魔王、焦る
俺はやらなくてはならない書類の山に囲まれて悩んでいた。
「はぁ。俺はどうすればいいんだ……」
きっと、俺みたいな冴えない奴じゃアルベル王国のご令嬢もがっかりだろう。
「エンジ様が仕事をサボるのがいけないんです。さっさとやってください」
側近のヒルズは無表情にそう言い放った。
ヒルズは珍しい真っ白な髪にきりりとしたアイスブルーの瞳の美丈夫だ。
こういう時はとても羨ましい。
「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてさ、ご令嬢と上手くやれるかってことなんだ」
政略結婚だし仲良くする必要はないのかもしれないけど良いに越したことはないのだから。
「知りません」
そう言うだろうと思ったけど、友人の一大事なのだからもう少し考えてくれても良い気がする。
ヒルズは俺の項垂れた姿をちらりと見ると大きなため息をついた。
「上手くやれるかは知りませんが、相手のご令嬢について少し調べてきました」
「本当か!」
これで趣味とかが分かれば話を合わせることができるかもしれない。
「では、報告させて頂きます。相手のご令嬢のお名前はメルリア様。フライローズ侯爵家のご出身です」
これは父からも聞いていたので驚くところはない。ヒルズに先を急がせる。
「金髪に翡翠色の瞳をした17歳」
初めて聞いた情報なので心にメモする。俺より六歳年下か。
うーん。話が合うだろうか。
「……社交界ではとても有名で『悪魔令嬢』と呼ばれている」
…………は?
「夜会に出席する度に何か一騒動起こし、いつか殴り合いになるのではないか、と噂されています」
へ?
「総合して考えますと、相当な性悪令嬢かと思われます」
「ヒルズ、その話の信憑性は?」
「直接会った訳ではないので性格のことは何とも言えませんが、そういうことをしたのは事実です」
「…………普通のご令嬢とも仲良く出来ないのに…………」
魔国第一王子エンジ・バミューズ。
ご令嬢との結婚で死なないか不安。主に精神的に。
「エンジ様、この書類全部今日提出ですよ」
本当に死ぬかもしれない……。