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カラク・カスハ  作者: kuzu
2/8

チュートリアル・まだ始まったばかり

 VRワールド「∥」の中に入る為には、先行販売されているフルダイブ専用機「(イコール)」が必要となる。

 この企業は「∥」と言い、「=」と言い、よっぽど二本線が好きなのだろう。


 「=」の値段はもちろん高かったが、買えない値段では無かったので買った。


 それが、昨日の事である。

 今日は、あのメールが届いて二日後、つまり「∥」のサービス開始日だ。


 開始時間は昼の十二時。あと一分も無い。


 ニュースでは、早くも五十万人以上の人が「∥」の事前登録を済ませたと言っていた。



 俺は、部屋に置いてある「=」を見る。

 相変わらずカーテンの閉まった部屋の中で、ドーンと置かれたそれは、まるでベット型の日焼けマシンのようだ。そこから出る無数の配線は、すでにパソコンなどに繋いである。



 そういえば運営はあのメール以来、何も言ってこなかったな。「∥」内で何かしてこないか心配だわ。


 まぁ、大丈夫か。


 俺はパソコン画面に表示された時計の数字が十二になった事を確かめてから、「=」の中に入った。

 


 「=」の中で、身体を仰向けで寝るような体制にして、目を閉じた。電子音が聞こえたと思った瞬間、身体の感覚が途切れる。



 ............



『使用者の身体情報と脳内情報をスキャンします...完了。照合します....異常無し』



 機械音声が聞こえた。


 だんだんと、身体の感覚が戻ってきている。


『ソフトデータを確認、インターネットとリンクしました』



 目を開く。


 ただ真っ白なだけの世界に俺だけが立っている。



『アカウント名を記入して下さい』


 目の前に半透明なタッチパネルが出てきた。

 アカウント名か。まぁ、適当に決めるか。


 俺はパネルに、なんとなく思い付いた名前を打ち込む。



 〈カラク・カスハ〉


 俺の姓と名の頭から三文字を取っただけだが、語呂は良いと思う。


 画面右下の[OK]ボタンを押す。


『登録中....完了』


『....メールを確認、これより、アダムに転送します』


 メール....

 ああ、一昨日(おととい)のメールの事か。


 俺の身体がチカチカ光ってる。しかもだんだん早く点滅してっ、とぉぉぉぉー!!?




  .......点滅が治る。先程と同じように、真っ白な世界だ。違うのは、黒色スーツを着て長帽子を被り、顔には仮面を付けた奴が、そこに立っている事だ。


 仮面は全体的に黒色で、ニヤリと笑っている物だ。だが、ヒビを模った白色の線が、目の下に、涙の跡のように引かれている。


 トランプのジョーカーみたいだな。



「よう。お前さんが宣伝サーバーにウイルス送った犯人だな」

 

 おお、喋った。



「否定は?」


「無駄だ」


 あらやだこわい。とりあえず、言い訳をしておこう。


「俺は嫌われ体質でな。俺のパソコンに悪戯される事もあったんだよ」


「ほう?」


「だからその対策ソフトを作ったら、お前らの宣伝も悪戯って判定になったんだよ」



「ふむふむなるほど。嫌われ体質か。最高だな」


 仮面野郎は続ける。


「お前さんはこれから、チュートリアルと言う名の嫌がらせを受けて貰う。お前さんの言い訳も、ご尤もだがな、こっちも仕事なんだ」



 おぉおぉ、面白い事になってるな。まさか運営が初っ端から仕掛けてくるとは。



「理由は?」


「お前さんなら面白そうだと思ったからさ。それと、ウイルスの仕返しって意味もある......まぁ、お前さんのバッドラックを祝ってやるって事さ」



 十分過ぎる理由で何よりですな。


 もう少し質問をしよう。



「ここはどこだ? もう世界の中なのか?」


「まぁ、世界の中だな。正確には、メールで大きい二匹の機械兎の画像があっただろう? その一方、アダムの中さ」


 なるほど。兎の中にある、データ空間的な奴か。まぁどうでもいいけど。



「初期ステータスとか、アバターリメイク的なやつは?」


「あっちの世界で、お前さん達にそんなものがあったなら謝るぜ?」


 無かったが、あったって言えば謝ってくれるらしいな。



「超あったから謝れ」


「それはすまんな。まさか嫌われ体質まで自分でキャラメイクしてるなんてな」


「ああ、どうせ嫌われるからな。自分で自分を嫌うようにキャラメイクって訳ですぜ」


 そして見事に嫌われキャラの完成。



「なるほど面白い。やっぱお前さん、ジョーカーの資格あるぞ?」


「ありがとう、そんな資格いらない」



「そんな事言うなよ。まぁ、別に良いけどな。他に質問はあるか?」



「チュートリアルの内容は?」


「ああ、鬼ごっこみたいなものさ。俺の仮面を取れば、お前さんの勝ちだ」


「俺が負ける場合は?」


「そりゃ、お前さんが諦めた時だな」


 諦めた時....か。勝てる自信ないわ。だって絶対、普通にやっても捕まえられないだろ。



「俺が負けたらどうなる?」


「さあな。お前さんが、これをやる為にかけた(カネ)が無駄になったりするんじゃないのか?」


 うわぁーまじか。



「それと....まぁ、他にも色々と無駄になるな」


 怖いわ。



「俺が勝ったら?」


「金が無駄にならないな」



 嫌がらせにも程があるだろ。



「それと、この仮面が手に入る」


 なるほど。その挑発的な仮面を俺が付ければ、嫌われ度が上がりそうだ。



「....質問は終わりか?」


 そうだな。なら....



「最後の質問だ」



 勝手に俺の口角も吊り上がる。



「 俺 の 事 は 嫌 い か ? 」


 ............



「 大 嫌 い だ な  」




 ただ真っ白な世界が、灰色に染めらる。

 したがって、灰色の世界、灰色の景色となった。



「カラク・カスハ。これがお前さんのチュートリアルだ。始めるぞ」


 灰色の中でも俺の視界に写る男は、そんな事など何事でも無いように喋る。



 俺と仮面野郎が立っている位置の、丁度中央に、パネルが出てきた。



『3』


 パネルには、音声と共に、数字が表示されている。


『2』


 そして、そこに表示された数字は、音声と共に下がっていく。


『1』


 よし。やってやろう。仮面を取れば良いんだな?



『START』



 その音声と同時に、仮面野郎は、ポケットから何かを出した。


 ........銃じゃん。



 やばい。銃口はもちろん、こちらを向いている。


 俺は身体に必死で動くように命令するが、身体は、反応しなかった。


 体が、動かない。


 そう思っている間に、銃声が響く。



「諦めるなよ?」


 視界は暗くなった。痛覚も痛みを感じる前に途切れる。



「チュートリアルは、まだ始まったばかりだ?」



 その声が聞こえたのを最後に、全ての感覚が途切れてゆく....




 目が覚めると、そこは灰色より、暗い、黒い世界。

 【you die】の文字だけが、宙に浮いた半透明なパネルの中で主張する。


 ............



 ふぅ。これは酷い。

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