チュートリアル・超エキサイティング
暗闇の世界の中、【you die】の文字に照らされながら考える。
なんだあのチュートリアル。あんな嫌がらせは始めてだわ。空前絶後の嫌がらせだわ。むしろ超エキサイティングな嫌がらせだわ。
普通にやっても仮面を取る事が出来ないのは薄々感じていた。
だが、まさか銃で撃たれるとは思ってなかった。しかも身体が動かなかったし。
....諦めるって、そういう事か。
捕まえる事を諦めるのでは無く....それ以前に、追いかける事を諦めるって事か。
鬼ごっこ? 違うだろ。これは、隠れ鬼だ。
それも『隠れ』の時点で諦めさせようとしてくる、隠れ鬼だ。少し違うかもしれないが、追いかける以前の問題って事は同じだ。
動けなくなったのは、おそらく灰色の空間になった事が原因だろう。不可避じゃん。これじゃあ探す事すら出来ない。
........落ち着け。解がおかしい時は、大体その過程がおかしいからだ。ってどっかの本に書いてあったような気がする。
誤解を直すためには、先入観を捨てて、もう一度解き直すしかない。何か自分で勝手に決めつけてしまっている事がある筈だ。
....そう信じよう。
俺は【you die】と表示された画面をタッチし、【continue】のボタンを押す。
自分の身体が点滅し、やがて光に包まれた。
「よう」
仮面野郎は、何でもないように声をかけてくる。まだ景色は白い。
「二回目だな。何か言いたい事はあるか?例えばそうだな........一回目の感想とか...」
「ん? あー、超エキサイティング」
俺は腰に右手を当てながら、左手で耳を掻く。
「予想の斜め上どころかそのまま急降下した感想だな。他に質問とかはあるか?」
「無いな。一回目に言ったろ?最後の質問だってな」
「そうだったな。あの質問はいい質問だったな」
俺がその言葉に答える前に、白い世界は、灰色に切り替わった。
「では、カラク・カスハ。始めるぞ」
「そうか」
『3』
俺の膝が少し曲がった。
『2』
「ああ」
『1』
....なるほど。
『START』
銃声と、その後に仮面野郎の声が聞こえた。
「超エキサイティング。」
二回目の暗転。
【you die】の文字に照らされる。
ふぅ。まぁ、隠れ鬼で例えるなら、隠れてる奴の物音が聞こえた感じだ。
まず、「超エキサイティング」と答え、両手を動かしたとき、肩幅よりもう少し開こうとした足は、直立のまま動かなかった。
つまり、景色が白い時には足が動かないので、奴の不意をついて仮面を取ろうと動く事は出来ないのだ。
次に、灰色になった時だ。
やはり、灰色の空間で全く動けないという考えは間違っていたようだ。
そして、白い時に動かなかった足が動いた事から、俺が絶対に勝てないようになっている訳では無い事もわかった。
だが....俺の予想が合っていれば、俺はこのチュートリアルの事を、クソチュートリアルと呼ぶ。
そう思いながら、コンテニューをする。
点滅にも慣れたな。
俺は目を閉じた。
目を開ける。白い景色、それと黒仮面の男が視界に入る。
「よう。これで三回目だな」
「ああ。まるで、隠れ鬼で見つけた相手が、機関銃付きの軍用車だった気分だな」
「そうか。気休めに二回目の感想を聞いてやろう」
........言うだけ言ってみるか。
「灰色の空間内は、脳の命令が身体に届くまで、約二秒。......約二秒、俺の行動が遅れるんだ.........」
「.........酷くね?」
............
「....まさかこの時点で、それに気が付くとはな。ますます嫌いになるぜ」
「そうかよ。俺も、まだ軍用車を相手にした方がマシだと思うわ」
「その考えも合っているな。お前さん、ここで撃たれた数は二回だったか?三回だったか?」
撃たれた数?
「二回だな」
俺は普通に答えた。だが....
「そうか。なら....
空間が灰色に切り替わる。
三 回 っ て 事 に し よ う や」
今回の撃たれる分も入れて三回ってか。
『START』
ちょ、カウントダウン無しかよ!?
すでに銃はこちらを捉えている。
「まぁ、二度ある事は三度あるってこった」
.......くっそ。
暗転(三度目)
【you die】の文字は皮肉るように俺を照らす。
ふぅ、酷ェ。
俺は頭を掻いた。
超エキサイティングだわ。
エキサイティングって言葉の意味が、俺の中で変わりつつある。
....まぁ、とりあえず、これがクソチュートリアルだって事は分かった。
クソ要因を簡単にまとめよう。
相手は銃を容赦無く撃ってくる。
俺には勿論、武器なんて無い。
身体能力も、あっちの世界と同じ。相手の身体能力は確認すらできていない。
そして、脳が命令してから自分の身体が動くまで、二秒のタイムラグ。
相手が動く二秒前に、相手の動きを予測して命令を出し始め、相手の動きが予測通りかを確認しながら、それでも二秒後を予測して身体に命令を出し続ける。
予測が外れれば、撃たれる。
以上がクソ要因だ。
俺の人生のように、超ハードモード。
ああーー。これ、勝てるのか?