緩和な会話
ここで悄気ていても仕方がない事なので俺は再び人数を省みた。陽気に笑う九条さんに、額に指を突き立てて焦燥を露に汗を浮かべた木崎。そして、岩崎だ。
(ん?)
疑問符を脳裏の片隅に置き、俺は頭を起こして黙考した。そして、数える。
俺の右に佇んでいるのが九条さん。左で「死ね、校長」と呟いたのが木崎。その中心にいるのが俺で、正面に立つのが岩崎だ。
「ぎ、きゃああああぁぁぁっ!ちょ、おま、岩崎っ、いつの間に居たんだよっ!」
「いや、先程から見守っていたんですがいつ割り込もうかと悩んでしまって。すいません……」
奥手に一線を引いた調子で腰を引いて話す岩崎は二人の表情を窺いながら俺を見詰めた。
「謝るなよ、微妙な気持ちになる」
最近ではありがちな対応で俺の日常となった会話。岩崎優矢は途中入部の柔道部員だった。
陰険な繋がりで木崎同様に俺の希少的な友達である。
「そう言えばあの群れの中で手を上げたのお前だな、岩崎?」
木崎が突拍子もなく尋ねる。九条さんも岩崎には気が付いていなかった様で呆然としていた。
確かにそうだ、と俺も真剣に岩崎の言葉を待った。すると、目線が少し下に流れ、床を見ながら岩崎は言葉を発する。
「はい、あんな状態では誰かが手を上げないと他がどうであれ木崎君や花崎君が巻き添えを食らうと思って……でも、僕が上げたら」
「そうか、ならいい。おい、禍多、お前の視野は狭いんだ。一々、ぎゃあぎゃあ喚くな、騒々しい」
そう毛嫌いするように木崎は無機質に言葉の暴力をやり遂げる。いや、場の空気を緩和させようとしたのかもしれない。微妙だ。
「んなわけあるかっ! お前いまアレだろっ、アニメ見逃して完全にイライラしてんだろっ! だからって俺に当たるな、トゲトゲ」
「俺が刺々しい態度を見せるのはお前だけだ」
感謝しろ。何の躊躇もなくその言葉だけは言わなかった。だが俺はそれを掘り起こす。
「やめない、その“感謝しろオーラ”滅茶苦茶腹立つんだけどっ」
「アハハ、二人とも今はふざけている場合じゃ、ないと思うんだけどなぁ」
朝の陽射しが現実を垣間見させるように九条さんが一線引いた調子で割って入ってくる。口下手な俺にとってはある種の救済になった。
「な――っ!」
木崎の勝ち誇ったドヤ顔を垣間見た瞬間、くぐもった音色が室内を音響する。




