修練場のそばにて
少し遅くなりました。
修練場の前には広場がある。
俗に言う野良試合や喧嘩をするためにも使う、野外練習場といったところだ。
ここが俺らの『定位置』である。
当たり前と言えば当たり前の話だが、俺たち補給部隊や衛生部隊は突撃部隊などに比べて軽視されがちだ。
必要経費ではあるが、戦果に比べたら莫大な金を食うのは否定できないしな。
ましてや戦線の「維持」という観念が抜け落ちている師団で純粋培養されたエリートが俺たちみたいな金食い虫をどんな目で見るかは、分かりきったことだ。
奴らから見た俺たちは、支給される武器の質を下げてる御荷物にしか見えてないだろう。
となると、差別されるのは当たり前。
冶金部隊(従軍鍛冶師団ですね)や訓練場などの独占は当たり前。
仮にも正規軍のはずなのに、
・殺すべからず
・奪うべからず
・犯すべからず
なんて傭兵の雇用契約書に載ってるような3箇条がデカデカと軍規になってるのはきっと無関係ではあるまい。
てな訳で、修練場に入った事があるのは我が隊の隊員の中ではケビン嬢だけだ。
時折修練場の方に顔を向けているのを見かけるが、かつての居場所を眺めているのか睨んでいるのかは俺にはわからない。
とりあえず俺がやることは、
「お、ケビン嬢、やってるかー?」
みたいに、鬼気迫る表情で素振りをしてる彼女に声をかけてやることじゃないかと思う。
「隊長、遅いです」
…模擬剣で俺を指すな。
…模擬剣とは金属製の剣の刃を潰したもののことだ。
鎖帷子を着けていても当然骨折するので、模擬戦は木製の武器を使うよう義務付けられている。
…訓練にかこつけて目の上のたんこぶの頸椎あたりを叩き折ろうとした馬鹿でもいたのだろうか。
とは言え頸椎骨折を後遺症も無く直すチート技術が存在するのでさほど心配も無い…とは思う。
「んじゃ、適当に切り上げてまた進軍路の練り合わせといきますか。
メンバーが3人しかいない以前にシェードは恒例のサボタージュみたいだし…。
何より、知り合いに会ったら面倒極まり無いしな」
「私は隊長の妙な顔の広さの理由が未だにわかりません…」
「…まあ、いいことばかりじゃないとは言っとく」
副官のくせにガチ前衛。
そこにシビれるアコガれるぅ。
主人公の位置や得物は…追々話します。