意外性と相性
机の質量に腕が重力に引っ張られ、力ませて抗ってみると空気との摩擦で上腕がピリピリと痛んだ。だが、そんな刹那的な痛覚に意識を傾けている場合ではない。
机は俺との関係を維持するべくその身を呈して女性へとガチンコを繰り広げてくれた。
「……木崎君、その頬」
「ああ、これが原因だろ。だが正当防衛だ。ギリギリの所で俺が止める。そして、アイツが危機的な状況に陥ってもだ」
脇腹へと接触兼激突したそれは女性の呻きと共に罪悪感が俺に向けて濁流の如く押し寄せてくる。微妙な解釈だけど。
先程の蹴りも相まってなのだろう。女性は襲う痛みに反比例させるように裁縫鋏を内側から凪ぎ払ってきた。
脊椎が反射的に仰け反れと意思なく行動する。それに対応しきれなかった俺はたじろぐ。微妙なものだけど。
伸びた腕から手へしならせる様に振り上げられた刃は無関係な空気を引き裂き、切り抜けていった。
背筋から滲み出る焦燥感は背中全面に浸透し、骨と筋肉がそれに感化される。行動の原点へと踏み込み、その奔走してくる足を挫いたのだ。
要するに女性の手首を真剣に握り締め、その行く手を阻んだ。肌との接触にはあまりにも暖の少ない体温に半ば我に返りそうになり、意識を散漫に形を崩しそうになった。
「……ッ!」
だが、歯止めとした俺の腕の力ではその奔走は短期間の休養に入っただけで留まる事を知らなかった。
短時間なら頑丈な岩に組み付いて入られるぜ、と微妙なモノではあるものの全力には違いない。自負を微妙で淀ませて謙虚さを醸し出してみる。
現実からの逃避行は紡げる糸を切らし、玉結びまで行き届かなかった。裁縫鋏は行く手を阻む俺の腕ごと押し込み、猪突猛進してくる。
「……」
同時に肩を風が過る。
その伸長した頭髪が如何に保身に繋がるのか垣間見せる事なく、視界の傍らに木崎が映る。
無言の暴力は木崎の性格上仕方のないもの。裁縫鋏が向かってきたのと同時に女性は鈍い音色を響かせ、倒された。
厚く壁を作った頭髪を意図も容易く打ち抜き、木崎が女性を殴り飛ばしたのだ。凄みは微妙という感想付きで俺は木崎を褒め称えておく。
それに気が付いた瞬間、俺はスッと血の気が戻ってくる様な錯覚に囚われた。
隣人さんに立場を変更した木崎が相も変わらずの口調で言葉を流してくる。
「二ヶ月ぶりか、お前は沸点が無いんだ。気を付けろよ」




