怪しきに近寄れば引っ張られるから
「つまり、違和感と嫌な予感がしたから逃げたって何度も言ってるだろう」
「そんなはずは御座いません。貴殿は鑑定眼、またはそれに準ずる能力を持っているはずです」
こちらは、砦の入り口にある応接室の一室。
ここで俺は質問攻めという名の尋問を受けている。
…だって後ろにあのマッチョコンビが後門の虎と言わんばかりに扉を塞いでるから。
そんな状況で俺と目の前の上品そうなおっちゃんとさっきの押し問答を繰り返してはや二刻、といった状況である。
何よりあのグルであろうお姉さんがいないから全くこの場に華がない。
うん、華がないとかじゃなく立会人もいないのよ。
このおっさん、猪にいくら積んだのか。
「だーかーら。知らないって言ってんでしょ」
鑑定眼ってあれだろ、モノや人物の情報を詳細に知ることができる能力だったはず。
確か勇者パーティには無くてはならない能力だった…はず。あのティソンドだったかが目利きをしてたようだから彼女が鑑定眼持ちなのかもしれないな。
つまり適性を持っている可能性があるというだけでこんなことをするあたり、適性を持った人間は少ない。まあ人材とかについて細かいことは知らないのだが。
拳闘士っぽいお姉ちゃん。後ろのマッチョ闘士っぽい二人。目の前の商人っぽいおっさん。
この中に一人、『見た目通りではない能力を持った者』がいる。じゃなきゃ俺をこんな確信を持ったように疑ったりするもんか。と思う。根拠はない。
…そりゃ立会人なんて付けられる訳はないわな。こんな決め付けで疑ってる理由を話すにあたって身分バレは必至だ。
多分無いとは思うのだが、勇者という身分・能力を隠して潜入まがいのことをしていたなら侵略と取られても仕方がない。
まあ勇者を定期的に呼び出して将軍や暗殺者のように使った、昔々の大馬鹿者が一番悪いのだけれども。
…まあ、目の前の連中の裏事情を聞いたらただ事じゃ済みそうにないし、ここはなあなあで流してお仕事に戻るのが賢い生き方というものだ。
「第一、俺には魔力がほとんど無いんですよ? それなのに鑑定眼とか魔法とか馬鹿馬鹿しい話ですよ」
「それはそうですが…」
自分で言っていて幾分悲しくなる。
まあサリ・カニュみたいなのは魔力量、加護の両方が優れているなんて例は稀で、魔力があっても加護がない、加護があっても魔力は雀の涙なんてのも恵まれているほうだ。俺はどうかって? 聞くな。
要は、加護ってエネルギーの変換効率みたいなものだとは思う。現に加護が無くても指先に種火を起こせる『魔力があっても加護がない人間』が知り合いに2、3人はいる、程度なぐらいでいる。
結論から言うと、俺が実用レベルどころか通常の魔法が使えない。ガス欠以前に魔力が無くちゃあね。自爆すらも出来やしない。
「…帰っていいすか」
「うむ…うむ」
どうやらおっちゃんは迷っているようである。何を迷っているのかは知らないが、適性が『武官と言うより文官寄り』な俺より近接戦闘で持久力と防御力がありタンク適性が図抜けたケビン嬢や、『戦う司令塔』の経験が多いティー嬢を誘ったほうがいいと思うんだがね。
どうせあの拳闘士っぽいお姉ちゃんを頭に据えるのは決定事項みたいだし。
「…仕方がない。長い時間拘束して申し訳ございませんでした」
「本当だよ、全く」
まあ、鑑定眼を持つ人間が稀少だってのはわかる。見つかるといいな。
「本当に申し訳なく…」
…あ、建前と本音が入れ替わっちまった。
「すいません、本音が出てしまって…見つかるといいですね」
「…本当に、鑑定眼を持っていないんですな」
「…くどいですよ。持ってるなら月給で稼がずにフリーになってますよ」
「…そうですよね。ご迷惑をお掛けしました」
なんか、面倒な縁ができた気がするが。
とにかく、昼前まで仕事をすること無く時間を潰せたのでこちらとしてはなんの文句もない。
ウチは肩身が狭いんだよな。主に猪のせいで。
なので、仲のいい同僚(と言うか構成メンバーが主に平民上がりの隊)以外とは顔を合わせたくない。面倒事はご勘弁だからだ。
とりあえず部屋に戻ってから昼飯だな。
しっしっと後門の虎には退いていただいて、マイルームに帰ることにする。
…あいつらが何者かは…、知らぬが華というやつだろう。