思考と妄想に順応
数秒の沈黙を経て、木崎が納得した様に息を吐く。そして、銃声が止み、奇声の主が机からそっと顔を覗かせた。
「いひゃあ」
不快感と共に咄嗟に向けられた銃を弾こうとした。間に合わない。背筋が凍てつき、脚を力ませ一秒でも早くその銃口へ手を伸ばす。
確実に、間に合わなかった。
思考を停止している筈なのに微妙に緩み始める涙腺。何を悟っているのかと思考より行動を優先する。
ドンッ!それは、突然だった。耳元で鳴り響いた“それ”に鼓膜が受信を放棄した携帯電話の様に役割の半分を破棄する。
それでも伸ばした手は止まらずに同級生の手首へ突撃した。その手から離れた銃が地に着くより先に前足を踏ん張り上半身を捻りながら同級生を殴り付ける。
安否の確認を二の次にして真後ろに放り出された同級生の両腕を強く握りしめ、抑え込む。
「大丈夫かっ!?」
心臓がやけに騒がしく内部から鼓動を伝えてくる。埃に水分を吸いとられでもしたのか気管も呼吸の度に冷えて痛んだ。
今も力んだ手の下には同級生が仰向けになり倒れている。罪悪感も相まって出来る限り目線は合わせないでおこう。微妙だけど。
「ったく...やり過ぎだぞ」
木崎が返す。
「さっ流石、幸多だよ!相変わらずの見境なし!うん!」
九条さんが慰めついでに明るく振る舞ってくれる。微妙だな...。
しかし、岩崎が顔を出さない。
「あの、そろそろ力を緩めても良いと思いますよ...」
「っひ!」
俺の隣に知らずと居た岩崎が唐突に声を掛けてくる。
「え、全員無事...?」
そして、安堵する。頭が、呼吸の付き添いに沈静化していくのが分かった。その様子を見計らってか気分が落ち着いたと同時に木崎が口を開く。
「正当防衛は成立するが、過剰防衛になったらどうするんだ。何でもいいが『そいつ』死んでいるぞ」
何を言って、そんな言葉を吐きながら同時に視線が動く。
床から血が滲み出ている様だった。同級生の胸、人体構造にはあまり興味のないお年頃だったため、微妙だけど。恐らく、心臓に数センチの穴が空いていた。
あの耳元で鳴り響いた銃声は木崎の“モノ”で同級生の“モノ”では無かったのだ。
皆が無事で何よりだね!と九条さんが言葉を発したのを気に俺達は現在地であるこの教室を緊迫感満載で後にした。




