだ。
だが、この三連射モード。結構撃ち辛い。切り替えるボタンの位置がしょっぱいのなんの。押し続けなきゃいけない上に、俺の手に合わない位置にある。撃つと親指の付け根が痛い。掠ったのは本当偶然ッと!
『偶然ッと!』の所で撃たれたので、身体が反射的に動いた。謎のステップの意味無い。
だが、奴は左手で銃を持って撃っている。先程、俺が偶然右腕に掠らせたのが効いたようだ。
奴は俺を中心にして周るように走り始めた。二秒遅れながらもなんとか奴を視界に留める事が出来た。そして、奴の銃弾を避ける事も。
視界から外れるように俺の周りを回って撃ったのだろう。だが残念だったな。そうすれば行動は読み易い。二秒先に通過するだろう方向を狙うだけだ。
確実性を高める為、親指の付け根が痛くなるのを我慢して三連射モードにする。
だが、そこで奴は急に動きを変え、俺の視界から外れてしまった。
でも、俺は、そうすると信じてたぜ。
斜め後ろ、四時の方向。右手だけで握って、ろくに構えもせず、目も向けずに撃つ。三連射の衝撃が右肩にまで響く。そして、俺は脇腹を撃ち抜かれた。
奴の方を見る。俺の銃弾は足に当たったようだ。俺の数メートル先で膝を曲げ、座る。
力が入らなくなった右腕をぶら下げて、様々な所に受けた傷に震えながら、奴の元まで詰め寄る。
「面白かったぜ?」
............
たっぷり二秒遅れて返答する。
「俺はもっと、映画みたいな感じでやりたかったんだけどな」
右肩壊した上に傷だらけ。現実ではこんなこと、とてもできそうにない。
「なぁに。お前さんが銃持った結果だろう?」
そう奴が応えた後、仮面を取った。
灰色の背景が、白色に戻る。
『チュートリアル、クリアです』
そんな放送が流れ、傷が癒えていった。だが俺は苦笑いしかできない。
「........なぁ、黒い仮面の下にもう一つ、白い仮面もあるなんて聞いてないぞ」
奴の仮面を、黒い仮面を俺は取った。だが、その下にはゲームマスターの素顔ではなく、黒い仮面とは色が反転した、白色の仮面があるのみだった。
「そりゃ、言ってないからな。ジョーカーは二枚あるもんだ」
この仮面がジョーカーってか?
「チュートリアル、クリアでいいんだよな?」
「ああ。クリアでいい。その黒い仮面を使えば、他の奴の行動....脳からの命令を、二秒遅らせられる。せいぜい有意義に使えよ?」
はーん、なるほど。まだこの世界がどんな所か分からないけども、とりあえず無駄な効果のついた仮面と、銃弾無限の銃を手に入れた訳か。
「カラク・カスハ」
「なんだね?」
「突然だが、ちょっとしたクイズだ。......ゲームの中に、一枚だけだと、その一枚は嫌われる。それは何だ?」
なぜここでクイズ ?そう思ったが、とりあえず解いてみる。
奴の言った事を脳内で再生する。
ゲームの中に一枚..... 嫌われる....
ジョーカーは二枚あるもの.... 一枚だけ....
嫌われる....
「....ババ抜きの、ババ」
おい、まさか、この仮面...
「正解だ。嫌われ者のお前さんに、ぴったりだろ?」