悪魔、お喋りと出会う
お久しぶりです。
騎士に案内してもらってようやく部屋についた。長い道のりだった。
礼を言って、部屋に入ろうとするが慌てて騎士に止められる。早く休みたいのに……。要件を早く言ってくれないだろうか。
「なにかしら?」
「は、はい! 魔王様よりお言葉を預かっているのですが……」
魔王から? さっき会ったばかりなのに一体何のようだろう。騎士に先を促す。
「えー『メルリア嬢、あなたに侍女をつけた。その侍女、技術は一流なのだが少し……変わっているのだ。別に本人はふざけている訳ではないので多目に見てくれると嬉しい』……とのことです」
わざわざ私に変わっている侍女をつける必要があったのか。いつもなら文句の1つでも言う所だが、もう怒るのもバカらしく思えてきた。この国に来てからこんなことばっかりだ。
騎士には適当に返事をして、部屋の扉を開けた。
「初めましてメルリア様! 私はスレニア・モンドと申します。気軽にレニーとお呼びください。ところで、クッキーいかがですか? とても美味しいクッキーなんですよ! あ、それとももうお休みになられますか? そうですよね。今日いらっしゃったばかりですものね。では、疲れが取れるようにハーブティーを……あ、でもまだお昼過ぎでしたね」
印象的なくりくりとした大きな焦げ茶色の瞳にふわふわとした肩までの黒髪。2つが相俟ってとても可愛らしい。
でも、これはいただけない。だって喋り過ぎでしょ、これは。
入った瞬間に浴びせられる言葉の嵐。私は全く話についていけてない。もはやただの独り言だ。
「ちょっと口を閉じてくれないかしら。私、疲れてるの」
少し変わっているというレベルでは絶対ない。侍女がお喋りなんて致命的な弱点だ。お城で働いていることが不思議でしょうがない。
……もしや魔王の嫌がらせ? 大いにあり得る。あのふざけた野郎なら面白そうだったからついやっちゃったーとか言いそうだ。一度会っただけだけど私には分かる。アレはそういう人種だ。
そうと分かったなら厳しく対応しなければ。
「はっ! 申し訳ありません。また私の悪い癖が……いつもいつもこの癖の所為で担当をすぐ外されてしまうんです。ですから、今回は絶対に外されるような失態はしないと注意していたのに……。きっと侍女長様にもまたこっぴどく叱られて担当も外されてしまうんだわ」
この侍女は私の言ったことを聞いてなかったのだろうか。うるさいから黙れと言ったのにまだペラペラペラペラと。
気づかずにやっているのなら相当たちが悪い。
「あなた私の話をちゃんと聞いてたの? 静かにしなさいって言ったのよ」
「申し訳ありません。癖なんです」
侍女はトボトボと部屋を出て行った。これで良し。
ああ、疲れた。やっと一息つけそうだ。
私は部屋の椅子に腰掛け、これからのことに思いを馳せる。
この国の王、魔王セオドア・ バミューズ。評判の悪い私が息子に嫁ぎに来たのにも関わらず、怒るどころか面白がっている。王としてどうなのだろう。しかも何を考えてるか分からないときている。これからどういう感じで接していけばいいのだろうか。
まだ結婚相手である次期魔王様にも会ってないのにこの疲れよう、先が思いやられる。
悶々としているとノックする音が聞こえる一体誰だろう。
「あのメルリア様、侍女のスレニアです。入ってもよろしいですか?」
さっき出て行ったばっかりなのに何の用だろう。急を要することの可能性もあるので入室を許可した。
「あの、お疲れのようだったので紅茶をお持ちしたのですが……」
「あら、ありがとう」
お喋りなだけかと思ったら、気の利いたところもあるようだ。
少し見直しながらカップに口をつけ、紅茶を飲んだ。
…………お、美味しい。今まで飲んだ紅茶の中で一番かもしれない。
「また担当を外されてしまうと思うので言っておきます。私、メルリア様とお話しが出来て良かったです」
「ねえ、レニーこの紅茶あなたが淹れたの?」
これとっても重要だ。
「はい。私が淹れました。もしかしておいしくありませんでしたか? 一応、料理関連は全て得意なのですけど」
「お菓子とかも作れるの?」
「はい。作れますけど……それがどうかしましたか?」
私は考えた。紅茶が美味しくてお菓子も作れる侍女……決断するのにそう時間はかからなかった。
「私の名前はメルリア・フライローズ。レニーこれからもよろしくお願いするわ」
「…………ええっ! こっこれからもメルリア様にお仕えしてもいいのですか?」
「ええ」
別に美味しいものが何時でも食べれるからとかいう理由で許可をしたのでは断じてない。
ここ重要。
このあとレニーのお喋りが始まったのはまた別の話。