どうしてこうなった。
僕には生まれながらにして記憶があった。前世の記憶が。
いわゆる転生と言う奴だ。
それを理解したとき、僕は喜んだ。
何せ前世はオタク、とは言わないものの漫画や小説が大好きで、転生とかそういうものをテーマにしたお話を色々読んでいたし、憧れていた。
それはもう、狂喜乱舞ってくらいに喜んでいたと思うよ、当時は。まぁ赤ん坊だったから、おぎゃあおぎゃあと泣いているだけだったんだけど。
とはいえ、転生したのは残念なことに現代の日本だった。僕が生まれ育ったのと時系列はそれほど変化がないし、環境もほとんど変わらなかったことは少々残念である。どうせなら魔法とかあってほしかった。
まぁ、それでも転生の恩恵は大きい。どうやらこの体は元々ハイスペックだったらしく、なんでも覚えることができたし、体の性能も高かった。
ずるいよね、基礎スペックが高いって。ここに転生での知識が加わるともう手が付けられない。
が、一つだけ不満がある。
見た目だ。
勿論ハイスペックな体だけあって、不細工ではない。むしろ整っているだろう。
じゃあ何が不満なのかというと、すごく可愛いのだ。
どれくらい可愛いかというと、鏡を見て思わずときめき、ロリに目覚めたのかと悶絶してしまうくらいに可愛いのだ。
男なのに。
まだ幼児なんだからいいじゃない、と思うだろう。
ところがそうでもないんだよね。
まず僕の可愛さに魅了された両親は積極的に女装させ始めたんだ。スカートは勿論、ニーソとかメイド服まで用意する凝りっぷりでね。それがまた似合うから困るんだ。
似合うから、なんて調子に乗って髪を切ることを禁止されたから、さらりとしたさわり心地の良い黒髪は腰まで伸びております。
ここまでやられるともう完全に女の子。両親はスカートしか買ってくれないし、そこそこに身長が伸びて小さいころの服が着れなくなるころには、もうズボンと言うものがなくなっていました。
――ええ、小学校にもスカートで行きましたとも。
正直、虐められると思った。男がスカート穿いて学校行くんだもん、僕の前世の小学生たちなら確実に虐めていただろう。多分、僕も含めて。
そんなことはなかった。
むしろモテるのだ、男に。異常に。
前世が小学生のころ、こんなに発情していたか? と思うくらいに積極的で、男でもいいから付き合って! とか言われるくらいだった。
流石にありえないだろう。ガキンチョ達が頬を染めて迫ってくるんだぜ? ちょっと、正直怖かった。
それでも普通に接してやると普通に遊べるし、なかなか楽しかったと思う。時々、変態っぽい行動をとるのがアレだったが、まぁそれは若気の至りとして考えていたと言うか。
焦りを覚えたのは、小学校五年生の頃だ。
その頃になってくると、成長の差が顕著になってくる。
僕は背の順で一番前にならばされるくらいに背が小さかった。勿論体重も軽くて、鏡に映る僕の姿は、理想のロリっ子って感じだったし。
このままじゃ不味い。
今までは大人になるにつれて大きくなるだろうし、顔も男っぽくなるだろう、なんて思っていたけどさ。
流石に周りの男の子たちが変声期に入ると、流石に焦ってくる。身長も、あんまり伸びなくなってきていたし。
このままじゃ、本当に男の娘になってしまう。
焦った僕は体を鍛えることにした。身長や顔が男っぽくなくても、柔らかい体や花の香りがするとか言う体臭、女っぽい体の丸みがなくなれば男に見えると思ったから。
転生の恩恵なのか知らないが、僕の体は鍛えれば鍛えるほど強くなった。
握力はリンゴを潰せるくらいになったし、50メートル走だって6秒台に突入したさ。
しなやかで、柔らかな体の見た目は高校生になっても変わらなかったけれども。
ああ、流石に中学生の時から制服を着ているから、制服はズボンになったよ。
両親は不満そうだったけど、ズボンを着てもほとんど変わらない僕の姿に満足したのか、ズボンもいいわねとか言って色々買ってきてくれるようになったし。
お陰で今では私服にズボンがあります。
着ても、女の子にしか見えないけど。
仕方ないよね。僕も高校生になってあることに気付いたから、諦めたよ。
この世界は、エロゲーの世界なんだ。
それに気づいたのは、入学初日。同じクラスにいた男の子を見て、僕はすべてを思い出した。
彼の名は秋山 鳴海。この“オーダースクール~何もかもを貴方に~”の主人公だ。
優しくて、頭がよくて、スポーツもできる秋山少年と複数のヒロインがいる割と普通なエロゲーで、割と評価を得ていたんだよね。
僕も、プレイしたことがある。エロゲーだけど、声優が好きだったから買ったんだよね。
ああ、僕の名前の時点で、男の娘で浦島 晶という名前の時点で気づくべきだったんだよ。
やばい、やばいぞ。
僕は攻略キャラクターだ。
幼いころから、誰からも男として見られず、劣等感を抱いていた浦島 晶をただ一人だけ男として見て、普通に友達になったのが秋山 鳴海と言う人物だ。
そんな人柄に段々と引かれ、好きになっていく。
でも僕は男だから。そう言って、ヒロインたちに囲まれる主人公から離れていき、自分の思いを閉じ込めてしまうのがこの僕だ。
最終的に僕は主人公に恨みを持った不良どもに攫われ、助けられた後に主人公に対する思いが爆発。告白してしまう。
僕は男の子だけど、それでも君が好きなんだ! と。
そのいじらしさから、このゲームの中でも特に評価を得たのがこの僕のルートだったと思う。
――冗談じゃない。
僕は女の子が好きだ。男の子相手なんて、ごめんだよ。
そりゃ、この体じゃ女の子たちも男として見てくれないけどさ。女の子同士の会話になっちゃって、男として意識なんてしてくれないけどさ。
それでも男とか無理だから。女の子じゃないと無理だから。
ま、まぁそれは主人公も同じだし、大丈夫だろう、なんて思っていた。原作の主人公も告白されたときは、相当悩んでいたようだから。
こちらから告白しなきゃ、大丈夫。
そう、そのはずだったのに。
「あっきらきゅーん! お茶しよう? ね? お茶! 俺が奢るからさ! 昨日いいお店見つけたんだよ、喫茶店サン・シェードって言ってさ。とっても雰囲気が良くてケーキの美味しい店なんだ。コーヒーもすごくおいしいんだよ。あきらきゅん、ケーキもコーヒーも好きだったよね。なんだったらオムライスも奢っちゃう! そうしてあわよくばベッドイ――いやいや、今日俺んち誰もいないからさ、一緒にゲームして遊ぼうぜ。そして罰ゲームで脱が……んん、色々と遊べるからさ。なっ? いいだろう!?」
どうしてこうなった。
ちょっと勢いで書いてみた作品。割と後悔している。
ちなみに原作主人公の秋山君も転生者(腐の人)って設定。だからあきらきゅんを選んだ模様。
かなり肉食系の人だから、草食系のあきらきゅんは逃げ切れないかもしれないね。どんまい。