静寂の鋭気
血流が体内で忙しく流動しているのにさりげなく冷静さを順応させる。潤滑して血管の内壁にそれらが付着しないかというと微妙な代物だが、覚悟は固まった。
木崎に向けて奔走し、白のワンピースに風を付随させる奇々怪々な女性の脇腹に俺の足が激突していた。
確かに伝わる肉に衝撃を与えた不快感が武器の代用品として扱った両足全体が包む。女性は正面衝突したそれに驚きの呻きを上げた。
縦横に陳列する机と椅子の狭間に体勢を崩す事を強制され転倒した。俺が行動した結果なので『させた』と言い換えた方が良いのかは微妙で濁しておく。
「幸多、取り敢えず、武器だ。それすら奪えば後はどうでもいい」
体内の栄養の一部として冷静さを馴染ませているので今は出来る限り話したくない。誰とも。独りを望む。
切り替え。俺が作り上げた脳内スイッチはこれの性能を底上げの為に扱っている。友人以外と話すとき、大人への対応、見ず知らずの最寄りの他人への配慮、友人を傷つけられたとき。
言わば、俺は切り替えが早いのだ。面接では長所に出来そうな言葉の羅列でも俺にとっては短所になる。
切り替えが早いということは“興味が無ければ無関心、無感動でいられる”ということなのだ。
数秒の全力は二ヶ月の休養のせいか心臓が驚かすんじゃねっ、と罵倒に唾を到来させるかの様に脈打っていた。
「ハァ……ハァ……」
興味の無い事には徹底して無関心でいられる。惹かれたのは柔道部で出会った命を賭けれる価値のある友人達とアニメだけだ。
「……ヴー……ッ!」
寝床に就き、直ぐに寝起きと称す女性はテスト前の学生の様だった。親に勉強しろと促されるまま叩き起こされ、気分を害しながらの起床に呻き声が効果音として流れる。
目に映るのは女性だけ、頭に血は上ってはいないものの温度が多いに損なわれている気がする。微妙な自信がさらに興醒めへと誘引し、俺は体勢を低くして身構えた。
女性の手が苛立ちのあまりに近場の机を叩いた。衝撃音が短絡的に室内にこだますると同時に俺は隣人の脚を握り締める。
机と椅子が仲が良いと思うなよ。この二つはお互いを見下し合って出来ている唯一の理想の対立を醸している。
だが、活用や役割は同じだとも言える。
女性が呻き声を重複し活用しながら悠長に立ち上がるのを垣間見た瞬間だった。
俺は有無を返す数秒を与えず力量を加算した机という質量を女性へと投げ放った。




