茫然自失の最中に
賑やかな場が一変して、天変地異の勢いで変わり果てた教室内は吹き抜ける風が共にあるように静寂な場所へと移り変わっていた。
「なんだ……?」
思考を巡らせるより先に口内から発せられた言葉はその空間の中ではやけに大きく振動し響き渡る。
茫然自失に陥りそうになるのを自我で堪え忍び驚きに変換させていた。殺風景な室内はあまりに寂しく孤独を思わせるぐらいに薄暗い。
視野に映る風景を脳が処理するには茫然が勝った今のこの近況では無理があった。
古びた床板は幾年も人の重量を支えてきたかの様に踏み出す度に悲鳴染みた軋みを上げる。
老朽化が味を出しているのか同様に縦に四列、横に六列に陳列した机も椅子も古風を漂わせて薄暗の中で存在を際立たせていた。
そんな中心に佇み。
「わあっ?!」
突如、背中から衝撃が襲った。体勢を前へと傾け、バランスを崩す。
「ひやっ!」
俺の驚きの声と共に嘲笑う様な美声が本気で楽しんでいるのが理解出来た。刹那的に起きた不可思議の中の出来事は無意識だった事態に動機を慌ただしくさせる。
「アハハ、花崎君っ、いまの驚き方良いよ! アハハ」
この造型されたかの様な無邪気さを含んだ声調と俺の事を知っているという観点を鑑みると自然と声の主が割り出せた。
背中を強烈に押し出され、手近にあった湿気で湿った木造の机を支えに振り返る。
「……九条さん、何てことしてくれんですかっ!? 微妙じゃすまないですよ、限りなくビビりましたよっ?! つか、笑わないでくださいよぉ……ああ恥ずかし」
「アハハ、もしかして漏らしちゃった?」
「んなこと、あるかっ?! それに女子なんですからそんな単語を易々と扱わないで下さい」
繰り広げたのはいつもの日常的な光景。いや日常的な対応なのかな。
硝子窓は前にいた教室と同様のものだったが額縁が木製かステンレス製かの違いで射し込む月光には違いは見られない。
先程は微塵とも考えなかったがこの教室での唯一の光明なのだと理解したのは背後から押し出してきた九条あおいの姿を見てからだ。
俺と木崎と同じく柔道部に入部していて九条さんにどんな感情があってかなのか組み手の相手はいつも俺だった。
そして、事実勝てないのだ。何故か俺は九条さんに。
そんな経験があるため俺は九条さんが身勝手に苦手であった。
小顔でセミロングで柔道着を着用するとコスプレだ。ハッキリ言って可愛い。
(他に可愛いやつがいるかもしれいが、微妙だな……)
俺は九条さんへと向き直り言葉を紡ぐ。




