肉弾戦
室内に佇み、教室を憩い場としてそうな木製の器物が女性の雄叫びに準じて共振する。迷惑を被るその発狂に加算して椅子が木崎に放り投げられた。
有無を解さないその行いに椅子が悲鳴を上げる。ガタンと女性に払い除けられただけで心理描写に信憑性はない。でも、微妙に哀愁を漂わせていたな。
女性が払い除けた椅子は地に落ちる事を促進されて砕け散る。心の脆さが露にされ哀れみが加速する。
馳せる女性との距離が怠慢に浸ることはない。一気に詰め寄られ木崎は机が相対する間に潜り込んでいた。
俺もと思い右足に瞬発的な力みで地を蹴りあげる。後悔した。
先程より怒りの跳躍が著しく躍動のありのままを駆けることに費やした様だ。
「あ゛っあ゛あ゛ッぁぁぁぁっ!」
裁縫鋏と友人関係を築く気は更々無かった。だが、間に合わない。押し出されたそれは真っ直ぐ距離を詰める。
背筋が反り返り、条件反射を体験させてくれた。間に合いそうにない。
力んだ全身が左に旋回しそうになって初めて、裁縫鋏が右肩に到達する。
「のおぅらッ!」
肉を擦り抉ったそれと同時に脊椎から流れ出る躍動の為の活力を強制的に摂取させられた。
狭まる視野に移る前髪と頭頂部、流れ出た頭髪に俺は体を捻らせて拳を激突させる。
空と毛髪の滝を掻き分けていく拳が女性の頭部を捉えなかった事を悟らせた。
前髪を一直線に空振る最中に感じた腕の感触はそれといって需要となるモノは得られなかった。意外に艶のある感触であった為、微妙に留まってしまう。
「う゛あ゛あ゛ッ!」
奇声を上げて一振り刃が鼻先を馳せる。
予期できた事象に身を後ろにそらせるも片足が机に絡まり尻と床が久方ぶりの対面を果たした。
本当に泣きたい事態に尻餅に対しての微妙ながらの現実逃避をしてみた。あはは、と自嘲気味に笑ってみてしまったりもする。
見上げた空に遮る天井はない。前髪が垂れ下がっていた。鬱陶しげに払い除けてやろうとしても右肩上がりの腕が振り下ろされそうになっているので動けない。
腰辺りから込み上げる焦燥感が頭を熱くさせ回避の判断を募らせる。
「幸多ッ!」
木崎が椅子を振り上げるのを視界に入れたのも束の間、女性に後ろ足で蹴り飛ばされていた。
刹那的な出来事に反応出来ず、ただただ限界値の回避を極めようと試みる。
刃が突き出された。
「花崎君ッ!」
岩崎の声と共に、甲高い重低音が室内に鳴り響く。




