冷笑
友人以外には居なかった筈の五人目が俺の眼前、本当の目と鼻の先に佇んでいた。不意に表情を覆っていた女性の前髪が鼻先に触れた。
「ぎ、ぎゃあああぁぁぁっ!」
急激に底上げする恐怖心が喉元を突っ切り、叫び声となり吐き出された。咄嗟に退くという行いに対して脚が上手く活動せずに絡まる。
「えっ」
バランスを崩した事をキッカケに尻と床が内密な関係を改築した。溢れる情欲に耐えきれず衝突してしまったのかもしれない。微妙だなぁ。
しかし、そんな悠長な事は言ってはいられない状況なのだと数秒の黙考の末感づけた。優等生か劣等生かは微妙。
とにかく、俺は尻餅を付いた状態から何としてもその粘りに付着した尻を持ち上げないといけない。
背筋と腹を右往左往する泥水に触れた時の様な不快感、恐怖心とも言い換えられるそれが微妙に胸を焼く。
頭にある情報が短絡的にこのトラウマとなりそうな印象深い出来事で隅に追いやられていた。
白のワンピース姿の長身の女性はゆらゆらと悠然と揺らめいている。黒髪は手入れされていないように痛みに苛められいた。
ただ伸ばしただけのその頭髪は留める事をしなかったのか前髪は表情を隠すだけでなく胸部にまで差し掛かっていた。
両腕に負担を掛けながら体の支えとし、俺は背後から目線を突き付けてくる友人へと視線を流す。
「お、おい、な、なんじゃこりゃぁっ!」
顔が熱膨張している様に頭部に違和感を覚えている最中に上擦る声調で語りかける。
木崎が常々崩さないその表情で俺と目線を合わせる。すると、逸らされた。
「おいっこらっ、木崎っ!おま、こら、誰だよっこれっ!」
「お前の彼女」
「年齢の数が彼女居ない歴じゃ、こらぁっ!」
焦燥感を煽られながら俺は木崎へと救済を求める。
「馬鹿か、直ぐに理解しろ。そこから動けばいい」
「はは……だよねぇ」
未だに行動しない女性に対して威嚇を行うのはどうかと思ったので。というよりも既に俺が畏縮してしまっているのだけど。
笑顔の創造に切磋琢磨しながら両手のひらを後ろに滑らせ、両足を前に蹴り進行してみる。
「何だ、あれ? 幽霊じゃないのか?」
不安要素を木崎が口に出し、俺の肝と鼓膜を冷やした瞬間、女性が凄まじい勢いで片腕を引き突き出してきた。
手には月光に煌めいた裁縫のハサミが付随している。
「幸多ッ!」
木崎が叫ぶ。




