騎士の話
むかしむかし、あるところに青いマントを羽織った1人の騎士がいました。
青い騎士は勇敢にもたった一人で戦地へ赴き、多くの敵から祖国を守りました。
しかしある時です。
突然騎士は、国のみんなにこう言いました。
「もうこの国は安全だろう。だから僕はこの国を出て旅に出ようと思う」
国民はそれはそれは驚きましたが、勇敢な騎士の決意は揺るぎません。
等々国民は騎士を見送ることにしました。
騎士は国王から旅の為の資金や道具をたんまりともらい、馬車を率いて国から旅立っていきました。
そして一週間後。
騎士は道中で旅人と出会いました。
腰に大口径の拳銃を吊った青年と、真っ赤なダッフルコートを着た少女です。
丁度日が落ちるので、三人は旅の話をしながら一夜を過ごすことにしました。
若い二人の旅人はとても愛想がよく、青年はこれも縁だと言って、遠くの国の珍しいお酒をふるまってくれました。
気分が良くなった騎士はこれから自分の国へ二人が向かうと聴き、それはいけないと呼び止めます。
「なぜです? 安全な国なんでしょう?」旅人は尋ねます。
すると騎士は神妙な顔で言いました。
「いいや、あの国はね。もうすぐなくなるんだ」
どういうことかと旅人は聞きました。
騎士は他言無用の約束で、事の真相を語り始めました。
「まず先に言っておこう。俺はあの国を守った勇敢な騎士なんかじゃない。まったく逆なんだ。
あの戦いで俺は敵国と取引をした。
多額の報酬をもらう代わりに、あの国の経済状態から城の攻め方。
内部の構造、資金などすべて伝えたんだ」
つまり騎士は自国の情報を渡す代わりに、敵国に貴族として亡命するつもりだったのです。
「笑える話じゃないか。俺はあの国では立派な騎士で、次の国ではもっとも貢献した貴族ってわけだ。
金も両国から腐るほど貰った。笑いが止まらないよ!」
それを聞いた旅人はそうですかと一言だけつぶやきました。
それきり面白い話は特になく、すっかり酔った騎士は寝ることにしました。
次の日、明朝と共に旅人と騎士は別れました。
騎士の馬車が見えなくなると、旅人の少女が青年につぶやきました。
「あの人、可哀想な人ね・・・」
「あぁ。幸せの中に浸かりすぎたんだろうさ」
青年は目を細めて言いました。
「だって―――もう向こうの国はないんだからね」
騎士が行こうとしている国は、丁度一週間前に他国によって崩落していたのです。
この地域一体を統一しようとしている彼らは、きっと騎士のいた故郷も攻入るでしょう。
どちらにしろ、あの騎士を向かい入れてくれる国は、なくなったに等しいということです。
「彼は備えていた。でも、備えるだけで彼は満足してしまった。ただそれだけのことだろうさ」
青年は苦笑しながら騎士の去った道を眺めた。
その後、青いマントを背負った騎士の話は、どこにも聞かない。




